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第九十九話『集いし七宮』 後編

そして、あっという間に日は流れ――

ついに迎えた、七宮対抗魔法祭しちぐうたいこうまほうさい当日。

年に一度の大行事で、生徒達が己の誇りと魔術をぶつけ合う、学院最大規模の祭典だ。


この時期になると学院には、将来有望な魔術師を一目見ようと、各国の錚々(そうそう)たる要人、気鋭の魔術師たちが押し寄せる。

その盛況ぶりは年々増すばかりで、いまや「若き魔術師の登竜門」とまで称されるほど。

そして、今年もまた――二日間にわたる熱狂と激闘の幕が、静かに上がろうとしていた。

 

ミカは 第四宮(ソル) の代表として。

パコは 第三宮(ヴィーナス) の代表として。

そして、どこかに潜む"隻腕(せきわん)の復讐者"の思惑を阻止するために。


二人は胸に固い決意を抱きながら、

ゆっくりと会場へと歩を進めていく。


舞台となるのは、“ゾディアーク星級魔法学院”に古くから伝わる伝統の決闘場。

ここは代々の学院史を見届けてきた由緒ある地――その名も "バトラシオン闘技場"。

 

「ここがバトラシオン闘技場――話には聞いた事あったけど、実際にこの目で見ると壮観ね…それに、まだ始まる前なのに人がいっぱい」


「うむっ。ワルバッカ村の時とは、規模も雰囲気も全然違うな」


円形の闘技場をぐるりと囲む客席には、すでに満員の観客がひしめいている。

まだ開幕前だというのに、その熱気はミカ達にもひしひしと伝わっていた。

二人は緊張しながらも、歴史と格式を感じさせるこの地に興味津々といった様子で、闘技場全体をくるり、くるりと見渡していった。

 

そびえ立つ巨大な石壁は幾層にも積まれた岩盤で組まれ、陽の光を受けると鈍い光を反射する。

 

表面には無数の亀裂や擦れ跡が走り、指で触れれば粉のように細かな砂がこぼれ落ちる。

それは、かつてこの場所で幾度となく繰り返されてきた決闘(デュエル)の証――粉々に砕け、散り、その度にまた修繕され、その幾重にも重なる“層”が、この地の歴史を物語っていた。


そして、中央に描かれた巨大魔法陣は、まるで巨大な心臓のように淡く脈動している。

これこそが、魔術師たちの“戦場”である。


「あーヤバい。今更になって緊張してきた…!」

ミカはソワソワと歩き回った後、ひざを抱えて隅っこにぺたんと座り込んだ。


「心配するな、ミカ」

パコはしゃがんで目線を合わせ、胸を張って言う。


「パコはミカの努力を誰よりも近くで見てきた、一番なっ!

だから変に気負うんじゃない、いつも通りのミカでいいぞ」

そう言って、パコはミカの頭をそっと優しく撫でた。


パコの小さな掌は驚くほど温かく、包み込むような慈愛に満ちている。

その触れ方ひとつで、ミカは感じた。

(ああ、パコが第三宮(ヴィーナス)に選ばれた理由、わかった気がする)

胸の奥にじわりと安心が広がった。

 

「うん……そうよね……ありがとパコ!」

ミカは顔を上げ、ニコリと微笑んだ。


「お互い頑張りましょう!今の所"隻腕"に動きはないけど……」


この中のどこかに、"隻腕の復讐者" が潜んでいる。

それは観客の中なのか、はたまた生徒達の中にいるのか――。

いずれにせよ、この人数だ。

こちらから探し出すのは、ほとんど不可能に近い。

 

「うむっ。焦らず作戦通りでいくぞ」


「うん! それじゃあ、そろそろ時間みたい。パコも頑張ってね!」

ミカが笑顔で拳を突き出すと、パコも同じようにコツンと合わせた。


「うむっもちろんだ!」

二人は軽く別れの挨拶を交わすと、それぞれの所定位置に向かって足早に戻っていった。


やがて各七宮が所定の位置に整列し、会場のざわめきが引いた頃――ゆっくりとした足取りで、一人の男が壇上に姿を現した。

 

「――皆さん揃ったようですね。それでは僭越(せんえつ)ながら、私が開会の儀を務めさせていただきます」

男は落ち着いた声でそう告げ、ゆっくりと両手を広げた。

 

「チッ、よりによって"アイツ"かよ」

バサラは舌打ちし、露骨に眉を吊り上げる。

壇上の男がよっぽど気に入らないのか、鷹のように鋭い視線で男を睨みつけていた。

 

「お初の方もいらっしゃると思いますので、自己紹介を。

私は"ロア・イードン・フェルニーク"と申します。

階級は二等星、現在は第一宮(ルナ)にて、主に夢想魔術の指導をさせていただいております。

どうぞ気軽に、"ロア"とお呼びください」


その声色には、どこか友好的な響きがありつつも、反面、妙にかしこまっていて――感情が読み取れない。

ひょうひょうとして掴みどころのない、一言では形容しがたい奇妙な印象の男だった。


黒髪に、前髪の一部だけ白く染まった長い髪。

身長は百八十センチほどで、細身のフレームの眼鏡越しに覗く

一重の瞳は、常にいたずらっぽくニッコリと弧を描いている。

胸には、三日月型で中心に涙型の宝石が埋め込まれた、 胸章(ブローチ) が静かに輝いていた。

 

「……自己紹介はこのくらいにして。

七宮が揃うのは、一年を通してもこの二日限りです。

普段はそれぞれが異なる理念を掲げておりますが――本日は互いを認め合い、価値ある二日間にいたしましょう」


終始ニコニコと笑みを浮かべたまま語るロア。

その張り付いている様な笑顔に、ミカは思わず背筋をぞわりとさせた。


(……なんか、この人……ちょっと不気味……)


思わず視線を逸らし、バサラの方を見ると。


「……スー……」

ロアの話など完全に無視して、堂々と立ったまま熟睡していた。

その様子をみて思わずミカは「この人も大概か」と苦笑いを浮かべた。


「――それでは、七星に連なる若き魔術師たちよ。

この学院に脈々と受け継がれてきた叡智と誇りに、今一度その意志を示す時です。

七つの宮が相並び、互いの力を磨き、認め、高め合うこの祭典――七宮対抗魔法祭しちぐうたいこうまほうさい


ロアの言葉に耳を傾けながら、パコはそっと瞼を閉じ、静かに心を整えていた。


(遂に始まるのだな……この一週間、ミカとポタモと一緒に作戦は練ってきた。それに、新しく習得した魔法もある。ワルバッカ村の時とは違う――今度はパコが、仲間を守るんだっ!)


胸の奥でぎゅっと気持ちを握りしめ、決意が熱へと変わるのを感じながら、ゆっくりと瞼を開く。

正面を見据えたパコの瞳には、強い決意が滲んでいた。


「ここに集ったすべての者が、星々の導きのもと、正しき力をもって競い合わんことを。

それでは――今ここに、七宮対抗魔法祭の開会を宣言します!」

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