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2.虚を開く鍵

 真夜中の市街地、靴とコンクリートがぶつかり合う音と、自身の身体が高速で移動する時の風切り音、そして張り詰めたような緊張感と周囲に立ち込めるマナの独特の臭い。

執行開始から13分、僕は時摩の合図を待っていた。

ザザッと耳につけた小型のインカムからノイズと共に声が聞こえてきた。


『…聞こえてるか界。よし、大丈夫そうだな。

最終確認だ。

作戦エリア内のマナ濃度は24で境界深度は2。

義手装具の出力は70%までの限定使用を許可。

剥也と俺も持ち場には着けている。

界が接敵次第、動き始める』

『あいよ、そんじゃ繋木ちゃんよろしく』


大通りを少し外れた路地。見えた。

パーカーのフードを深く被った中肉中背の男。

執行対象、虚人だ。


「了解、接敵します」


対象との距離はおよそ、500m。

気配を察知したのか対象の両手首にマナが集中する。


(来た。能力発動の予備動作。

これなら僕の方が速い…)

「…なんなんだよお前ら!!

さっきから俺の邪魔ばっかしやがってよォ!!」


400m、射程に入った。

バンと弾けるような音とともに、長さ30cm程の骨の弾丸が空を切り裂きながら僕の眉間目掛けて一直線に飛んでくる。

それは当たれば確実に頭蓋を貫き、一瞬にして命を奪い去るだろう。


(だがまぁ、僕でなければだが)


てのひらを眼前にかざし、名を告げる。

それは越えてはならない境界線を跨ぐためのまじない、

人の身でありながら腕先のみに許された偽りの異能。


ボーダーライン…」


かざした先の空間が歪んだ。骨の棘が音もなく虚空へと消え去った。


「何……がはっ!?」

 

まさに今僕の眉間を穿つ筈だった弾丸が貫いたのは

僕ではなく対象の足の甲。

これこそが僕の能力、ある場所から別の場所へと空間をねじ曲げ繋げる門。

いわゆる「ワープゲート」だ。


骨の棘は対象のマナにより強化された虚人の皮膚を軽々と貫通し、足を地面へと縫い付けていた。

骨自体の強度はそれ程高くないため、長くは拘束できないだろう。

だが十分。10秒もあればこいつの顎を砕ける。

対象の顔が歪むその刹那、「門」を挟んだ対象に向けてマナを集中させた渾身の右ストレートを叩き込む。


「ごふっ…!!」


下顎、腹部。素早く確実に拳をめり込ませる。

硬い、まるで鉄の板を素手で殴りつけているかのようだ。

だがこちらも馬鹿正直に正面から殴るだけではない。

門に直接腕を突っ込み、相手の背後に拳を叩き込む。

フェイントを交えつつ全方向からの拳の猛攻。予測などさせない。


「ここで仕留める…!」


そう呟き、次の一撃を構えたところで、

突然ガクリと視界が揺れた。


「…かはッ!!?」


マナを纏った虚人の蹴りを生身の身体でまともに喰らえば捜査官とて致命傷だ。


(失念していた)


脇腹に鋭い痛みと衝撃を感じながらそれを噛み締めた。

固定していたのは片足だけ。自由な方の足による反撃など容易に想像できたはずだ。

マナによる防御をする間もなく受け身すらもとれなかった。

冷静さを欠いていたのか?要因は何だ…?

初任務ゆえの緊張か?もしくは別の何かか??

吹き飛ばされた先で砕けた瓦礫をどかしながらもそのようなことに思考を巡らせる。

幸い対象の注意はまだこちらに向いている。

ズリズリと穴の開いた血まみれの足を引きずりながらこちらに向かってくるその足音でわかる。


(くそっ、まだ視界がブレてる。

体勢を立て直せ…門を開け…!)


朦朧とした頭とぐらつく視界の中、それでも手を前にかざすが力が入らない。


「ハァハァ…クソガキが…ボコボコボコボコと、

好き放題殴りやがってよォ…!ぶっ殺してやる……

目ん玉から順番に刺し潰してやらぁ……!」


ギラギラと目を血走らさせながら握った棘を振りかぶる。 

防げない。覚悟を決めたその時だった。


「はぁいそこまでー」


対象は肩をビクリと震わせた。

目の前の弱った獲物に集中していた対象にとって

まったくの意識外からの声と肩に置かれたその手は動きを止め、思考を停止するには十分過ぎた。 


「…染島、さん」

「や。頑張ってんねぇ新人ちゃん♡」


片手をひらひらとさせながらこちらに目をやる。


「動けない子を一方的に虐めるのが興奮するのはわかるよ?でもお前さァ…限度ってもんがあるだろうが」


置かれたその手がバキバキと音を立てて骨棘の肩を握り潰していく。

ここが戦場であることを忘れるほどに軽く陽気だったその眼は、一瞬にして殺意と敵意の塊へと変わった。


「あっ…うあっ…!」 


ガチガチと歯を鳴らし、涙を浮かべ恐怖する対象に、侮蔑と嘲笑を浮かべながら染島は続ける。


「おいおい、何勃たせてんだよマゾ野郎」

「うっ、ガァァァア!!!!!!」


怒号とともに飛びかかろうとした彼は自身の違和感に気付いた。


「残念。お預けだ駄犬、調教サディスティック首枷シール


身体に纏ったマナを一定時間剥がすことで一切の能力、身体強化を禁ずる封印。これこそが染島の能力だ。


「可愛い可愛い新人ちゃんに汚え物見せんじゃねぇ。教育に悪いだろうが」


震える骨棘を路地奥まで蹴り飛ばし、手をパンと叩き合図する。


「スッキリした。掌ちゃんあとよろしく」

「了解だサド野郎」


染島と入れ替わるように背後に待機していた時摩が飛び出した。

残光残す速度で義手装具を鳩尾にめり込ませると、対象は意識を失った。


「作戦終了。潜入班に連絡して帰投する」


やはり、とどめを刺さないのか…。

薄れゆく意識の中僕はそんな事を考えていた。


「…一人でよく足止めしたな。今は休んでろ」


眠りにつくその刹那そんな声を聞いた気がした。



 目覚めるとそこは第一基地にある医務室であった。

頭には包帯が巻かれ、身体には点滴が繋がれていた。

ぼんやりと真っ白な天井を見つめながら、考える。


(…仕留めれなかった)


理由など分かりきっている。

あの時の焦りは初任務ゆえの緊張ではない。


(「俺は虚人を殺さない」か…)


簡単なことだ。

僕はただ、時摩のあの言葉を否定したかったのだ。

虚人を殺すことが、自身の戦う理由が間違っていないのだと信じたかった。


「……僕は間違ってなんてない」


こうして、僕の初任務は快勝とは言えない結果となった。









用語解説

「マナ」

大気中に存在する通常計測不可能の物質。

この物質が基準値の10を(マナ濃度)を超えると人では考えられない能力、物理現象への干渉など、特殊能力を発動できると考えられている。


「境界深度」

大気中もしくは対象のマナ濃度を参照し、周囲へのマナの影響を指し示す値。

この値を参考に執行難度などを割り振っている。

※深度はマナ濃度基準値を10超える毎に加算されていく

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