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第八十一話『刻まれた罰の印』

ゾディアーク星級魔法学院

第三宮:ヴィーナス(Venus Wing)にて。


「……隻腕の復讐者が、また――?」

ミカは、力なく地に横たわる妖精たちを前に、言葉を失っていた。

その目は、まるで現実を受け入れられずにいるかのように、どこか虚空を見つめている。


パコもまた、ミカと同じくその場に立ち尽くしていた。

唇を震わせ、何ひとつ声を発することができない。

 

「……でも、どうして分かったんだ?」

ポタモが静かに問いかける。


「これが“隻腕の復讐者”の仕業だってことを」

タフォラスは、しばし沈黙した。

光を失った妖精たちを見下ろしながら、深く息を吸い込む。

そして一呼吸の後、静かに口を開いた。


「……私は、その光景の一部始終を陰から見ていました」


「な、なんだってっ!?」

ポタモは瞳を大きく見開いた。


「しょ、正体が分かってるなら、早く言えよっ!」

少し苛立った様子で、ポタモはタフォラスへ詰め寄る。


「肝心の顔までは分かりませんでした。……なにせ、フードを深く被っていましたので」

タフォラスは、申し訳なさそうに呟く。

 

「なんだよっ、期待させやがってこのっ!」

ポタモは、尻尾でペシペシとタフォラスの頭をはたいた。


「で、ですが……手掛かりを掴むことはできました」

そう言って、タフォラスは一枚の封筒を懐から取り出す。

その封筒に、ミカたちはどこかで見たような既視感を覚える。


「これは確か……前にポタモに見せてもらった物と同じね」

不気味なほど無機質で、味気のない黒い封筒を前に、ミカたちはごくりと生唾を飲み込んだ。


「中には……何が書かれていたんだっ?」

パコは、喉の奥がひりつくような感覚を覚えながら、恐る恐る封筒を手に持つタフォラスへ問いかけた。


「これはまだ、私も中身を確認していません。

隻腕が妖精たちを蹂躙した後、あらかじめ用意していたのでしょう。この封筒を噴水の近くに置き、立ち去っていったのです」


「ひとまずは……開けてみるぞ」

ポタモは短く息を吐くと、タフォラスから封筒を受け取り、慎重に開封を試みた。


封筒には、まるで鮮血のように赤い封蝋印(シーリングスタンプ)が押されていた。

艶めく紅が、灯りを反射してわずかに光る。

これが、隻腕の正体に繋がる重要な証拠品(手がかり)かも知れない――そう誰もが思った、その瞬間。


「なんだこれ」

ポタモがゆっくりと封を切った途端――封筒の隙間から、ドス黒い液体がぼたぼたとこぼれ落ちた。

それは赤でも黒でもない――血とも墨ともつかぬ色。

床に落ちた滴が、じわりと円を描くように広がっていく。


「いかんっ!これは罠だっ!」

ポタモは反射的に封筒から手を離し、できる限り遠くへと放り投げた。


ビシャァ――ッ!!


しかし、開けかけた封筒の隙間からは、なおもドス黒い液体が止めどなく溢れ出していく。

まるで開けてはいけない封印を破ってしまったかのように、ポタモ達は焦りと畏怖の表情を浮かべる。


「そ、そんな……! 液体が入ってる感触なんて、開ける直前までは全くなかったのに!」

声が震える。

予想外の事態に、誰もが息を呑んだまま動けない。


やがてその黒い液体は、まるで意志を持つ生き物のように蠢き始めた。

地を這い、空へと伸び、弾け、そして渦を巻く。

音もなく、瞬く間に黒が緑豊かな庭園を覆い始める。

 


「ミカ! ポタモ! タフォラス! みんなどこにいるんだっ!?」

だが、その声は虚空へと吸い込まれていく。

その光景は、まるで――ブラックホールの内部に迷い込んでしまったかのようだった。


視界は完全に黒に塗り潰され、互いの気配すら掴めない。

音も、光も、温度さえも――この空間からは奪われているようだった。


「皆様っ! とりあえずここから離れましょう!

これは恐らく“闇魔法”……!人間(ヒト)を殺す魔法です!!」

タフォラスは喉を搾り上げるように声を上げる。

震える手で白いローブの内側を探り、小ぶりな木製の杖を取り出した。

そして――考える間もなく魔法を唱える。


「レイバーラ・マキシマッ!!」

その詠唱と同時に、タフォラスの握る杖が眩い光を放った。

次の瞬間、光線状の波動が全方位へと解き放たれる。


「くっ……なぜだ……!?」

しかし、その光は一瞬の輝きを見せたのち、儚く掻き消えた。

辺りにはなお、漆黒の渦が唸りを上げながら巻き起こっている。


「聞こえますかっ! 皆様、無事ですか! どなたか、答えてください!」

タフォラスの叫びが虚空に響く。

だが、その声に応える者は――誰一人いなかった。


何度も、何度も。

喉が裂けるほど叫んでも、返ってくるのは自らの声の反響だけ。

やまびこのように繰り返されるその音が、静寂をより深く突き刺す。


「くっ!こんな魔法見たこともない……!うっ……!」


一体どれほどの時間が過ぎたのか分からない。

永遠にも思える孤独が続いたその時――ふいに。

黒い渦は、まるで最初から存在しなかったかのように、音もなく消え去った。

 

「た、助かった……のか……?」

タフォラスは息を吐く間も無いうちに、すぐさま辺りを見回した。

すると、それぞれが封筒を開ける前とまったく同じ位置に立っているのが見えた。


「皆様……よくぞご無事で……!」


「さっきのは一体……何だったの?一瞬、視界が真っ黒になって……狭い空間に閉じ込められたみたいな感覚がして――」

ミカはまだ、自らの状況が理解できていない様だった。


「パコも同じだっ。隣にいたミカの姿が急に消えたと思ったら……気づいたら、誰もいなくなってて……」


「お、おまえたちっ! あれを見ろっ!」


「え……?」


ポタモの指差す方向に視線を向ける。

そこには、先ほどまでいたはずの妖精たちの姿が消え失せており、代わりに――地面には、二つの奇妙な模様が浮かび上がっていた。

 

「これは……何かの絵かしら?紋章(ロゴ)のようにも見えるけど……でもこれ、どこかで見たことがある気がする…」

ミカの脳裏に、その模様の記憶がかすかに浮かび上がる。

だが、思い出せそうで、思い出せない。


「これは……ここ、第三宮(ヴィーナス)を象徴する紋章です。

そして、その上から大きく“バツ”の文字が書かれています」


「これは、どういう意味なの?」


「恐らく――"隻腕"は目的を達成したんだろう」

ポタモは、静かに、しかし確信をもった口調でそう告げた。

 

「ど、どうしてわかったの……」

ミカは続けて問いかける。


「副学長のウォレスが、元々ここの出身という事は話しただろ。

それを始末した今、第三宮(ヴィーナス)指導者(トップ)は存在しない――そして第三宮(ココ)の象徴でもある妖精達の虐殺。それが、隻腕の目的だったんだ」

ポタモはなおも冷静な口調で言葉を続ける。

そのいつにない真剣な表情から、ことの重大さをミカたちは悟った。

 

第三宮(ヴィーナス)の紋章に刻まれたバツのマーク。

そして――恐らく次の標的があそこだ」

ポタモが指した先。

そこには、第五宮:マルス(Mars Wing)の紋章が描かれていた――。


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