第1章 光の足音
第1章 最終話です。
妖魔と対峙したスミレたちは無事に逃げられるのでしょうか?
激しい光の中を抜けると、アイリスが険しい顔でただスミレの手を引いていた。
「イキシアさんとさくらさんは!?」
スミレの問いには答えない。
捕まれた手からもアイリスの気持ちはわからない。
しばらくするともう一度爆音が響いた。
だがそれもすぐ収まり、街には静寂が戻る。
「どうして逃げるんですか!さくらさんの魔法でやっつけたんですよね!?」
無理をしてアイリスの早さについて走ったことで、スミレの息は切れ、額に汗が浮かんできた。
アイリスが走るのをやめる。
「…あれでは無理だ…」
「?」
「…あれではあいつの足止めにしかならない」
「え?」
「しかし、イキシアも、さくらもあんな妖魔には負けない」
「でも…」
自分が足手まといなのだ。
こんな作戦受けなければよかったと、後悔だけが胸を締め付けた。
「出会ってすぐには難しいかもしれないが、幾多の激戦をくぐり抜けてきたものたちだ、きっと合流できると信じてやってくれ」
アイリスはただ前だけを見て言った。
まるで、自分にいい聞かせるように。
だがすぐにまた不安がスミレの体を駆けた。
スミレの瞳が痛み出す。
同時にアイリスがスミレを隠すように前に立った。
「スミレ、この階段を下った裏手に城の中まで続く地下道がある…」
アイリスはスミレに目線だけで場所を指し示す。
「行けるか?城へ行き応援を呼んできてほしい」
目線の先には水路へ降りる階段がある。
ここからでは確認はできないが、疑っている余裕はない。
アイリスの背中はそれ以上は語らず、そこを動こうとはしない。
「…わかりました…」
スミレが足を向けた瞬間。
「あなたはこちらへ来るんですよ」
あの妖魔の声がすぐ近くで聞こえた。
「行けっ!!」
アイリスが足を止めたスミレの背中を押した。
次の瞬間、アイリスの手元からいくつものクナイが風を斬り、妖魔の元へ飛ぶ。
そのうちのいくつかは妖魔の後ろの壁に突き刺さり、いくつかは妖魔の手のひらから浮き出ている魔方陣に当たり、鉄の音を響かせ地面に落ちた。
「残念ながら、貴女と遊んでいる場合ではないんですよ。私の使命はその瞳の奪取。まさかそちらから来てくれるとはね…」
妖魔が手を振るとクナイのひとつがアイリスの肩に突き刺さる。
「くっ!」
「アイリスさん!」
「何をしている!早く!!」
「邪魔をするな!!」
妖魔はアイリスに向かって手をかざした。
そこから激しい突風が起こる。
アイリスは巻き上がった風と共に後ろへ吹き飛ばされ、建物にぶつかり、イキシア同様に瓦礫の下敷きとなった。
「アイリスさん!」
「ふふふっもう、君を守るものは何もない。ちなみに、他の人たちは来ないよ。君たちを見つけてすぐに外からは入れない結界をこの辺りに張らせてもらったから」
妖魔は陽気に話しながらゆっくりと歩いてくる。
スミレは迫り来る妖魔と間を空けようと後退するが、壁にぶつかってしまう。
もう逃げ場はなかった。
「はぁ…問題は君を連れていけないこと…その服が厄介だ…ん!そうか…」
急に妖魔の顔が喜悦に歪む。
「…頭を切り取って持っていくとしよう」
「!」
人を人とも思わない卑劣な顔を近くで見せられ、スミレは恐怖で言葉が出ない。
「貴女のその瞳、我が父が世界を手にいれるために使われるのだ。有り難く思いなさい」
妖魔が腕を伸ばしスミレの前に出す。
その爪は鋭い短剣のように変形した。
「観念しなさい…」
「こ、こんな瞳のせいで…私のせいで、イクシアさん、さくらさん、アイリスさんが…」
恐怖と悲しみで体は動かず、もうただ事が終わるのを待つだけだった。
目を瞑る。
涙がこぼれた。
体の中で膨らんでいた得体の知れない力は、諦めたスミレの心と同調し静かに治まっていく。
ふと、バラのような高貴な花の香りが通った気がした。
そうか、あの横暴王子の香りはバラだったのか。
急にどうでもいいことに気づく。
そんなことより、あの横暴王子のせいでこんなことになったんじゃないか?
なんだか、あの男に一言いってやりたい。
腹が立ってきた。
そんなことがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
そして、胸の奥からまた、あの力が湧き出してくるのがわかった。
スミレは目を開ける。
じわじわと瞳の光量が上がっていく。
その光の中から、声が聴こえてきた。
「観念するのは、貴様の方だ」
聞き覚えのある凛としたよく通る声。
幻聴だろうか?耳を澄ます。
「その女に手を出すな。そいつは、俺様のものだ」
「は?」
その台詞にスミレは目を見開くと同時に、光が消えた。
周りの様子が瞳に映り出される。
とりあえず、まだ、自分は生きている。
目の前にはまだ、妖魔が存在していた。
「!」
だが、その表情は苦悶に満ちている。
妖魔の手足は鎖のようなもので締め付けられていたのだ。
目の前の状況が全くわからない。
ただ、自分はいま無事でいる。
それだけで緊張の糸が切れると、急に体の力が抜け、地面に倒れそうになった。
「?」
だが、そのスミレの体を力強い腕がしっかりと受け止めた。
一瞬電気が通った気がしたがその腕の中で顔を上げる。
なびく黒い髪に、赤みを帯びた優しい眼差しがそこにあった。
「クロさん?!」
「すまない、遅くなった」
クロは反対側の腕にさくらを抱えている。
「さくらさん、無事だったんですね!」
「魔力の使いすぎで憔悴しきって気を失っているだけだ。休めば問題はない」
スミレの服からピリピリと電気が起こっている。
クロがスミレから離れた。
そして妖魔に目をやると、まだ、物体とも言えない鎖に体を締め付けられもがいている。
「イキシア回収」
声の方を見ると、大聖堂にいた長い髪を縛っている優しい笑顔の男が、イキシアを背負ってやって来た。
「アイリスも無事ですよ」
また違う声がした。
辺りを見回すと、スラッとした見たことのない男が、瓦礫の中から救出したアイリスを抱えこちらに向かう。
「お、お前ら…ど、どうやって結界内に…」
妖魔が声を絞り出す。
「ふん、これが結界だと?」
そして、さらにもうひとつの足音がコツリコツリ、ゆっくりと時間をかけながらこちらに近づいてきた。
暗闇の中、余裕と気品を辺りに撒き散らし、いかにも特別な存在をアピールするかのように、その声の主はスミレの前に姿を現した。
「…シロ様?」
そこには、あのシロが立っていた。
城の中での清楚な真っ白いマントではなく、正反対の真っ黒いコート。
それは王子と言うイメージを全く感じさせない出で立ちだった。
シロはそのままスミレの前まで歩いて来ると、スミレの頭に手を乗せ、白くきれいな指で涙の跡をぬぐう。
「悪かったな、怖い思いをさせて…」
そして優しく微笑んだ。
「よくも私の大切なものたちを傷つけてくれたな…残念ながら貴様にはここで消えてもらう」
シロは低い声で妖魔に向かって立ち、怒りを露にする。
一層きつく睨み付けると、妖魔の体に巻かれた鎖はさらに体を締め付けた。
「うがあぁぁぁ」
シロが手のひらを妖魔にかざす。
それだけで先程のアイリスのように一瞬にして妖魔は吹き飛び、遠くの柱に激突した。
さらにシロはかざした手を握る。
すると吹き飛んでボロボロになった妖魔が一瞬にしてシロの前に飛んできて、その前で止まった。
妖魔の襟を掴み、顔を近づけて怒りに満ちた表情を向ける。
「紛い物の鬼よ。貴様には見えぬのか?本物の妖気の恐怖が」
妖魔はあまりの力の差に絶望し、恐怖に顔を歪ませた。
「…お前…は…一体…」
「地獄へ堕ちろ!」
想像できるはずのない、シロの変貌に、スミレの背筋が凍てついた。
「あれは、本当にシロ様なんですか?」
クロに問いかけるが、そこには気を失い地面に倒れているさくらの姿しかなかった。
「があぁぁぁぁっ!!」
突然、街中に断末魔の叫びが響き渡った。
振り返ると上下に真っ二つに裂ける黒い影がビリビリと光を散らしている。
影はそのまま光と溶け合って、やがて静かに消えていった。
その向こうには真横に引かれた光の筋しかない。
光の筋を作り出していたクロの刀が、音もなく鞘に納められる。
「…倒した…の?」
スミレの声だけが街の音になる。
スミレたちに恐怖を与えた妖魔の姿はどこにもなかった。
通りの向こう側から、夜の終わりを告げる日差しが伸びてきた。
そこには『純正団』のメンバーと真っ黒な衣装に身を包むシロの姿がくっきりと浮かぶ。
朝焼けの輝きがシロのきれいな髪を照らした。
シロの体からはあの残虐な雰囲気は消え、ただ、優しく気品に満ちた笑顔を湛えながらスミレに近づいてくる。
シロがスミレの正面に立ち二人は見つめ合った。
「この国のために命を賭けてくれたこと感謝いたします」
スミレに頭を下げるシロ。
「お、遅いですよぉ〜」
スミレは、シロの態度から、確かに感じる安心感に涙が込み上げ、訳がわからなくなり、シロに飛び付こうと手を伸ばした。
「ちょっ!ちょっと待て!!」
そんな忠告も今のスミレには届かず、嬉しさのあまりスミレはシロに抱きついていた。
「うがあぁ〜っ」
シロとスミレに、服の効力の電気が走った。
「ああっ!すっ!すいません」
「恩を仇で返すなぁ!」
痛みに涙ぐみながら、シロはスミレの頭を掴み引き離した。
「ひどい…」
少し距離をとると、シロは体勢をたて直して、コホンと咳払いをひとつしスミレに向かって、手を差し出した。
「ふ、服の触れない部分なら、平気だろう。ありがとうな…」
赤みを帯びているシロの顔を見つめながら、スミレはそっとその手を握った。
「お役に立てて何よりです!」
その手は、少し温かく感じた。
第1章 完
シロ様は完全に、オイシイトコロを持っていきました。
スミレはこれを期に更にシロ様に振り回されていきます!!
第2章 更新をお待ちください!
ここまで、駄文でありましたが我慢してお立ち寄りいただき誠にありがとうございました!
まだまだ未熟な私をこれからも見守ってくださいm(__)m




