第八話 『パコの秘密』
グゥ〜〜〜。
「あ、ごめんっ」
ミカは赤顔し咄嗟に手を腹部にあてた。
「遠路はるばるご苦労さんだ。腹が減っては戦はできぬからな。ついてこい」
「やった〜っ!」
パコに連れられて、俺達は村の東部にある小さな森へと向かった。
どうやらそこにパコの隠れ家があるらしい。
相変わらず村はひっそりとしており、人の気配はもちろん、小動物の姿さえ見当たらなかった。
吹き抜ける風の音だけが、少し寂しく感じさせた。
「よし、着いたぞ。ここが我が家だ」
木々にすっかり包まれるようにして、そこにはひっそりと一軒の家が建っている。
「お邪魔しま〜す」
中に入ると、温かいランプの光が出迎えてくれた。
部屋は綺麗に整頓されており、木の棚には薬草瓶が並び、片隅には矢筒と共に銀色の弓が立てかけてある。
全体的に植物が多く、長い間山で過ごしていた俺にとっては、どこか安心感を与えてくれる、そんな空間だった。
「今朝処理したばかりの鹿肉がある。二人はそこの椅子に座って待っててくれ」
パコはそういうと、部屋の奥にある台所へ消えていった。
「おお、鹿肉かっ!俺の大好物だ」
「鹿肉ッ!?私は食べたことないけど、今はなんでも胃にさえ入れば幸せだわ…」
俺とミカは食卓に座ると、料理が到着するまでしばしの休息をとった。
「よ〜し出来たぞ。熱いうちに召し上がってくれ」
その食卓に並んだのは、季節の野菜が添えられた、焼きたての鹿肉ステーキと、スタミナがつきそうな薬膳スープ、そして香ばしいバターの焦げた匂いが食欲をそそる、出来たてのパンだ。
「うわ〜〜美味しそうっ!いただきますっ!」
俺は合掌し瞼を閉じる。
そして、いつもの食前に行う口上を読み上げる。
「我が身の血となり肉となり、この魂が尽きるまで、俺と共に過ごそう。嗚呼、生命に感謝――いただきます」
「アンタ毎回それ言ってんの!?律儀だけど面倒くさいわねッ!!」
と三人で束の間の団欒を楽しんだのだった。
「あ〜美味しかったお腹いっぱい!全部美味しかったけど、1番はやっぱり鹿肉のステーキね!臭みもないし、ジューシーで最高ねっ癖になっちゃったわ」
「鹿肉は狩猟過程と解体工程で手間取ると臭みが出る。パコは狩猟も解体も上手なんだな!こんなに美味い鹿肉は初めて食べた」
俺達二人はパコの料理の腕前にしっかり感心していた。
「そりゃあそうだ、伊達に何百年もやっとらん」
「ですよね〜〜って…え!?何百年ってどういうこと??」
ミカは思わず身を乗り出してそう問いかける。
「なんだ、気付いてなかったのかお前達。パコは"エルフ"だ」
そう言って、パコはふわりと髪をかき上げた。
鮮やかな緑色の髪の奥から、可愛らしくとんがった耳がチョコンと顔をのぞかせる。
「そうだったの!?どうりで肌が白くてお人形さん見たいだとは思ってたけど!あれ…でもここら辺ってエルフの里からはかなり離れてるわよね」
「ああ、色々あってな。それはまた機会がある時に話すとして、今はこの森で一人で暮らしている」
ミカとパコは、すっかり"エルフ"?についての話題で盛り上がってる様だった。
エルフ…?
食い物ではないな。
恐らく話の文脈的に種族か何かではあるのだろう。
それもパコを見る限り、かなり人間に近い種族だ。
(ステル様、ステル様…私がこーっそり教えますよ!)
そう、心の中でモデスが俺に語りかけた。
エルフ――それは森と共に生きる、長命なる種族。
尖った耳と透き通るような容姿を持ち、一応人間ではなく精霊に属するらしい。
狩猟の際には剣や弓を扱い、はたまた薬学や魔法に精通している者もいる。
戦えば風のごとく軽やかに、癒せば水のように穏やかに――その在り方は、まさに自然そのもの、とモデスが丁寧に教えてくれた。
「てっきり歳下の子かと思って馴れ馴れしく接してたわ…パコラさん、ごめんなさい」
ミカは申し訳なさそうに頭を下げる。
すると、パコはこう続けた。
「顔を上げろっ畏まらんでいい。パコは堅苦しいのは嫌いだ。
今までどーーり接してくれっ」
パコは笑顔で二人へ向けてそう言った。
「おう、俺も堅苦しいのは大嫌いだ!宜しくなチンチクリン!」
「そこまで言えとは言っとらーん!!!」
その後しばらくの間お互いの話をして、パコともすっかり仲が打ち解けた頃、気がつけば外は漆黒の暗闇に包まれていた。
「出発は明日。スケルトンキングの根城は、ここから少し離れた場所にある。今日は早く寝て明日の朝旅立つぞ。二階に寝室があるから使うといい」
「分かったわ。あとこんな可愛い服も用意してくれてありがと!沢山面白い話も聞けて、パコに出会えて本当に良かった」
とミカは改めて感謝を述べる。
パコは過去にも、何度か人間を泊めた事があったそうで、その時のパジャマをとっておいたそうだ。
見るからに胸と尻の部分がパッツパツではち切れそうだったが、ミカは喜んでいたのでいいのだろう。
かういう俺の分もパジャマはあるとのことだったが、潔くお断りしておいた。
「よし、そろそろ寝るか」
生まれて初めてベッドというものに横になる。
「ズーズー。スピー」
その間0.3秒、俺の意識は彼方へと葬り去られた。
これが、睡眠誘導界の頂点…か……。恐るべし……。
「それじゃ、私も二階に上がるとするわ。パコおやすみ〜」
そう告げ私は二階へと上がった。
部屋のドアは一つ、電気は…消えてるわね。
ゆっくりと扉を開けるとそこには、キングサイズの大きなベッドが一つあった。
というより、一つしかなかった。
ベッドの上には爆睡中の勇者が大の字で寝転がっている。
(ちょーっと…!なんでこんな図々しく大の字で寝っ転がってんのよ…!?しかもココ、ベッド以外に何もないわ…横に布団を敷く隙間すら無いじゃない)
ミカは心の中でそう呟いた。
(背に腹は変えられないわ…!……ヨシ!)
ミカは覚悟を決めると、ゆっくりと起こさない様にベッドの端の方に横たわる。
(ああっ……フカフカで良い匂い……天国……!)
ミカは久しぶりのベッドの寝心地に癒され、あっという間にウトウトと眠りの世界に入ろうとしていた、その時だった。
ガバッ!!
「え……!?」




