転生前に計画崩壊
「あなたは事故により死にました。しかしまたもう一度生きる権利が与えられたのです」
なにもない真っ白な空間で、女神としか思えない美しい女性が僕に対してそう言った。
なんでも魔王により人類が滅亡に瀕している世界があるらしく、そこに転生して魔王を退治して欲しい、というのだ。退治さえすればそのあとは、人類が滅びるようなことさえしなければなにをしても良いらしい。
「だけど僕は普通の学生ですよ。スポーツすらほとんどやってない。勝てるわけないですよ」
「大丈夫です。私の加護があれば絶対に負けませんから」
その言葉を聞いて僕は一つの疑問が浮かぶ。そこまで自分の力に自信があるなら、なぜ自分自身で魔王を退治しないのだろうか?
その疑問をぶつけると女神は答えた。
「私たち神々は現世に干渉してはいけないことになっているのです。なので直接退治することはできないのです」
「あの、転生は現世に干渉することになるのでは?」
「え? ……あれ、た、たしかに……」
僕からの質問に女神はあからさまに動揺して先ほどまであった神秘的な雰囲気が霧散する。
そしてしばらくの間自分の輝くような金髪を弄ったり腕組みをしてうんうんと唸ったりしていたが、やがて顔を上げて僕にこう言った。
「ご、ごめん。ほかの神の意見も聞いてくるからちょっと待っててね」
そう言って女神は姿を消してしまう。
なにもなく時間の流れも分からないような白い空間に一人取り残された僕は、余計なことを言ってしまったなと深く後悔していた。