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無明の剣聖~両目を失明したけど夢を諦めきれずに剣を振り続けたら、いつの間にか“見える者”より強くなっていた~  作者: WING
第四部:王都セレナス学園入学

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23話:遥か先の夢のために

 朝の学園は、まだ柔らかい光に包まれていた。

 石畳に朝露が残り、足音を吸い込む湿った空気が肌に心地よく触れる。

 鳥のさえずりや、魔力で目覚めた植物のざわめき、遠くの鐘の音。それらが混ざり合い、まだ眠気の残る学園に独特の緊張感を作っている。


 僕は軽く肩の力を抜き、校舎へ向かう。

 石畳の微妙な凹凸を足裏で確かめながら歩く。

 周囲の気配が少しずつ増え、同級生たちの姿や足取り、話し声の距離が明確に浮かぶ。

 心臓が少し速く打ち始める。


 今日、初めてこの場所で剣を振る日だ。

 教室に入ると、すでに数名の生徒が集まっていた。


 ざわめきや衣擦れの音が、緊張と期待の混じった空気を作る。

 その中の一人、背筋の伸びた少年が近づいてきた。


 魔力と気配、声から判断するに、自己紹介で傲慢さを隠そうともしなかったカイゼル・ドレヴァンだ。

 彼は皮肉っぽい笑みを浮かべた声で言う。


「ノクス、だったな」

「うん。カイゼル君だったよね」

「よく覚えていたな。それで、お前は盲目で我流なんだって?」


 軽く耳を傾けると、周囲の生徒の気配に微妙な変化があった。

 好奇心と、少しの警戒。


「そうだね」


 カイゼル君の言葉に、僕は眉を顰めることもなく肯定する。

 そして、ただ静かに心の中で剣への想いを確認する。


 ――目が見えなくても、剣を振る情熱は変わらない。

 ――誰よりも、僕は夢に向かって剣と向き合ってきた。


 軽く息を吐き、腰の刀に手を添える。

 その微かな冷たさが、胸の奥で膨らむ熱をさらに固めるようだった。


「はっ、面白いな。実技、楽しみにしてる」


 カイゼル君が去ってすぐ、教室の扉が開く。

 アーベル先生の気配がすっと流れ込み、床や壁を伝って僕の感覚に届く。


「揃っているな。では、実技訓練棟に移動する」


 低く落ち着いた声。

 アーベル先生の後に従い、僕たちAクラスは移動を開始する。

 訓練棟に移動すると、室内の開けていた。


「では、各々用意されている木剣を手に取れ」


 用意された木剣は、剣であり、刀ではない。

 刀だと意識して使ってみればいいだろう。


「では、二人一組を作れ」


 するとカイゼル君が僕に「一緒に組まないか?」と声をかけられた。

 断る理由は見つからないので、カイゼル君とやることに。


「カイゼル君、よろしくね」

「ふん。俺が直々に実力を確かめてやる」


 最初は僕たちの番からとなった。

 僕は木剣を手に取り、立ち位置を確認する。

 床の感触、木剣の柄の冷たさ、隣のカイゼル君の気配――すべてが頭の中で立体的に形を成す。目は見えないが、空間は明瞭に把握できる。


「準備はいいか?」


 カイゼル君が低く問いかける。声には挑戦的な色が混じっており、僕は軽く頷く。

 風が剣先を掠めるような音と共に、二人の呼吸が一瞬重なる。


 木剣の軽い衝撃が腕に伝わる。

 初めの数回の打ち合いで、僕はカイゼルの呼吸、微かな足の動き、体重のかけ方まで感じ取った。


 ――これだ。


 心の奥で、血が熱くなるのを感じる。

 剣を振る感覚は、目に映るものよりも確かな感覚だ。

 相手の意図を読み、タイミングを合わせ、軌道を外さず打ち返す。

 カイゼル君が一瞬、戸惑う気配を見せる。


「……お前、見えないのに、随分正確だな」


 皮肉混じりの言葉に、驚きと感嘆の色が混じるのがわかる。

 僕は答えず、ただ木剣を構え直す。


 打ち合いを重ねるうちに、カイゼル君の攻撃が次第に柔らかくなる。

 挑発的だった気配が、少しずつ敬意に変わっていくのが分かる。


 短い間合い、微細な呼吸の変化、体の重心――僕は目ではなく、感覚で世界を“視て”いる。

 最後の打ち合いで、カイゼル君の木剣がわずかに止まる。


「……認めるよ、ノクス。見えなくても、これほど扱えるとはな」


 初めて、目が見えない僕に対して、真正面から認める言葉を受け取った瞬間だった。

 胸の奥で、熱いものが静かに膨らむ。


 ――これが、剣を通して得られる信頼だ。


「それまで!」


 アーベル先生の声で、僕とカイゼル君は木剣を下ろす。

 握る手の感触と呼吸の乱れ、周囲のざわめき――すべてが、僕に現実として届く。

 カイゼル君は少し笑みを浮かべ、肩の力を抜いた。


 その目の前の感覚を、僕は確かに心に刻んだ。

 今日の勝負は、僕にとって技術だけでなく、剣士としての自信を深めるものだった。

 胸の奥で膨らむ高揚と誇りが、確かな力となって体を満たす。

 それから他のクラスメイトの模擬戦形式の試合が行われる。


 アリシアの番となり、その気配は鋭く、研ぎ澄まされていた。

 模擬戦は一瞬で決着が着き、誰もがアリシアの実力に驚いていた。


 そんな驚きと尊敬あアリシアに注がれたまま、実技が終わると座学が始まる。

 机に置かれた書物の気配や、クラスメイトたちの呼吸、微かな魔力の波動を感じながら、授業に集中する。


 周囲の生徒たちとの軽いやり取りもあり、冗談交じりの会話に微笑む気配や、互いを気遣う温かさが伝わる。

 僕が目が見えないことを気にかけて、声をかけてくれる生徒もいる。

 自然と会話に参加しながら、学園生活の感覚が少しずつ身体に染み込む。


 放課後、訓練場はひっそりとしていた。

 木の床の感触が足裏に伝わり、微かな風が剣に触れ、空気が静かに揺れる。


 木剣を握る手に集中が宿るたび、世界は僕と剣だけのものになる。

 振るたび生まれる呼吸と重心の対話。軌道の一点まで、手のひらで理解できる。


 ――そのとき、柔らかな気配が横から近づいた。


「ノクス。あなたの剣筋、とても繊細で、美しいわね」


 短い言葉なのに、温度が心に届く。胸の奥が小さく高鳴った。

 目の前に立つのはクラスメイトであり――王女アリシアだ。


「ありがとう……でも、まだまだ師匠には及ばないよ」


 自然に口をついて出た言葉。脳裏には、師匠ゲンサイ・アカツキの姿が鮮やかに浮かぶ。

 戦場で自らの剣術を編み出し、剣に魂を宿らせる人。

 僕は師匠の剣術に『天幻流』と名を与えた。


「師匠って……?」


 アリシアの声に、好奇心と優しさが混ざる。軽やかで、真剣だ。


「東の島国の出身で、僕と同じ夢を抱き、独自の剣を編み出した人だよ。僕はこうして振るたび、師匠の魂を感じている」


 言葉に込めると、胸の奥で思い出が揺れる。

 師匠の教え――


『剣は生きている。振るう者の魂が宿らねばならん』


「だから……まだ未熟だけど、少しずつ師匠に近づいている気がする。夢に一歩でも近づくために」

「……あなたが言う、師匠と同じ夢って……?」

「僕と師匠の夢は――」


一呼吸置き、僕は告げた。


「【天斬りの剣聖】のように、いつかあの(ソラ)を斬ることなんだ」


 アリシアから驚きが伝わる。


「お伽噺の……」

「うん。だから諦めずに、剣を振るう。師匠も僕と一緒に、夢を目指してくれているんだ」


 アリシアは目を細めて微笑む。


「……そう。あなたの剣からは、想いと魂が伝わってくる」


 純粋な賞賛。

 それだけで、胸に深く響く。

 彼女はそう言うと、静かに去って行った。


 その背を見送り、僕は小さく息をつき、木剣を再び振る。

 風が刃を撫で、床に響く音が僕と剣の対話を増幅させる。

 アリシアの存在を感じながらも、心は師匠の教えと共に集中する――まだ届かぬ夢に向けて、今日も剣を振るのだ。


最後までお読みいただいてありがとうございます!

これにて第四部完結です!

明日の更新もいつも通り三本でお送りします。


【私から読者の皆様にお願いがあります】


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と少しでも思っていただけた方は


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