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無明の剣聖~両目を失明したけど夢を諦めきれずに剣を振り続けたら、いつの間にか“見える者”より強くなっていた~  作者: WING
第五部:迷宮攻略

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25話:迷宮への扉

 石畳を踏む音が、幾重にも重なって反響していた。


 王立セレナス学園の裏手――迷宮の入り口に通じる広場は、生徒たちのざわめきと興奮に満ちていた。


 風が頬を撫でる。

 若葉を透かしてきた風は、淡く冷ややかでありながら、ほんのり甘い樹液の匂いを運んでくるかのよう。

 その気配を受けながら、僕は周囲の空気を感じとる。

 みんなの胸は高鳴り、足元は落ち着かず、期待と不安が交互に渦を巻いていた。


 僕の心臓もまた、同じように脈打っていた。

 目には見えなくても分かる。

 ここから先が、僕たちの〝未知〟へと続く扉なのだ。


「静かに」


 アーベル先生の低い声が響いた。ざわめきがすぐに静まり返る。

 先生の足音がゆっくりと前へ進み、僕たちの正面に立つ気配が伝わってくる。


「今回の実習は、迷宮探索だ。二人一組で潜り、三日間でどこまで進めるかを試す」


 その言葉は、冷たい風よりも鋭く胸を突き刺す。

 師匠が語った迷宮。

 それが今、僕の目の前に存在している。


「パートナーは公平に決める。……これだ」


 紐が束になって擦れる音が聞こえる。

 先生の手に握られているのは、何本もの紐だった。

 端には番号が記され、それぞれが組み合わせになるらしい。


「順番に引き、同じ番号で二人一組を組むように」


 促され、生徒たちは一人ずつ前に出ていく。

 手を伸ばす気配、紐を引き抜く音、それに続く小さな笑いや溜め息。

 その波が、僕の番へと少しずつ近づいてくる。

 順番が回ってきた僕は、紐の端をそっと掴む。指先に伝わる粗い感触。

 引き抜くと、手のひらに小さな札が触れた。


 僕は目が見えないが、それでも文字などは視ることができる。

 なので、確認しようとしたら、カイゼル君がやって来て僕の番号を見た。


「ノクスの数字は十二か。俺とは違ったな。一緒なら楽しいと思ったのにな」


 カイゼル君が残念そうに言葉を漏らす。

 同じ番号を持つ相手が誰なのか、声を出そうとして……。


「……ノクスは私と一緒のようね」


 澄んだ声が、すぐそばから聞こえてきた。

 気配の輪郭はすっと伸びやかで、立ち姿に凛とした強さが宿っている。


 どうやら、僕とペアになったのはアリシアのようだ。

 彼女は礼儀正しく一歩近づき、短く言った。


「よろしくね」


 その声音は冷ややかではなく、澄んだ湖面のように落ち着いている。

 僕は深く頭を下げた。


「こちらこそ、よろしく」


 一瞬、間を置いてから彼女が口を開く。


「……実技では大丈夫なようだけど、その、迷宮では目は大丈夫なの?」


 彼女の問いには、僕に対する侮りや憐れみはない。

 ただ、仲間としての確認と責任感。そして、心配ゆえに出た言葉なのだろう。


「問題ないよ。目が見えないかわりに、色々なものが視えるからね」


 僕の返答に、彼女は小さく息を吐いた。


「……ならいいわ。ただし――無茶はしないように」


 言葉は冷静で、だが芯には確かな温かさがあった。

 僕は素直に頷いた。


「うん。心配してくれてありがとう」

「これから背中を預けることになる仲間を心配するのは当然のことよ」


 声から若干の恥ずかしさを感じ取る。

 アリシアの言葉に頷いた直後、背後から軽やかな笑い声が届いた。


「へえ……ノクスと組むのはアリシア様か。これは面白い組み合わせだな」


 どこか愉快そうにそう言ってきたのはカイゼル君だ。

 いつも真っ直ぐで、言葉に飾り気がないからこそ、余計に揶揄いが混じると目立つ。

 だが、Aクラスのみんなは、カイゼル君の人となりは理解しているからこそ、その言葉に悪意などがないことはわかっている。


「アリシア様。相棒がノクスなら覚悟が要しろよ。ノクスは剣のことになると馬鹿になるからな」


 クラスメイトたちの間からクスクスと小さな笑いが漏れ、「ノクスだしな」「ノクス君、剣のことになるとね~」など肯定する言葉がちらほら。


 みんな僕のこと剣術馬鹿とでもいいたいの? ……まあ、間違ってはいないけどさ。


 アリシアはむしろ、凛とした気配がすっと立ち昇る。


「……軽口を叩く余裕があるのなら、自分の足元でも確認しておいた方がいいわよ」


 その声は氷の刃のように鋭く、それでいて濁りがない。

 笑っていた周囲が一瞬で静まり返る。

 気配の流れで分かる。カイゼル君が一歩、肩を竦めるように引いた。


「はは……王女様は相変わらずだ。怖い怖い」


 彼が軽く手を上げて降参の仕草をした気配が伝わり、再びざわめきが戻ってくる。

 アリシアは溜息を吐き、「まったく」と小さく呟いていた。

 彼女も彼女で、カイゼル君のことを認めており、仲間として大切にしているが伝わってくる。


 僕の胸の奥は、不思議と温かかった。

 目に見えなくても分かる。

 ただ仲間として、真っ直ぐに向き合おうとしてくれている。


 そんなやりとりの最中、アーベル先生の足音が石畳を踏みしめ、正面に戻ってきた。

 声が落ち着いた響きで、しかし鋼のように引き締まっていた。


「いいか、お前たち。迷宮というものは、ただの実習場ではない。過去に記録されていない罠が新たに発見されることもある。時に、予測不能の〝イレギュラー〟が起こることがある。過去にはここで死者も出ている」


 ざわめきがまた低く揺れる。

 僕の胸の奥も小さく脈打った。

 師匠の声が脳裏を過る。


『迷宮は生き物のようなものじゃ。慢心すれば喰われると思え』


 先生は言葉を続ける。


「死を恐れるなとは言わない。少し恐怖が、生存へと繋げることにもなる。お前たちはすでに学園で基本を学んでいる。三日間を無事に過ごす力は備わっているはずだ。もちろん、その都度戻るもよし、そのまま三日間潜り続けるもよし」


 その言葉に、空気の中の熱が少しずつ高まっていくのを感じた。


 ――挑戦の灯。


 それは恐怖と隣り合わせで、だからこそ鮮烈に燃える。


「諸君には三日分の食料を支給する。それを携え、各自の責任において迷宮に挑め」


 足元に置かれた木箱が開けられる音がした。

 乾いた布袋の擦れる音、硬いパンや干し肉を確かめる気配。


 僕も手を伸ばし、袋を受け取る。

 中身の重みが手のひらにずしりと伝わり、それがそのままこれからの三日間の現実の重さのように感じられた。


「三日後までに戻らない場合は、何かあったとみて救援を向かわせる。私からは以上だ。皆が無事に戻って来ることを願う」


 アリシアの気配が、隣で静かに整えられている。

 背筋を伸ばし、呼吸をゆっくりと整えているのが分かる。

 彼女の準備に合わせるように、僕も刀の柄に触れる。


 ――いよいよだ。


 胸の奥で何かが強く跳ねた。

 師匠がもしここにいたなら、きっと笑いながら言うだろう。

 「剣を愛するお前にとって、迷宮ほど学びに満ちた場はない」と。


 僕は唇の内側を軽く噛み、心の中で呟いた。


 見ていてください、師匠。

 僕は、ここからもっともっと強くなって、いつかあの(ソラ)を斬って見せますから。


 そして、閉ざされた扉が開かれ、僕たちは迷宮へと歩を進めるのだった。


最後までお読みいただいてありがとうございます!


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