7.共同任務開始
「γ1、2現着。指示どうぞー?」
ザザッというノイズと共に片耳のインカムから拳藤支部長の声が聞こえる。
『よし、全員持ち場に着いたな。
最終確認するぞ。対象、虚人名を「チュパカブラ」。
作戦エリアのマナ濃度は45、境界深度は4。
義手装具の限界出力使用を許可。
まずγ1が対象の能力を無効化。
その後αチームが対象を拘束、γ2とβチームが仕留める。
今回は短期決戦だ。気張っていけよ!』
「了解」
(毎回思うんだけど僕の負担デカいんだよなぁ…)
正直今回の作戦、染島にかかってると言っても過言じゃない。
ふと隣のγ2こと逆上に目をやる。
「あ?見せもんじゃねぇぞ。周り見とけよ」
恐らく義手装具の点検をしているのだろう。
彼女の義手装具「参手の神器」の性質上定期的な点検は僕達のそれより重要だ。
随分と重そうなジュラルミンケースから取り出すのは
巨大な杭と弩。
高火力の遠距離型ユニット、名を弐番。
「いつ見ても物騒だねぇ」
「おうよ。一撃で仕留めないといけねぇからな。
あたし先狙撃地点向かっとくぜ。気張れよ染島」
調整が完了した鋼は瞬時にビルに飛び移り夜闇に消えていった。
「頑張るけど…触った後の掌ちゃん達がちゃんとしてくんないと無理だしねぇ」
『α、β、配置完了。γ1頼むぞ!』
「了解〜。おっと見えたぞ」
まだこちらに気付いてはいない。
ここからなら絶対触れる。
(さーて…)
認識阻害のマントを身体にしっかり巻き付けビルの端から一歩踏み出す。
ふわりと空中に少しの浮遊感の後、対象の肩をがしりと掴む。
「HOLLOWか…」
「正義の味方様だ。投降しな」
(言っても無駄だろうけどねぇ)
ぐっと肩の手を振りほどく対象。
マナは封じてるはずだがあっさりと振り払われた事に少し違和感を覚えた。だが、些細なことだ。
「さーて、諸君!
日米合同第一境界等級ブッ飛ばしRTAスタートだぜ!
オラ行ってこいよ!」
高らかに叫び上げ、対象を全力で蹴り飛ばす。
(頼んだよ〜…掌ちゃん達まじで)
――――――――――――
真夜中のビル街にぽつりぽつりと街灯が瞬く。
どんよりとした悪寒と寒気が周囲のマナの濃さを感じさせる。
人気のない大通りのそこに対象はいた。
金髪は埃と泥にまみれており、骨ばった身体の腰にぼろ布を巻いている。
「こちらα2。対象を補足」
『こちら指令室だ。これよりγ1が対象に義手装具を発動。その後戦闘を開始してくれ』
「了解」
「まず俺が、前を使う」
認識阻害のマントを翻し僕達は建物の影から飛び出した。
まだ距離はあるが対象の四肢が弛緩する。
その刹那、不可視の衝撃が対象のうなじを抉った。
瞬間、いつかの時摩先輩が言っていたことを思い出す。
(「俺の義手装具?あーなんと言うか…攻撃にラグを起こすみたいなものだな。
ちょっとした、小手先の技さ」)
「小手先の摩拳…!」
1.6秒後不可視の衝撃が抉った座標に時摩先輩の拳が通過する。
時摩先輩の義手装具「小手先の摩拳」。
攻撃の際の衝撃を前後に最大2秒ズラす事ができる。
「僕も続く…虚を開く鍵!」
変身の隙など与えない。
二人でやればなんとかなるはず。
(このまま仕留め…っ)
「邪魔を…するな」
「っ!?」
ゆらりと対象の骨ばった細腕が振り払われた。
背中に激痛と衝撃が走る。
(何が…!?)
僕の身体は数メートル後方の建物の外壁を砕くほどに吹き飛ばされていた。
――――――――――――
「界っ!!」
(おい待て、今何が起きた…!?
界が吹き飛ばされた、衝撃波か!?
何のマナの揺らぎも感じなかった…そもそも剥也の義手装具がまだ効いてるはずだろ)
まずい。非常にまずい。
即座に全体へと声を張り上げる。
「界がやられた作戦変更だ!援護よこせ!」
『β向かってる!1分耐えてくれ!』
βが来るまで1分、界は…まだ無理か。
それまで俺1人。
「…まだ…居るな。捜査官」
「残念ながらそう簡単にやられるほど俺はやわじゃないぞ」
対象の戦闘力が事前に聞いていたよりも手強い。
こんなのは想定外だ。
剥也の「調教の首枷」が切れるまでもう30秒もない。
なんとかその前に拘束するしかない。
大丈夫だ。数十秒程なら止めきれる。
「小手先の摩拳!」
狙いをすました拳撃が対象の肩を穿つ。
一瞬怯みはするが…
「ぐっ…!」
(硬い…なんだこの体幹と肉体。圧倒的なタフネス。
本当にマナ打ち消せてるんだろうな!?)
体勢が崩れない。
まるで鉄棒を殴りつけているかようなガツンという音と火花が散る。
「少し…鬱陶しいな。名を聞こうか捜査官」
「…時摩 掌だ。
鬱陶しいだろうがもう少し俺に付き合ってもらうぞ…チュパカブラ」
「チュパカブラ?あぁ、俺はそう呼ばれているのか。
吸血の化け物…」
瞬間、対象が急激に接近する。
俺は反応できない。
「何…っ!?」
「あまりいい気は、しないな」
純粋な右ストレート。
だが鳴り響く音は爆撃が如くだった。
ガードが間に合わなかったらこの首は弾け飛んでいただろう。
拳を防いだ腕が動かない。
義手装具が火花を散らし、ビリビリと痺れる感覚が全身を駆け巡る。
(腕はぶっ壊れて…いないな。
なんて威力だ…危なかった)
対象がまた腕を振りかぶる。
まずい…身体が痺れて避けられない。
「すまないが、死んでもらうぞ時摩 掌」
「させねぇよガリガリ!」
背後から飛び出したのは2つの人影。
「延長だぜ調教の首枷!」
「不壊の斬手っ!!」
振りかぶられた腕が宙を舞う。
切られた腕の断面から黒黒とした血が噴き出し路上を濡らした。
「こんなもんかよ雑魚兄貴」
「っ…間に合ったか!」
義手装具の右手甲から伸びる銀色に輝く刀身。
「染島 剥也、時摩 刃、ラングトン・アントワネット現着した。染島准機正、掌を後退させてくれ」
「あいあいさー!ほら行くよ掌ちゃん。
繋木ちゃんも後退してるから」
剥也に肩をかされて何とか立ち上がる。
ふと、ラングトンと目が合う。
「遅れて済まんな掌。ここからは私達に任せておけ」
「ラングトンさん、刃…。
少し離脱するんで、一旦頼みます」
ラングトンの瞳がギラリと輝く。
纏ったマナがいきなり増大するのが見てわかる。
いつか見たその背中は今も変わらず広く、燃えるようだった。
「続け刃。私が出る」
その声色は燃えるようなマナに反し、凍て刺す程の冷たさに満ちていた。
義手装具紹介①
「小手先の摩拳」(ハンズオブグリッヂ)
・拳による攻撃の際に衝撃のタイミングを最大3秒、前後にずらすことが出来る。




