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第七十三話『トラブルメイキング』

「頼も~~う!!」

俺は腹から声を張り上げ、小屋の扉を勢いよく押し開けた。


「ちょっ、バカッ! それじゃあ道場破りみたいじゃない!」

ミカは慌てて俺の前に出て、扉の向こうへ頭を下げる。


「す、すいませ~ん! 私たち、イデアル様に言われてここに来たんですう~!」


ギィィィィ――。

建付けが悪いのか、扉は軋んだ音を響かせながら、じわじわと開いていった。

足を踏み入れた瞬間、鼻腔を刺すような怪しげな匂いが押し寄せる。


「ここで、本当にあってる、のよね……?」

ひんやりとした冷気が肌をなぞり、背筋にぞくりと寒気が走った。

部屋は薄暗く、天井から吊るされた紫のランプ灯が、ゆらりゆらりと揺れながら、不気味な影を壁に映していた。


「むぅ~……良くも悪くも予想通り、不気味な場所だなっ。それにしても……うぅ、冷える冷えるっ」

パコは両腕で肩を抱き、ぶるぶると震えている。


「確かにな、いくらなんでも冷房効きすぎだろ……この小屋の住人、ほんとに普段からこんな所で暮らしてんのか?」

俺はぼやきつつも視線を巡らせた。

そして少しずつ、この空間の全貌が見えてきた――。


良く言えば賑やかで個性的、悪く言えばただのゴチャゴチャ。

壁には、星座や惑星の図が描かれた古地図、動物の骨格標本、そして何語とも知れぬ呪文の巻物が雑然と並んでいる。

棚には奇妙な瓶や、埃をかぶった水晶玉。

さらに床の脇には、乾いた謎の草や動物の骨らしきものが、まるでゴミのように投げ出されていた。


――グチャリッ。


「キャッ!!」

ミカが甲高い声をあげる。

見ると、どうやら床に散らばっていた“何か”を踏みつけてしまったようだ。

 

「キャーーーッ!!! な、なによコレッ!?」

ミカは再び悲鳴を上げると、慌てて足を跳ね飛び上がった。

その足元には、粘り気を帯びたブヨブヨの物体が、ぬちゃりぬちゃりと蠢いている。

それはまるで意志を持つかのように形を変え、じわりじわりとミカの脚に絡みつこうとしている。


「むぅ……スライムか?……いや違うな……」

パコが顔をしかめて呟いた、その瞬間―――。

 

ビュルルーッ!!

粘体は奇妙な鳴き声を上げると、突如として跳ね上がり、ミカの右脚に勢いよく飛びかかった。

冷たい感触がじわじわと襲う。

そして絡みつくように太ももへと這い登っていく。

 

「キャーーーッ!!何コイツ!?ヌルヌルしてて気持ち悪いっ!お願いだから離れて離れてっ!!」

謎の物体に悪戦苦闘しているミカをよそに、俺の目は部屋の中央――ひときわ異様な存在感を放つ場所に吸い寄せられた。

それは小屋の中に、さらにもう一つ“小部屋”があるような…まるで家の中にテントを張ってキャンプをしているかのよう。

その空間は厚手のカーテンで覆われており、中の様子は一切うかがえない。

 

「ん?……あそこが怪しいな。パコ、入ってみるか」


「うむっ」

 

「ちょ!? 無視しないで助けてよアンタ達ッ~!!」

幸い、あの粘体に危険性はなさそうだ。

なんなら――懐いている、と言っても過言ではない。

これなら多少放っておいても問題はないだろう。


「お邪魔しま~す」

俺とパコは二人そろって、恐る恐る足を踏み入れた。

中にはぽつりと円卓が一つ。

その上には、使い古されたようなカードが乱雑に散らばっている。

描かれているのは星や獣、見覚えのない文様……占いか、あるいは呪術につかう何かだろうか。


「むっ、なんだ。誰もいないじゃないか――」

パコが肩をすくめた、その時だった。


「出タ~~~~ッ!!!!」

カーテンを隔てた向こうから、ミカの悲鳴が突き抜けて響き渡った。


「どうした!?何かいたのか!」

俺とパコは慌ててミカの状況を確認するために、カーテンを勢いよくめくった。


「せっかくの昼寝を邪魔しおってからに――ん? なんだ、ガキ共。今日は臨時の定休日だわよ」

鼻にかかる癖のある声が、天井の方から響いてくる。

スライムのような物体に絡め取られ、悶えているミカの頭上に、逆さまにぶら下がる“生首”が……!!!

 

「なんだあの魔物はっ!?」

パコは驚きつつも、咄嗟に弓を構えた。


「いや、違う……あれは魔物じゃない、“妖怪”だ!」

俺の声も自然と震える。

「妖怪……首だけ老婆だ!」

 

「ぬかすな! ワシは生首でもなけりゃ妖怪でもないだわよ!」

首だけ老婆がそう叫ぶと、次の瞬間――天井から突然飛び降り、ミカに覆いかぶさろうとしている。


「危ない、ミカ!よけるのだっ!」

「キャーーーーーーーーー!! や、やめ…え?」


しかし、結果は思いもよらないものだった。

ミカの頭の上には、先ほどの首だけ老婆がちょこんと行儀良く正座している。

「頭の上に正座?」――そう疑問に思うのも無理はない。

だが、目の前の光景がまさにそうなのだ。


よく見ると老婆は真っ黒なローブに身を包み、手足もしっかりとある。

しかし、その体の大部分は――顔で埋め尽くされているかのようだった。

仮に体長が五十センチだとすれば、顔だけで四十五センチを占めている計算になる。


なるほど、生首に見えたのは顔が大きすぎるうえに、暗がりの真っ黒な服装のせいで輪郭がほとんど判別できなかったからだ。

俺たちはその状況を把握できず、三人の頭上には大きな疑問符浮かび上がる。

 

「静かにせい、チンチクリン共。

ワシは妖怪でもなきゃ魔物でもない。

このボロ小屋の宿主――"ラズリン婆や"だわよ」

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