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壁の向こう側、電脳世界の君  作者: エクシーク
エピローグ章(主人公視点)
3/7

3.後悔

───数日後───


 


 


 


「はぁ……、ホント何考えてたんだか……」


 


あれから数日が経ったが、俺は未だにあの出来事を引きずっていた。


何せ知り合って間もない隣人に対して、ストーカー紛いの行為を割とガチめに画策していたのだ。


 


 


完全にアウト


 


判決は死刑


 


 


いくらその隣人の正体が推しの翠川エリであるという、ラノベ顔負けのご都合主義展開の可能性がワンチャンあるとはいえ、やって良いことと悪いことがあるだろうが…………。もしあそこで藍川さんが踵を返していなければ俺は今頃どんな過ちを犯していたか…………


 


 


マジで一回地獄落ちといた方がいいんじゃねーの?俺


 


 


ここ数日はずっとこの調子である。


 


 


自身の愚かさや浅はかさ、そして何より、なかなか改善しない利己的な自分。それに対する情けなさややるせなさで、大学の講義やバイト、趣味のネトゲなど何も手についていない。


挙句の果てには気まずさと申し訳なさから、推しの配信すらまともに視聴できなくなってしまっていた。


 


 


今まで翠川エリの配信にだけは無遅刻無欠席を貫いてきた自分が、だ。


 


 


「助けてエリちゃん……いや、ていうかもういっそ殺して……」


 


 


末期である。


 


 


───コンコン


 


 


「おーい雄星、…………何でお前床に突っ伏してんだ?死ぬ寸前のセミにしか見えねーぞ」


 


「……あん?親父ぃ?………てか、誰が虫ケラじゃあ………」


 


 


いつの間に帰ってきてたのか………


 


 


「……あぁ、そういや今日の晩メシ作んの俺じゃん……。ワリ、今から作るわ……」


 


「いや、それもそうなんだけどよ。……お前マジ最近どうしたん?何かあったんか?」


 


なんだ急に改まって。


 


ウチは基本的に放任主義だから、面と向かって向こうから話しかけられること自体少ないはずだが……


 


「……なんすかいきなり」


 


「だってお前、最近いつ話しかけてもずっと上の空だし。それにご執心の翠川エリ?だっけか。そいつの話も全くしなくなったしよ」


 


「…………あ」


 


 


至極真っ当なご指摘である。


普段誰ふり構わず推しの布教をしまくってるやつが急にその話をしなくなったんだ。そりゃ何かあったかと思うか。


 


ていうかそれ以前に話しかけられて無視してたのは普通に申し訳なかったな…………


 


 


「あーごめん。実は最近すげーやらかしちゃったことがあってさ…………」


 


「なんだよ、やっぱ何かあったんじゃねーか。……で、それって人に打ち明けられることなのか?」


 


「………まぁ、ある程度ぼかしてなら………」


 


「それでもいいから、話してみろって」


 


いつもはいい加減だけど、こういうときの親父はマジ頼りになるんよなぁ………


 


あのやらかしの件については、本当は誰にも打ち明けるつもりはなかった。


しかし、ここまで自分に寄り添ってくれようとしてくれるのであれば、むしろ打ち明けない方が失礼であろう。


 


 


まぁ、本当に言えない部分は省略して話せばいいだけだし………


 


「あのさ、この間隣に引っ越してきた人いたじゃん?」


 


「あーはいはい。俺はまだ会ったことないけどな。確かお前と同年代の女の子なんだっけ?」


 


「そうそう。で、確かちょうど一週間前だったかな?偶然あそこの電気屋で会ってさ」


 


「ほうほう。……で?そのままナンパしてフラれた、と」


 


 


いや言い方。


 


 


「ちげーわ。いや、まぁそういう下心はゼロだったかというと嘘にはなるんだけど………」


 


「下心あったんじゃねーか」


 


「うぐっ……ま、まぁ別にその時はナンパとかそういうつもりは全くなくて。単に仲良くなりたかっただけだったんだけど………。問題なのはその子が対人恐怖症?って言ってもいいくらい引っ込み思案でさ。話しかけてからすぐ逃げられちゃったんだよね……」


 


そう、途中までは決して悪くはなかったのだ。しかし、ネトゲの話をし始めた途端に早口で話し始めたと持ったら、急に我に返ったようでそのまま逃げられてしまったのだ。


 


………本当になんだったんだあれは?


 


「どうせ何か気づかないうちに高圧的な感じになってたとかじゃねーの?」


 


「いや、そんなはずはないと思うけど……。初対面の時からなんかオドオドしてたし、その辺に関しては最大限気を付けたつもりだよ」


 


「そうかぁ………。ならシンプルに向こうが極度の引っ込み思案だったからってことなのかねぇ………」


 


「そうなんだよ、今まであんなに引っ込み思案な人と話したことなかったからさ。どう対応していいか分からないんだよ」


 


事実、あまり会話が得意でないくらいの人となら、今までも出会った経験は何度かあったものの、あのような対人恐怖症ともいえるくらいの人と出会うのは初めてのことだった。


 


「なぁ、どうすればいい?」


 


情けない話だが、こういう時はより人生経験を積んだ人に頼るのが吉であろう。それですべてが解決するわけではないが、少なくとも問題解決への期待値は高まるだろう。


 


俺が投げかけた問いに、親父は少し間を置いてから


 


「………俺もそういった人と関わった経験はあんまりないから確かなことは言えないんだが………」


 


「やっぱりそういうタイプ人には、じっくりと時間をかけて地道に距離を縮めて行くしかないんじゃないかな。その手の人間には 『自分は無害です。貴方の心に寄り添いますよ』 っていう意思を伝えることが特に大事なんじゃねーかと思うぞ。」


 


「なるほどな……。」


 


一見当たり前なことを言ってるだけのように見えるかもしれない。ただ、親父はこういう場面で意味のないことを言う人ではない。つまり、そのことを敢えて言ってきているということは、暗に『お前はまだその重要性を分かってない』と指摘したいのだろう。


 


「………地道に距離を縮めろっていうけどさ、これからそう都合よく何度も話せる機会に恵まれるとはとても思えないんだけど………」


 


「……そうか、なら行ってこい」


 


「………………ん?」


 


「その人の家に直接行ってこいと言ったんだ。よかったな、お隣さんだからいつでも好きな時に会えるようになるぞ」


 


………………はい?


 


「………………いやいやいや!普通にムリだが!?ていうか一度逃げられてんだから、訪ねたところでどうせ追い返されるのがオチだろ!?」


 


「そうは言ってもよ、結局は打ち解けていくには何度も会話をするしかねーだろ。そのうえでそう何度も会う機会がないってんなら、自分から会いに行くしかねーだろーが」


 


「いや、それはそうなんだけど………!!」


 


ぐっ……何も言い返せねぇ…………


 


「……え、マジで?ホントに行くしかないのコレ?……気まずさで死ねるんですけど……?」


「ゴチャゴチャ言ってねーで腹括れや。ほら、金は出してやるから菓子折り持って行ってこい。……分かってるとは思うが、誠意をもって接するんだぞ」


「…………へい」


 


やっぱ行くしかねえのかぁ……


 


まぁ確かにこのまま腐ってたんじゃ何にもならないしな。大学の単位とかにも影響出てきそうだし。


 


そして何よりも、趣味のネトゲや推しの配信の視聴がまともにできない現状が苦しすぎる。


 


 


あっ、エリちゃん成分が枯渇しそう……やべ、息できねぇ…………。


 


 


「………まぁ明日バイトないし、講義終わりにでも行ってくるわ……」


「そうか。ま、あんまり考えすぎんなよ。誠意をもってとは言ったが、気負う必要はねーからな」


「ウッス……。んじゃ、晩飯つくってくるわ……」


 


そうして、台所へと向かった


 


─────────


 


「しっかし、いくら越してきた隣人が同年代の女の子だったとはいえ、今まで殻に籠りっぱなしだったアイツがあそこまで他人に頭を悩ませてるとはねぇ……。うまくやれよ……マジで……」

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