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シロ×クロ  作者: あらた
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第2章③ 夜の出来事

シロがスミレの部屋に上がり込み、夜が来ました。さて、二人に起こることは…

「…眠れない…」



スミレは月明かりしか入らない夜中の、何も映らない天井を見つめながら、もう何時間も、目を開けたり閉じたりを繰り返している。


見慣れた天井が、少し位置が変わるだけでこんなにも寝れないのか。



風呂騒動のあと、クロが持ってきた布団というものに寝てはいるが、固い床のせいで寝れないのか。



「ん〜っ」


いや…


人のベッドの上で、幸せそうな声をあげ、自分だけすやすやと眠るあの男のせいなのは間違いない。



「やっぱり、アヤメさんの部屋に行こうっと」

スミレは床に敷いた布団のセットを畳み、上着を羽織った。



「…」


ふと、シロの寝顔が気になる。


「…よだれ垂らしてたりして〜」



スミレはそっと近づきシロの顔をのぞきこんだ。


「ふふっ…」


この際弱点でも掴んでやる。

そんなつもりだった。



窓から入る少しの月明かりにシロの白い肌と髪が照らされ、その顔もはっきりと現れる。


静かな寝息が少しだけ開いた口から漏れ、柔らかくつぶられた目からは長いまつげが伸びる。


眉毛もきれいに整い、前髪が自然と横に流れる。

作られた人形のようにきれいな顔がそこにあった。


スミレは少年のように静かに眠るシロに見とれてしまう。


「かわいい顔…」



言葉が漏れる。



その言葉に反応したのか、シロの眉毛が少し動いた。


「いけないっ…」


起こしてしまうのは悪い気がしてスミレは自分の口を塞ぐ。


だが次の瞬間、シロの瞳がスミレを見つめていた。


「!」



「…なんだ?」


「あぁっ!!すいませんっ」


驚き慌てるスミレとは対照的に、シロは全く動かず、ただまっすぐにスミレの目を見つめている。


そして、また静かに目を閉じた。


そのまま、シロはゆっくりと聴き心地のいい寝息をたて始める。



「…びっくりした…あれ?寝ちゃいました?」


返事はない。


その表情は安心しきっているようにも見えた。


布団と一緒にクロがシロの枕を持って戻り、そのお陰で眠れているのだろう。



シロの寝顔を見ていると、自分も寝れる気がしてきた。



布団を敷き直そうとシロの横を離れたとき…



「つっ…うぅっ…」



静かだった部屋に突然、シロの苦しそうな声が響いた。


振り返ると、さっきまで幸せそうな顔で眠っていたはずのシロが、今度は苦悶の表情でうずくまっている。


手は必死に胸元を押さえ、額には汗が浮かんでいた。


明らかに普通でない状態に、スミレはシロの側に戻り背中に手を伸ばす。



「シロ様!?大丈夫ですか!?どこか痛みますか?」



返事の代わりに苦しげな息遣いが返ってくる。


「どうしよう…」



目の前のシロの異変が、あまりに突然すぎてどうすればいいのか。

ただ、苦しむシロを見ているしかなかった。


ふと、クロの顔が頭をよぎる。


「クロさんなら!!」



「…ま、て…」


「!?」


慌ててその場を駆け出そうとしたスミレの腕をシロが掴んだ。


「シロ様!?大丈夫なんですか?」


「…っ…大丈夫、だ…すぐ、治まる…はぁっ…」


「でも、辛そうです!!」



「静かに…してろ…」


押し潰されそうな苦しみに大きく声を出さないよう耐えるシロの手を、スミレが掴んだ。


「!?」


シロはその手を力強く握り返し自分の中の何か黒い存在を打ち消そうと悶える。


「シロ様…」



お互い、握る手に力が入っていた。




どれだけの時間が経ったかはわからない。



やっとシロの呼吸が整い始めた。

まだ身体に力が入らない。


苦痛からは解放されたが、しばらく放心が続く。


いつも通りなにも感じないと思ったときふと手が暖かいことに気づく。



この存在は、幻だと思っていた。


「スミ、レ?」


スミレは、シロの手を優しく握りそのままベッドに上半身だけ体を預け眠る。


シロはしばらくその寝顔を見ながら、そっと繋がれた手を放した。


そして軽くスミレの頭を撫でる。



シロの表情は安堵感で満たされていた。




「シロ様が!!」


シロの苦しむ顔が頭に浮かび、スミレは慌てて飛び起きる。



「あれ?」


いつもの朝の風景だった。


眩しい日差しがスミレの部屋に差し込む。


「…ベッドに寝てる…確かシロ様が…」


辺りを見回してもその姿はない。


昨夜の出来事を思い出しても、なんだか夢だったような気がしてきた。



しかし、この部屋では薫ることのないバラの香りが微かに広がっている。



ベッドにはその匂いが染み付いているように感じたが、それはどうやら風呂場の方から漂う匂いのようだ。



「まさか…」


その瞬間、風呂場のドアが開かれ、いい匂いのする湯気と共に人影が出てきた。


「ふぅ〜」



その人物は爽やかな声をあげ、バスタオルを腰に巻き、均整のとれた上半身の肉体を披露しながら、頭をタオルで拭いている。


濡れた白い髪が見え、タオルから顔を出した。


視線を感じる先を見る。


目が合った。



「い、いやぁぁっ!!」



見慣れないものを見てしまい、隠れるように布団を被るスミレ。


その声に驚き動けなくなるシロ。



「おっお前っ、いつの間に起きたんだ!?」


やっと状況を理解したシロがスミレに近づいてくる。


「来ないでください!!何か着てください!!」


布団の中から必死に叫ぶ。


「だから、さわぐなっ!!」


近くに裸の男がいる。


女だらけで旅をしてきたスミレには耐えられない光景だった。



しばらく時間が経つ。


スミレはシロが服を着たのか確認のため布団をそっと捲った。




「きゃーっ」


その前にはスミレの声にまた驚くシロの姿があり、下はどうやらズボンを履いたようだが、手にはシャツを持っている状態である。



シロの透き通るような白くきれいな肌が眩しい。



「の、覗くなっ!」


何故かシロも恥ずかしそうに慌ててシャツを羽織る。


「ののの覗いてなんかな…きゃーっ!!」


目のやり場がなく瞳をぐるぐる回すスミレの目の前にシロが近づいてきた。



まだ少し濡れた前髪が色っぽい状態のまま、スミレに顔を寄せ、困惑の表情を浮かべている。



「…頼む、なにもしないから…落ち着いてくれないか?」



幼い子供をなだめるような優しい口調のシロに、スミレもやっと我を取り戻した。



「うぅ…はい…」

小さく返事をする。




ふとシロのはだける胸元に目がいった。


肩から左胸にかけてなにか紋様のようなものが黒く刻まれている事に気づいたスミレはそれに手を伸ばす。


「触るな!!」

「?」



スミレが触れようとした瞬間、シロはスミレの腕をきつく掴んだ。


そして、スミレの瞳を覗く。


「…やはり反応したか」



シロの顔に影が落ちたようだった。





「い、いやぁぁぁっ〜!!どういうことですのぉ!!」



「!!」

「?!」



突然スミレの部屋の入り口から甲高い悲鳴が聞こえた。



二人は驚き振り向く。



そこには、慌ててドアを閉めるクロ。


そして、豪華なドレスを着込みきれいな金色の長い髪をまとめた、いかにもお姫様という雰囲気の人物が、目を見開き、今にも気を失いそうな様子でこちらを凝視していた。



「エリカ…」



「シ、シロ様…お許しください!」

クロが二人に向かって頭を下げている。



「は?何が…」


上着のはだけるシロ、布団に入るスミレ、見つめ合う二人…



お互いが今の状況を冷静になって考えたとき…



「きゃー!!」



ドンッ!!



「イタぁっ!!」



スミレが思いっきりシロをベッドから突き落とした。


シロは床に尻餅をつく。


「王子っ!!」

エリカと呼ばれた人物がすぐにシロに駆け寄り、スミレを睨んだ。


だが、スミレは恥ずかしさで布団を被って出てこれない。


「ほんと、お前、俺の事なんだと思ってるんだ…」



シロはぶつぶつ文句を言いながら腰に手を当てながら立ち上がる。


手を差し伸べるエリカは無視していた。



「王子…」


絞り出すような声をだし、エリカはシロを見つめている。


「あ、居たんだ…」


シロは気まずそうに小さくひとつ呟き一度深くまばたきをした。



「エリカ姫。お早いお着きでしたね。お疲れでしょう。この様なところをお見せしてしまい、申し訳ない。ただからかっていただけですよ。はっはっは。」



そういって、エリカの手を取りにっこり微笑む。


「…」

シロの笑顔にエリカは顔を紅潮させ、目を潤ませる。


「王子…私の方こそ突然押し掛けてしまい、声をあげてしまったこと、お詫びいたします。あまり、その…お遊びにならないでくださいね…」



「あ、単純…」


聞こえない声で、スミレは呟いた。


「エリカ姫。このような場所はあなたには似合いません。お部屋をご用意してますから、そちらへお越しください。クロ…」


シロはクロに冷たい眼差しを送った。

クロはバツが悪そうに目線を反らす。



「エリカ姫をご案内しろ」


「はっ。姫、こちらにございます」



クロは扉を開けエリカと部屋を出ていった。



二人がいなくなったことを確認すると、シロはあからさまに機嫌が悪い顔をスミレに向ける。



「クロめ、何故ここに連れてきたのだ!!しかも、せっかくの風呂上がり後の紅茶タイムも削ることとなったじゃないか!!」



そういいながら自分の服を着込む。

スミレがベッドから飛び起き、シロの上着を持ち、シロはそれに袖を通す。



「では、行ってくる」


「あ、はい、いってらっしゃいませ」



スミレの部屋のドアがしまる瞬間。


まるで夫婦のような会話だったかなと、お互い少し可笑しくなった。




ありがとうございました。

いきなりの展開!というか、シロ様全開…(笑)


スミレがかわいそう…


そんなこんなで次回をお待ちください!

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