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空白のアクレリア  作者: 新田 あめ
第1章:セントラル
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4-2.レイの想い

TMDの任務を終え、久しぶりにセントラルへ戻った。隊長から呼び出しを受け、静かな応接室へ入る。


「レイ、これからお前には、たまに戦術鉱装部門に出向き、開発中の鉱装の動作確認を行ってもらうことになった」


「戦術鉱装部門ですか?」


「そうだ。これまでは鉱装部内で動作確認も行なっていたが、より実戦に備えるため、TMDから人を派遣することになった。お前にはそこへ協力してもらう」


「わかりました」


隊長の言葉に短く答える。余計な言葉は不要だ。


「TMDと鉱装部を行き来するのは大変だと思うが、よろしく頼む」


「はい」


そのまま隊長の部屋を後にして、研究棟の地下へと向かう。確か、検証室C…実地試験区画だったな。


薄暗い地下の廊下を歩くと、途中の検証室Aから男女の声が漏れてきた。扉は開いていて、中が見える。


男の声が響く。


「だからね、シラサキくん。今回開発中の戦闘用鉱装は、あくまで一般市民向けに売り出されるものだ。機能や性能を重視するのは理解しているが、利益が出なければ会社は立ち行かない」


女が反論する。


「だからって課長、わざと半年で壊れる設計にするなんて…しかも原価10パーセント未満に抑えろって…それでは安全性に問題が出ます」


開いた扉から少しだけ見えた彼女は、真剣な表情で上司に意見していた。

鉱装部には腐敗した研究者が多いと聞いていたが、ちゃんと真面目に考えている者もいるんだな。


研究者のシラサキ……か。


***


数日後、動作確認のレポートを提出するため研究棟14階へ向かっていた。休憩ルームの前を通ると、明るい声が聞こえてきた。


「わぁー!それ、ずっと気になっていたんです!いただいていいんですか?」


振り向くと、先日地下の鉱装部で見たシラサキという女性だった。白衣姿に後ろで軽く束ねた焦茶色の髪。


「イリアちゃんがチーズ好きだって聞いたからな。店の前を通りかかった時に見かけて買ってきたんだ」


イリア・シラサキというのか。

全力で怒ったり喜んだり…表情の変化が面白いやつだ。


イリアは目を輝かせてお礼を言い、もらったチーズフィナンシェを頬張る。


レイは無意識に口元が緩むのを感じながら、目的の研究室へ足を速めた。


***


また別の日、動作確認のため研究棟に呼ばれた。

地下の実地試験区画へ向かう前に、装備を取りに行くよう頼まれている。


研究棟横の道を歩きながら格納庫へ向かっていると、聞き覚えのある声がした。


「あーもう、また来ちゃったの?フィーちゃん!」


あれは……イリア・シラサキだ。


イリアは低木にしゃがみこみ、手を伸ばす。

その時、バタバタッと音がして、小さな羽の生えた恐竜のような生き物がイリアに飛び込んだ。


「きゃ!ちょっと、フィーちゃん!」


「フィー」と鳴きながら、それはイリアに体をすり寄せる。


あれは……子どものリリファか。


アクレリア国では移動手段として使われているが、調教されていない子どもはかなり警戒心が強く、人に懐くことは滅多にない。噛みついたり炎を吐いたりして問題になることも多い。だが、あの子は明らかにイリアに懐いている。


「まったくもう〜、ここに来たら危ないって言ったでしょ?君のお家に連れてってあげるから、一緒に行こう」


イリアは子どもリリファを抱きかかえ、そのまま歩き去った。


すごいやつ……だな。


少ししてから、無意識に自分の顔が綻んでいることに気づき首の後ろに手を回す。この感情が何なのか理解ができず、戸惑いが胸をざわつかせた。


***


このあと俺は何回か鉱装部に呼ばれたが、結局TMDの任務が忙しくなり、研究棟に来ることはなくなっていた。


***


数年ぶりに研究棟を歩く。

まさか自分が戦術鉱装部門に配属されることになるとは思っていなかった。

しかも、イリア・シラサキとペアで仕事をしてほしいという。




——胸の奥で期待が静かに高まっているのを、レイは自覚していた。

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