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01話 ローザ

ビターエンド。わりと殺伐。

「フィーネ様は、私を処刑なさるのですか?」


 ピンク髪の男爵令嬢ローザ・ノイマンは愛らしい顔立ちを歪めて、公爵令嬢フィーネ・ハルトヴィヒに問いかけた。


 ローザは質素な衣服を纏い悲愴な表情を浮かべている。

 今のローザには、王立貴族学院でテオバルド王太子に寄り添っていたころの無邪気さや明るさは欠片も無くなっていた。


 勝者である公爵令嬢フィーネは小暗い微笑を浮かべた。

 フィーネは強者が弱者に温情をかけるようにしてローザに優しく言った。


「どうしてそう思うの?」

「だって……」


 ――だってフィーネ様は、私を憎んでいるはずだから。


 ――テオバルド様と一緒に私はフィーネ様に婚約破棄をつきつけたから。

 ――私がフィーネ様の婚約者テオバルド様を奪ったから。


「テオバルド様は罰を受けるのですもの。私も罰を受けるのですよね?」


 テオバルド王太子が処刑されるのだから、自分も処刑されるのだろうとローザは思った。


 客観的に見たらテオバルド王太子がしたことは浮気で、ローザはテオバルド王太子の浮気相手だ。

 ローザはそれを恋だと思っていたが。

 フィーネから見れば、ローザがしたことは婚約者の略奪だ。


「フィーネ様、お願いがあります。最後に家族に手紙を書きたいのです。どうか家族に私の手紙を届けてください……」


 ローザは死を覚悟した。

 フィーネから逃げられる気がしなかったから。


(あのとき、フィーネ様の言葉を聞いていたら……)


 ローザは二度と取り返せない過去を悔いた。


(テオバルド様ではなくフィーネ様の言うことを聞いていれば……)



 ◆



 まだ王立貴族学院の生徒だった頃。

 ハルトヴィヒ公爵令嬢フィーネは、ローザに言った。


「ローザ嬢は、私とテオバルド殿下が婚約していることはご存知かしら?」


 王立貴族学院でローザはテオバルド王太子と知り合い、そして恋をした。

 だがテオバルド王太子にはハルトヴィヒ公爵令嬢フィーネという婚約者がいたのだ。


 大人の貴族たちには知られていたことなのかもしれない。

 だがローザは知らなかった。


 婚約は家同士で行うもので、結婚式のような対外的な華々しい式は行わない。

 だから他家の婚約など知らなくて当たり前だった。


 それでも王太子の婚約はさすがに貴族社会で話題になったが、その当時ローザはまだ十二歳で婚約話に興味を持つような年齢ではなかった。


 学院に入学した令嬢たちの大半が、美貌のテオバルド王太子に婚約者がいることを知らずに、テオバルド王太子に憧れて近付こうとした。

 またテオバルド王太子も婚約者がいるとは言及されなければ言わず、不特定多数の令嬢たちに気安く声を掛けて自由な学院生活を謳歌していた。


「テオバルド殿下は私と結婚するの。だからローザ嬢はテオバルド殿下とは結婚できないのよ。まともな結婚がしたいならテオバルド殿下から離れなさい。身持ちの悪い娘だという風評が立ってしまったら良い縁談は望めなくなるわ」


 フィーネは厳しい表情で、ローザに冷たく言い放った。


「賢明な判断を期待するわ」



 ◆



 公爵令嬢フィーネに言われたことを、ローザはテオバルド王太子に相談した。


「あの女、ローザにまでそんなことを言ったのか……」


 テオバルド王太子も、フィーネから同じことを言われたことがあったようで、思い出すかのようにして苦い表情を浮かべた。


「ローザ、心配しなくて良い。私とフィーネとの婚約はハルトヴィヒ公爵が望んだものだ。王家としては特に断る理由がなかったから受けただけだ。身分も釣り合っていたからな。しかし、今は……断る理由が出来た」


 テオバルド王太子はローザに優しく微笑んで言った。


「私はローザと結婚したい」

「……!」


 テオバルド王太子の甘い言葉にローザは酔った。


「わ、私と……?!」


 ローザは、見目麗しい金髪碧眼のテオバルド王太子との初恋に浮かれて、学院で夢のような時間を過ごしていたが。

 同時に身分違いだという憂鬱な現実も、頭の隅にあった。


 だがテオバルド王太子は、ローザと結婚したいと言った。


「本当ですか?!」


「本当だ。私はローザと結婚するつもりだ。だからフィーネとの婚約は解消する。フィーネとは婚約したが、親同士が決めたことで愛はないのだ。私は、真に愛する人と結婚したい」

「……公爵様は……怒らないでしょうか……」


 ハルトヴィヒ公爵が望んだ婚約を解消したら、ハルトヴィヒ公爵は気分を害するのではないかと、ローザは怖気付いた。


 ローザは男爵家の娘だ。

 公爵家を怒らせたら、男爵家では太刀打ちできない。

 家族にも迷惑をかけることになる。


「安心しろ、ローザ。私が付いている。公爵がごねるようなら王命を使えば良い」


 ローザはテオバルド王太子のその言葉に安堵した。


「テオバルド様……」


 王太子と公爵とでは、王太子のほうが身分が高い。

 ましてやフィーネ・ハルトヴィヒは公爵の娘でしかない。


 王太子と、公爵の娘の意見が相反したら、身分の高い王太子の意見が通るだろうとローザは思った。


 また、テオバルド王太子は学院ではローザの身近にいて、ローザを愛していると言い、ローザに優しい。

 一方でフィーネ・ハルトヴィヒは、先日初めて話したばかりで、しかも険しい顔で、ローザに厳しいことを言った。

 どちらの言葉がローザにとって受け入れ易いか、と言えば……。


 身近にいて甘い言葉を吐く優しい恋人と、初対面で冷たく厳しいことを言う令嬢。


 ローザは、優しい恋人テオバルド王太子の言葉を、公爵令嬢よりはるかに身分が高い王太子の言葉を信じた。


 身分の序列は作法教育でも習っていることだった。

 王命が絶対だということもローザは知っている。


 ――そしてローザは、選択を間違えた。


「卒業したらフィーネとの婚約は解消する」


 大抵の貴族の子女が結婚式の準備を始めるのは、王立貴族学院を卒業した後だ。

 だから学院には未婚の子女しかいない。

 そういう状況でローザは、結婚について行動するのは卒業してからというテオバルド王太子の話をおかしいとは思わなかった。


 ローザはまだ貴族として未熟だったので。

 婚約解消するのは卒業後だったとしても、そのつもりがあるなら、早いうちに内々に話を通しておくべきだとは思い至らなかった。


「ローザ、私と結婚してくれるか?」

「はい、テオバルド様」

短編の感想でいただいた疑問へのお答えを中心に書いていきます。

今日中に完結したいです(目標)。

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