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無明の剣聖~両目を失明したけど夢を諦めきれずに剣を振り続けたら、いつの間にか“見える者”より強くなっていた~  作者: WING
第五部:迷宮攻略

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24話:新たな挑戦

第五部突入~!

 王立セレナス学園入学から二ヵ月が過ぎた。


 初めて学園の扉をくぐったあの日から、僕はずっと剣を握り続けていた。

 朝の光が石畳を照らし、魔力と気配、風が交わる廊下を、僕は無意識に足の裏で視るように歩く。

 クラスメイトたちの呼吸、靴底が床を擦る微かな音、衣擦れの音が重なり、教室は小さな波のようにざわめいている。


 この二か月で、僕は少しずつ仲間たちを理解し、彼らもまた僕のことを知ってくれた。

 友人もたくさんできた。


 カイゼル君もその一人だ。

 当初はカイゼル君の態度に、クラスメイトたちは苦手意識を向けていたものの、日々の学園生活で、みんなからの評価は『良い奴』となっていた。

 実際、彼は優しく思いやりのある男なのだ。

 なので、彼の挑発的な言葉は、今では笑い話にされている。


 そんなある日のことだった。

 授業が終わり、ざわめきが少し落ち着いた頃、アーベル先生が教室に立った。


「少し聞け」


 低く落ち着いた声。

 だが、言葉の重みがいつも以上に教室に染み渡る。

 僕の胸の奥で、何かが小さく跳ねた。


「今回の課外授業は、迷宮での実習だ」


 ざわめきが一瞬で広がる。

 床板を踏む靴の音、息をのむ気配、魔力の微かな震え――すべてが伝わってくる。


「この学園に迷宮があることは知っているだろう?」


 僕は頷き、みんなも同様に頷く。


 ――迷宮。

 世界には、誰も手をつけられない魔境が点在しており、生き物のような場所。

 それが迷宮だ。


 中では魔物が絶えず湧き出し、倒せば魔石や希少素材を残す。

 構造は大体決まっているが、壁が崩れれば自然に直り、道も少しずつ変わる。

 まるで迷宮自身に意思があるみたいに。


 階層は一階層から始まり、深くなるほど魔物は強くなる。

 十階層ごとに迷宮主がいて、最深部は百階層を超えることもあると聞く。

 安全地帯があり、炎や氷の階層など、環境そのものが脅威になる場所もある。


 冒険者が存在し、彼らはギルドに所属し、迷宮に挑み魔石や素材を集めて生計を立てる。

 迷宮に潜ることは名声やランクにも直結する。


 しかし、迷宮にも危険が潜んでいる。

 それは、迷宮が暴走して魔物が外に溢れ出すことだ。

 他にも、階層の均衡を壊す変異種(ミュータント)と呼ばれるイレギュラーの存在だ。

 突然変異した魔物は通常の数倍から数十倍の力を持ち、異様な姿や能力を示す。倒すのは危険極まりないが、その報酬は希少な魔石や素材で、冒険者にとっては勲章となるという。


 師匠が腕試しで、その変異種(ミュータント)を倒したことがあるとか。

 これらの情報も、すべて師匠が昔話ついでに話してくれた。

 その時に師匠が僕にこう言ったのを覚えている。


『ノクスよ……迷宮はな、ただの危険な場所ではない。己の腕を、技を、魂を試すための舞台じゃ。ワシは長きにわたり戦場で生きた。だが、迷宮に潜れば、戦場と同じ熱さで、己の限界と向き合える場所でもある』


 恐ろしくも、ワクワクする。僕も、あの場所へ行ってみたい。自分の力を、試してみたい。

 初めてその言葉を聞いた時、僕はそう思った。

 そして、その日がついに来たのだ。


 師匠のことを思い出していると、アーベル先生の声で現実へと引き戻される。


「お前たちは三日間で、どこまで攻略できるかを競うことになる」


 言葉の一つ一つが、僕の想像力を刺激する。

 目には映らなくても、空間の奥行き、壁の硬さ、階段の角度――感覚で視る世界が、胸の奥で色鮮やかに広がる。


「魔道具では、この迷宮は六十階層と出ている。生徒の最高到達階層は中層の三十階層。過去には冒険者が下層の四十階まで確認している」


 迷宮は、上層、中層、下層、深層、超深層、深淵と別れている。


 1階層から15階層が『上層』。

 16階層から30階層が『中層』。

 31階層から50階層が『下層』。

 51階層から70階層が『深層』。

 71階層から85階層が『超深層』。

 86階層から100階層が『深淵』。


 これが一般的な区分とされており、いまだ深淵に辿り着いた者は存在しないとされている。


 近年では、魔導技術の進歩で何階層まであるか判断できる魔道具が作られた。

 その魔道具によると、この学園の迷宮は全六十階層と出ているらしい。


 数字だけでも胸が熱くなる。

 挑戦、未知、試練――剣を握る者にとって、これほど心躍る状況はない。

 一人のクラスメイトが手を上げた。


「先生……一人で行くんですか?」


 声は少し不安混じりで、だが好奇心も含まれている。

 アーベル先生は静かに、しかし確実な口調で答える。


「二人一組だ。相手はくじでランダムに決める」


 教室に一瞬の沈黙が走り、そのあと笑い声や歓声がわき上がる。

 くじ引き――運命の相手を知る、その瞬間を待つ期待感が、教室を満たす。

 僕も心の奥で小さく跳ねた。


 ランダムか……誰と組むことになるのだろう。


 魔物という未知の敵、迷宮という未知の世界、迷宮という未知の挑戦。

 胸の奥が熱くなる。

 剣を握る手が、無意識にそっと刀に触れる。


「当日にくじを引く。今日はここまでだ」


 解散の合図が、ざわめきの中で静かに響く。

 クラスメイトたちはわずかに足を踏み鳴らし、互いに顔を見合わせて興奮を語り合う。


「おい、迷宮だってよ! ついには入れるんだな!」


 前の席にいる男子が声を張り上げる。

 隣の女子は「楽しみだけど、ちょっと怖いかな」と顔を心情を語る。


 僕は、つい微かに笑みを漏らし、胸の奥が熱く、期待で震える。


「……迷宮か。楽しみだな」


 思わず口に出してしまった。

 無意識に刀に手を触れ、指先で柄を確かめる。

 感覚だけで空間を視る僕の世界が、一層鮮やかに色づく瞬間だ。


「ノクス。お前まで興奮してるのか」


 隣でカイゼル君が笑う。


「そりゃあ……。迷宮に入れるんだから、当然だよ」


 僕は素直に答えた。

 視えなくても、剣を握る手が今の自分を肯定してくれているようだった。

 その一方で、僕とカイゼル君の会話を聞いていたアリシアは淡々としていた。


「喜び過ぎよ。迷宮は危険なのよ?」


 彼女は軽く肩を竦め、顔にほとんど感情を浮かべずに言った。


「まあ、それはそうだけど……でも、僕にとっては未知の挑戦なんだ」

「そう。でも、その好奇心が他者の命を晒すことにもなるのよ」


 アリシアはすぐに目線を前に戻す。

 その言葉に、周囲の子たちは少ししゅんとなるが、逆に彼女の落ち着いた態度に感心している様子もあった。


 忠告をしてくれたアリシアには悪いけど、僕はワクワクしているんだ。


 迷宮の階層はどんな姿をしているだろうか。

 罠の位置、敵の数、魔力の流れ――僕の感覚は、すでに仮想の迷宮を描き始めていた。

 目に見えなくても、剣を握る感覚だけで、僕は視ることができる。

 そしてその感覚が役立つことを、心の奥で確信していた。


 校舎の外、柔らかい風が廊下に差し込み、遠くの鐘が穏やかに鳴る。

 その音の奥で、僕の胸の奥にもう一つの鼓動が重なった。


 ――さあ、迷宮だ。未知の戦いが、新たな挑戦が、僕を待っている。





最後までお読みいただいてありがとうございます!


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