08話(最終話) 花
※残酷な表現あり(ぼかしきれませんでした)
ローザは無事に田舎の修道院へ戻った。
それから、しばらくすると……。
ハルトヴィヒ公爵に引き渡された元王太子テオバルドが、ようやく帰国したという話で国中が持ちきりになった。
ローザがいるこの修道院でも。
出入りの商人たちや、畑の作物を売ってくれる農民たちが、世間の風を運んで来てくれるので噂を知ることができた。
「国王陛下と王妃殿下はテオバルド様とご対面して腰を抜かしたそうよ」
「変わり果てたお姿でお戻りになったら、そりゃあねぇ」
「首だけお戻りなんてね……」
「驚くわ」
「わざわざ氷漬けにして送って来たんですって」
「誰の首か一目で解るように?」
「貴族、怖いわぁ」
ローザは曖昧に微笑みながら、皆のおしゃべりを聞いていた。
そして自分が死刑宣告をしたテオバルドの顛末を知った。
(きっとフィーネ様だわ……)
国王にテオバルドの首を贈ったのはきっとフィーネに違いないと。
ローザには根拠のない確信があった。
(自分の失敗から目を背けた国王陛下に、罪をつきつけたのね)
「貴族学院の規則が厳しくなったらしい」
「そりゃそうだろう」
「馬鹿王子が学院で馬鹿なことしたら首がいくつあっても足りないもんね」
◆
元王太子テオバルドの帰還から、一年ほど後。
国王が急病で崩御した。
そして王位争いの騒乱があった。
領土を大きく失った現王家は君主にふさわしくないとして、地方の大領主である公爵たちが王位継承者として名乗りを上げたからだ。
過去に王族との婚姻があった家の者は、当然王族の血を引いているため王位継承権を持っている。
公爵たちは順位は低いが王位継承権を持っていた。
順位が低くとも、正統な王位継承者には変わりない。
王座をめぐって派閥に分かれての争いが起こった。
そしてキュネル公爵が新国王に決定し、王朝が変わった。
現在は伯爵夫人となっていた先王の妹は、伯爵に離縁された。
彼女はかつてキュネル公爵との縁談を「田舎は嫌だ」と貶めて拒否した人物であり、その話を何かにつけ笑い話のように語っていたからだ。
彼女の夫であった伯爵は、キュネル領主でもある新国王との仲を円満にするために、キュネル領を貶める発言を繰り返していた彼女と離縁した。
王朝が変わると国内の空気も少し変わった。
ローザには政治のことは解らないが、景気の良い話を聞くようになった。
作物も手に入りやすくなり、修道院の食卓のメニューが増えた。
民の生活が良くなっているのは、きっと国が安泰だからだ。
新国王は先王よりも仕事ができる人なのだろうとローザは思った。
◆
月日が流れた。
悪女ローザの噂はとっくに聞こえなくなっていた。
ローザは数年ぶりに王都を訪れた。
そしてふと思い立って、王都の大聖堂の管理下にある墓地に足を向けた。
花を携えて。
そこにはテオバルドの墓があった。
先王は息子のために立派な墓を建てていた。
それはそれは立派な墓だ。
堂々とした白い墓碑の両脇には天使の彫像があり、墓碑を慰めているかのようだった。
空は晴れ渡った晴天。
暖かい日差しの下、心地よい春風が吹き抜けて行った。
「……」
ローザは墓碑に、そっと花をたむけた。
――完――
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短編「政略結婚を拒否した結果」からお読みいただいている方には、理由や経緯の説明になっていれば幸いです。
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