表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壁の向こう側、電脳世界の君  作者: エクシーク
エピローグ章(主人公視点)
2/7

2.探り

※この話には、一部にストーカー行為を想起させる可能性のある描写があります。

読者の方の中には、不快に感じる可能性がある内容となっておりますので、あらかじめご了承ください。

作品中の描写はフィクションであり、実際の行動として正当化されるものではありません。

そして翌日、大学の授業を終えて帰宅した俺は、普段通りにパソコンに向き合ってネトゲをしていた。 ただ、いつも以上に今の俺は機嫌が良い。それも大学の友人から鬱陶しがられるくらいに。それもそのはず、なぜなら――


 


(今日は数日ぶりのエリちゃんの配信予定日!……待ちきれねぇって!あぁ〜早く始まんねーかなぁ……)


 


そう、今日こそが自分の推しである、翠川エリの配信復帰日なのだ。


 


先ほど彼女のTwitterも確認したが、どうやら昨日の段階で引っ越し作業の方は完了していて、回線も無事に通っているため、予定通り今日から配信の復帰ができるらしい。 そして、ついに待ちに待ったその時が……!!


 


『みなさんこんばんは!お久しぶりです〜』


「うおおおぉぉぉ!!」


 


画面に映る彼女が喋り始めた瞬間、俺は歓喜の雄叫びを上げていた。 近所迷惑だとか、騒音問題だとか、もはや知ったことではない。


 


【久しぶりぃぃぃぃぃぃぃ!!!】


【待ってたぜ!!】


【おおおおおおおおおお!!】


 


久しぶり(数日)のエリちゃんの配信で盛り上がっているのはどうやら俺だけではないようだ。中には万単位のスーパーチャットを贈るリスナーもいる。 自分も含め、こうした熱狂的なファンがいるのも彼女自身の魅力によるものなのだろう。


 


『いや〜皆さんのおかげでね、無事引っ越しの方も終わりました。ホントありがとうございます〜。』


 


やっぱこの時間が一番生を実感できるなぁ…………などと余韻に浸りつつ彼女の声を聞いていると、何か妙な感覚に襲われた。


 


(…………あれ?)


 


この感覚には覚えがある……。そう、先日隣に引っ越してきた藍川さんが挨拶に来たときに感じたあの既視感。


 


(あの時はうまく聞き取れなかったし、深く考えなかったけど………。そうだ、どこか聞き覚えがあると思ったらエリちゃんの声じゃねーか。……いや、でもいくら似てたとはいえ、そんな偶然………)


 


その瞬間に頭に思い浮かんだのは、にわかには信じられないような仮説。 しかし、改めて考えてみると、引っ越してきたタイミングといい、単なる杞憂で片付けられないくらいには状況証拠が揃っていた。


 


(まさかとは思うが……いや、いくら何でも考えすぎだよな。いくら何でも……なぁ?)


 


そう自分に言い聞かせるように呟くが、一度抱いてしまった疑念をなかなか拭い去ることができない。


 


『それじゃあ今日は雑談がてら、この数日間の話でもしていきましょうかねぇ〜』


 


結局俺はそのまま、あれだけ楽しみにしていた数日ぶりの推しの配信を、素直に楽しむことができずに終えてしまうのだった。


 


彼女の配信が終わった後、俺はベッドに横たわりながら思考に耽っていた。 考えていることは当然、推しである翠川エリと隣人の藍川さんについて。 偶然に偶然が重なっただけなのか。それとも………。


 


「………少し探ってみるか」


 


 


 


彼女の配信が終わってから既に2時間近く経った今でも、俺は頭の中で今後の方針について考え続けていた。


 


「さて、どうするかな………」


 


彼女が配信しているタイミングで隣の家の音を聞く事ができればそれで全て解決するのだが、生憎このアパートの防音設備は一級品であり、カラオケボックスとタメ張れるくらいには何も聞こえない。


まぁ、逆にいえばその事実すらも「藍川さん=翠川エリ」である裏付けの一つになっているわけだが………


 


何にせよ、まずは彼女に何らかの形で接触していく必要がある。そのためには彼女の行動パターンを把握しておくことが必要になってきそうだ。まぁ、それに関してはバレない位置にカメラでも設置して外出パターンを把握するくらいで十分だろう。それからは上手いこと偶然を装って何回か接触して、警戒されない程度に彼女自身のことを少しずつ聞き出していけば………


 


「よしっ!」


 


方針を固めた俺は早速明日から計画実行に向けて準備を始めることにした。


 


翌日、講義おわりに仕掛ける用のカメラを買いに家の近くの電気屋に行った。具体的な作戦としては、早朝カメラを家の前にある木にビニールを被せて設置し、深夜に回収しバッテリーを交換しつつ、映像データをPCに移す。これをまずは1週間ほど繰り返すだけといった、非常にシンプルなものだった。


 


「さーて、良い感じのカメラはーっと………」


 


やっぱ小型とはいえ、流石に良い値段するなぁ……と若干憂鬱になりながら物色していると、何という運命のイタズラか、少し離れたところに当のターゲットである藍川さんがいた。


 


(おいおいおい、マジか。そんなことあんの!?)


 


あまりに想定外の出来事に動揺するが、よく考えたら別におかしくはないのかと思い直す。 彼女の住処は俺の家の隣だし、引っ越してきた直後に家から近い電気屋にいること自体は別にあり得ない話ではない。ただ、それを加味してもやはりこれは出来過ぎている気がしないでもないが。何にせよ、この千載一遇のチャンスを逃す手は無い。


 


(よし、平常心平常心……)


 


「あの、もしかして藍川さん?」


 


「えっ、あっ、はい、そうですけど……」


 


話しかけると彼女はかなり戸惑いながらも、こちらを向いた。


 


「あ、やっぱりそうだ。どうも。初対面以来でしたよね?」


「あっ、確かお隣の……伊東さんでしたよね……?」


 


おぉ………どうやら覚えてくれていたみたいだ。 しかし改めて聞いてみると、藍川さんの声質ってマジでエリちゃんによく似てるよな…… ……相変わらず聞き取りにくいけど。


 


「はい、そうです。覚えていてくれて嬉しいです。奇遇ですね、こんなところで会うなんて。」


 


「そ、そうですね。奇遇ですね……………」


 


いや、ビビりすぎだろ。今日も入れてたった2度しか顔を合わせた事がなかったとはいえ、流石に警戒しすぎなんじゃ……………? とはいえ、ここで下手に怪しまれてこれ以上距離を置かれるわけにもいかない。もう少し慎重にいく必要があるな。


 


「そういえば藍川さんは今日何しに此処へ?」


 


「えっと、今日は新しいイヤホンを……」


 


「イヤホンですか……。それはまたどうして?」


 


「えっ……と、今使ってるイヤホンが耳に合わなくて……」


 


「なるほど……」


 


(うーん、イヤホンは誰でも使うからなぁ……。とはいえ、あまり踏み込みすぎてもだし……)


 


 


さて、どうするかな………何かいい感じの話題は…………おっ?藍川さんのカバンに付いてるのって、もしや───


 


「あれ?藍川さんがカバンに付けてるキーホールダーって、確か原神のキャラですよね?」


 


「えっ、はい、そうですけど…………。知ってるんですか?」


 


「えぇ、ちょうど最近知り合いの紹介で始めまして…………。僕も好きですよ、そのキャラ」


 


「…………!!ほ、本当ですかっ!?実は私も原神やってるんですけど………このキャラ以外にも、とにかく好きなキャラが多くて………!」


 


おぉう、すげーマシンガン。えっ、もしかしてこの娘、かなりのオタク………? いや、けどそうなるといつものエリちゃんの清楚なイメージとは随分ギャップがあるというか………。でもあのゲームをよく配信でプレイしてること自体は一致してるし…………んん?やべぇ、分かんなくなってきた……。


 


「それで、キャラ自体もそうなんですけど、個別のストーリーとか、他のキャラ同士との関係性とかも本当に完璧で……!あっ…………」


 


あ、戻ってきた


 


「あっ、す、すみません………!まだ知り合って間もないのに、こんな………!」


 


「そ、そんなっ、とんでもない!むしろ藍川さんのこと知れて良かったというか……!」


 


「でっ、でも気持ち悪かったですよね………。自分でも解ってるんです……。こういうとこ、直さなきゃって─── 」


 


「い、いや別にそんなことは……」


 


マズイ、なんか良くない流れになってきてるな……。けど、こういう時なんて声を掛けたら………


 


「あ、あの、今日はもうこの辺で………!失礼しますっ………!」


「えっ、ちょ、待っ………!」


 


呼び止める間もなく、彼女は足早に店を出て行ってしまった。


 


(ウソだろ……最悪だ……。このままじゃ、今後どっかで顔合わせたところで……。でもあんなのどうしろってんだよ─── )


 


俺は一人取り残されながら、大きなため息をついた。


 


(まぁ、過ぎたことは仕方ない、が。………はぁ、小型カメラ買おうと思ってたけど、もうそれどころじゃねーな……。俺も帰るか………)


 


その日、結局カメラを買うことなく家に帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ