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無明の剣聖~両目を失明したけど夢を諦めきれずに剣を振り続けたら、いつの間にか“見える者”より強くなっていた~  作者: WING
第四部:王都セレナス学園入学

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22話:Aクラス

 入学式が終わり、新入生は教室に移動した。


 教室に入り席に座り、背筋を正して静かに呼吸を整える。

 ほどなくして、扉が開く音が響いた。

 硬質な蝶番がわずかに軋み、革靴が床板を踏み締める音が、教室の空気を揺らす。


「静粛に」


 澄んだ低音が教室に満ちる。

 ただ大きいだけではない、重みと芯の通った声。

 剣を長く振り続けてきた者に特有の、無駄な揺らぎを含まない響きだ。


 教師――担任となる人物の気配は鋭い。

 だが、刃のように尖らせてはいない。あくまで磨き上げられた刃を鞘に収めるような、節度ある強さだった。


「本日より諸君らを受け持つこととなった、アーベル・グラントだ。以後よろしく頼む」


 彼は壇上に立ち、名乗りを上げる。

 その声の響きが床を伝い、壁を這い、僕の感覚に確かな輪郭を描き出す。

 背は高く、肩は厚く、呼吸の深さから見ても体はよく鍛えられている。


「ここはAクラス。入学試験の成績上位の者たちが集められている。言うまでもなく、最も期待される者たちだ」


 周囲の生徒たちが息を呑む気配が走る。

 静かな誇らしさと、わずかな緊張感。

 僕の胸の奥でも、熱がひとつ高まった。剣を振り続けてきた日々の先に、いよいよ新しい戦いが始まろうとしている。


「もっとも、この学園は身分や出自に関係なく、剣と魔法を学ぶ者に等しく門を開いている。貴族だろうと平民だろうと、ここでは関係ない。ただ実力のみがすべてを決める」


 言葉に込められた確信の力が、肌を震わせる。

 僕は小さく頷いた。

 余計な先入観なく、ただ剣を通して互いを知り合えるのは、とても素晴らしい。


「諸君らは剣か魔法、どちらかを主として学ぶことになる。己の資質を見極め、道を選べ」


 僕にとって選ぶ必要はなかった。剣だ。

 刀を握る手に、自然と力がこもる。


「では、順に自己紹介をしてもらおう」


 担任の言葉に、前列から順に立ち上がる気配が続いた。

 椅子が擦れる音、呼吸を整える吐息、微かに衣擦れが教室に連なっていく。


 一人目は男性。

 落ち着き払った声で名を告げ、剣士志望だと語った。


 次は女性。

 魔法の素養が強く、火の扱いに自信があるらしい。

 それぞれの言葉に伴う気配の波――誇り、不安、決意。全員が胸に熱を抱き、ここに立っているのがわかる。


 中には傲慢さを隠さない者もいた。

 声に混じる妙な張り、相手を見下すような気配。

 逆に、自信のなさを隠せず、声が震えてしまう者もいる。


 ――だが、それもまた剣の修練場と同じだ。


 弱さも傲慢も、振るった剣が正直に暴いていく。

 僕は静かに、彼らの気配を心に刻んだ。

 いずれ交えることになるかもしれない仲間であり、ライバルたちだ。


 やがて、壇上に向かって立つ気配がひときわ凛として響いた。

 軽やかでいて、確かな芯のある足取り。


「アリシア・リヴェル・アルディアです。流派はアルディア流です。高潔で力強い剣士を目指しています。これからよろしくお願いします」


 彼女の声が教室全体を満たす。

 静謐で澄んだその声は、無駄なく磨かれた刃のようだった。

 誇り高さと誠実さ、そして決して折れない意志を感じた。


 彼女の流派、『アルディア流』は、歴代剣聖の一人であり、アルディア王国を建国した初代国王が編み出した剣術である。


 彼女が席に戻ると、いよいよ僕の番が来た。

 椅子を引き、立ち上がる。板張りの床を踏みしめた音が、教室に静かに響いた。

 視線が僕へと注がれているのがわかる。

 まあ、眼帯していて、尚且つAクラスだからというの理由だろう。


「ノクス・エルヴァントです。この通り、目は見えませんが、剣は振れます。流派はありませんが、剣への想いは誰にも負けません。まだまだ未熟者ではありますが、よろしくお願いします」


 声を張ったわけではない。

 ただ胸の奥の熱を、言葉にして外へ流した。

 わずかにざわめきが広がる。


 驚き、興味、疑念――さまざまな気配が絡み合う。

 けれど、その中で僕の心は揺るがなかった。

 僕にとって剣は生きる証であり、夢へと進む道なのだから。


「よし」


 担任が軽く頷く気配を示す。

 その一言が、不思議と温かく胸に残った。

 自己紹介が一巡した後、アーベル先生が言った。


「今日は説明だけだ。明日からは実技に入る。しっかり準備しておけ。解散だ」


 椅子が一斉に動き、ざわめきが再び教室を満たす。

 新しい日々の幕開けを、誰もが感じている。


 僕も刀の柄に触れながら立ち上がった。

 明日、初めてこの学園で剣を振る。

 胸の奥が高鳴り、血が熱く沸き立つようだった。

 屋敷へ戻る馬車の中、石畳の揺れが体を上下に揺さぶる。


 ほどなくして屋敷に到着すると、馬車が石畳を滑るように止まり、御者が「ノクス様、到着です」と告げる。


 僕はゆっくりと馬車のステップを降り、外気に触れる。

 肌を撫でる涼しい空気が、疲れた体を心地よく包む。


 大広間に足を踏み入れると、静かに足音を吸い込むような柔らかなカーペットの感触が伝わる。執事長のハドソンがすぐに現れ、低く整った声で言った。


「ノクス様。本日は初日でしたが、学園はいかがでしたか?」


 その声に、僕は微かに笑みを浮かべ、刀の柄にそっと手を置いた。

 今日一日の感覚が、頭の中でまだ生き生きと動いている。

 教室のざわめき、周囲の魔力の流れ、アリシアの凛とした気配――それらすべてが胸に熱を灯していた。


「うん……すごく、いいところだったよ」


 言葉に力を込める。嘘はつけない。心の奥から沸き上がる、この感覚は、ただの興奮ではない。剣を振ることができる喜び、未知の仲間たちと切磋琢磨できる期待、そして自分を試せる場所に立てたことの確かな誇りだ。


「ワクワクしてる。正直、楽しみで仕方がないよ」


 口にした瞬間、胸の奥が温かく満たされ、血の流れが少しだけ速くなるのを感じた。

 目が見えなくても、僕の中の世界は確かに色鮮やかに広がっている。


 ハドソンは微かに笑ったような気配を返した。

 それは言葉ではなく、空気の揺らぎで伝わる柔らかな安心感だった。


「それは何よりです、ノクス様。明日に備えて、今夜はゆっくり体を休めてください」


 剣を振りたいが、ハドソンの言葉に頷き、深く息を吸い込む。

 外の世界と学園の気配を思い返しながら、ゆっくりと刀の柄を握り直す。

 鞘の冷たさが、今日の体験とこれからの決意を、静かに受け止めてくれるようだった。


 胸の奥に湧き上がる高揚は、どんな景色よりも鮮やかだ。


 深い呼吸を一つ、また一つ。


 静けさに包まれながら、僕は確かに感じた。


 新しい日々の始まりを。





最後までお読みいただいてありがとうございます!

次の更新は夜でーす


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