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無明の剣聖~両目を失明したけど夢を諦めきれずに剣を振り続けたら、いつの間にか“見える者”より強くなっていた~  作者: WING
第五部:迷宮攻略

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28話:どこか分からぬ底にて

 ――意識が、ふっと浮かび上がる。


 地面の冷たさが背に広がり、肺に溜まっていた空気が一気に吐き出される。

 僕は荒い息を吐きながら、ゆっくりと身を起こした。


 頭の奥がまだぐらぐらしている。

 転移トラップの影響で、倦怠感に襲われていた。


「……アリシア……」


 隣に、微かに聞き覚えのある規則的な呼吸がし、彼女は倒れていた。

 すぐに膝をつき、肩を揺する。


「アリシア、起きてくれ」

「……うっ」


 小さな呻き声がして、次いで、微かな咳払いをする。

 やがて彼女は瞼を開いたようで、顔を上げる気配を示した。


「……ここは……?」


 掠れた声。

 僕も同じ疑問を抱いていた。

 ゆっくりと立ち上がり、周囲に意識を広げる。


 そこは、先ほどまでいた迷宮の通路ではなかった。

 広い。天井が高く、壁の反響も深い。


 岩盤は湿り、遠くで水滴の落ちる音が絶えず響いている。

 しかし妙に開けた空間で、気配はどこまでも澱んでいる。


 アリシアも立ち上がり、剣を確かめる音が聞こえた。

 僕は眉を寄せ、呼吸を整える。


「転移トラップ……まさか血が媒介になって発動するとは……。ノクス、巻き込んでしまいすみません」


 謝罪する彼女に、僕は首を横に振る。


「気にしないで。僕も早く気付いていればこんなことにはならなかったはずだから」


 もっと注意深く魔力の流れに気を巡らせていれば、こんなことにはならなかったと思う。

 師匠に言えば、叱責されること間違いない。


「そう言っていただけると助かります」

「うん。それで、今いる階層だけど……」


 僕の呟きに、彼女は答える。


「転移トラップは、ランダムな階層に飛ばされます。ただ、構造上、上の階層ではないのは確かでしょう」


 アリシアはそう言って周囲を見渡す。

 空気を漂う魔力は、飛ばされる前より濃くなっている。

 つまりは、魔物も強くなっているということだ。


「……まず出口を探そう。このままじゃ何階層に飛ばされたのかもわからない」

「ええ」


 僕の言葉に彼女は同意し、歩を進めることにした。


 魔力を探りながら、耳に響く全てを地図に変える。

 苔の匂い。岩壁のざらつき。微かな風の動き。

 どれも異質で、上層の迷宮にはなかったものだ。


 嫌な予感が、胸を締め付けて離さない。


 ――そして、それは現実となった。


 不意に空気が濁り、魔力の流れに変化が起きる。

 僕が足を止めると、アリシアも同時に足を止めた。


「ノクス?」


 かすかな音の反響、魔力と気配、敵意がビシビシと伝わって来る。


「敵だよ」

「――ッ!」


 僕の声に、アリシアは剣に手をかけた。

 現れたのは、四つの気配。


 その重さと鋭さは、今までのゴブリンや小型の魔物の比ではなかった。

 獣のような咆哮が響き、牙の擦れる音が耳を裂く。


 二足歩行の魔物が、四体、僕たちの前に立ちはだかる。

 視界は闇のままでも、気配の重さでその存在を否応なく知る。

 筋肉のうねり、息づかい、武器の金属が微かに震える感触——それぞれが独立した存在感を放ち、四方から押し寄せる圧力が肌を突き刺す。

 獣のような咆哮が空気を振るわせ、牙の擦れる音が鼓膜に刺さる。

 魔力の微かな波動が絡み合い、四つの異なる戦意が僕に迫ってくる。

 目が見えなくても、僕は知っていた——この四体は、今までのゴブリンや小型魔物とは比べ物にならないほどの危険を孕んでいる、と。


「……っ、これは……!」


 アリシアが息を呑み、小さく息を吐き、口を開いた。


「学園で教わった魔物とは違います。四十階層までの魔物に、あのような魔物は書き記されていませんでした」


 それが意味することは一つ。


「四十階層以降のどこか、か……」


 そんなに深い場所に飛ばされたのか。

 最悪、五十階層以降だってこともあり得る。


 その事実に思わず喉が乾く。

 だが、今は逃げる場所など、ありはしない。


 僕とアリシアは同時に構えを取った。

 瞬間、四体の魔物が一斉に襲いかかってきた。


 刃と刃が、空気を震わせる。

 四体の魔物は、上層で遭遇した敵とは比較にならない。力のうねり、秘める魔力の多さ、牙の響き、すべてが凄まじい速度で襲いかかってくる。


 最初の一撃、僕は〈静刃〉で身を鎮め、体を預けるように刀を振った。

 触れる間もなく、斬り裂かれる気配。

 肉の感触、破れた衣の摩擦。全てが音となり、痛覚となる。


 ――だが、防げた。


 そしてすぐに反撃。

 返す刀が魔物の首を断ち斬り、一体目を倒す。


 しかし、次の瞬間だった。

 横合いから迫る二体目の腕が、僕の体を宙に飛ばした。

 岩壁に叩きつけられ、手足に痛みが走る。

 息が抜け、視界は闇のまま。


「あがっ……っ、ぐ……!」


 痛みに顔を歪めながらも、意識はアリシアへ。

 すぐに彼女の呼吸、剣を握る手の微かな震えを感じ取る。

 敵を斬り払い、駆け寄る気配。


「ノクス!」


 彼女の声が胸に響く。

 身体を支え直し、刀を握り直す。

 再び立ち上がり、残る二体に向き合う。


 互いの気配を背中で確かめ、呼吸を合わせる。

 声なき指示。

 視線の代わりに、気配の波紋で互いの意図を読み取る。


「大丈夫。行くよ」

「ええ!」


 一瞬の隙も許されない。

 互いに一歩ずつ踏み込み、刃を交差させる。

 鋼と肉の衝突。魔力がぶつかり合い、空間そのものが震える。


 息を切らしながらも、僕は感覚を研ぎ澄ます。

 敵の一体、間合いの変化、微かな呼吸の乱れ。

 盲目の世界は、逆に全てを明確に映し出す。


 得物と剣が交わり、火花のように音が散る。

 アリシアの鋭い一閃が一体を貫き、残る敵は二体。

 僕は一歩、二歩、斬り込む。気配を裂くように、刃先に魔力を集める。

 魔物が僕の間合いへと、その一歩を踏み入れた。

 瞬間、僕は刀を抜刀した。


「――〈一ノ型・紫電〉!」


 稲妻の如き速さで敵の首を断ち斬り、二体目が崩れ落ちた。

 同時に、アリシアも魔物の心臓を突き刺し、倒していた。

 倒れた魔物は、魔石と牙だけを残して消滅する。


 呼吸を整える暇もなく、互いに疲労が忍び寄る。

 胸を打つ鼓動、手に残る振動、足元の微かなずれ。


 しかし、ここで立ち止まって休憩をする余裕はない。一刻も早く、地上へと帰らなければならない。

 食料も少なく、節約しても二週間が限度だろう。

 上への出口を探さなければ、ここからは脱出できない。下に行くなど、論外。

 今の僕とアリシアの二人でこの迷宮を攻略など、正気の沙汰じゃない。


 互いに軽く頷き合い、探索を再開する。

 魔物の気配は至る所から漂い、物陰に潜んでいる可能性がある。

 上への階段を探し、一歩ずつ慎重に、しかし着実に進む。


 疲労が筋肉を重くする。

 しかし僕は、刃を振るう喜び、戦い抜く緊張の高揚を胸に、歩を止めない。

 アリシアも同じだ。

 剣を握る手に力は尽きず、互いの気配が支えとなる。


 ここから先も試練の連続であり、上層への道は遠く、魔物も増えるだろう。

 だが、僕たちは確かに前へ進んでいる。





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