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第七十二話『魔女の館(?』

「いえ、あのその……あなた方の服装が、この国では珍しかったもので……ま、迷っている様子だったので、し、親切心で、えーその、はい…」

少年は、たどたどしい口調でそう答えた。


「あっ、それなら丁度良かったわ!私たち、魔法学院を目指してるの!どこにあるかアナタ知らない?」


ミカの問いかけに、少年は一瞬ビクつきながらも、ボソボソと小さい声で呟いた。


「え、ええ…一応…僕も、そこの生徒です……」


「ホントッ?それなら案内してくれる?私はミカ!アナタは?」


「は、はい。僕の名前はモルック、"モルック・ブラン"です…」


――そこから先はとんとん拍子というか、ともかく俺たちは幸先よく、目的地へのきっかけを掴んだのだ。

モルックは学院への案内を承諾してくれるやいなや、背中の仰々しい杖を手に取った。


「それが……あなたの魔法杖なの?」

ミカは杖にすっかり興味津々な様子で、モルックに問いかける。


「は、はい。正確に言うと魔法杖ではなく、魔導(まどう)杖です。

この国では割と一般的な物ですが、これは僕が少しアレンジを加えてまして……」

言いながらモルックは杖の先端部分にあるボタンのようなものを操作する。


ガシャコーン。ヴヴヴヴィーーーーン。

そんな無機質な機械音が鳴り響くと共に、先程の杖はみるみるうちに姿形が変わり、大きな鉄の絨毯のようなものへと変形した。


「うわ〜ステキッ!魔導杖って、こんな事もできるのねっ」

ミカの瞳はキラキラと宝石のように輝いている。


「はい、どうぞ皆さん乗ってください。

乗り心地はイマイチですが、これであれば二十分程で、学院までは辿り着きます」


「むむっこれはすごいぞっ。あながち寝心地も悪くない。

これが最先端の技術か」

パコは真っ先に飛び乗ると、小さい体を存分に伸ばし、寝そべりながら感心していた。

順応の早いパコにも驚かされたが、せっかくの良心を無下にするのは良くない。

俺たちはモルックに礼を言うと、鉄の絨毯へと腰を下ろした。

そうして、俺たちを乗せたモルック号(勝手に名付けた)は、学院へ向かってゆっくりと突き進んでいく。

時速はおよそ三〜四十キロほどだろうか。

グランの飛行を経験している俺たちにとっては、実に快適な部類に入る。

しかも空には信号も渋滞もない。

左右上下、行きたい方向へ好きに進める――これほど便利な乗り物は、そうそうないだろう。


そうして快調に空を滑りながら、道中で交わしたやりとりの中から、俺たちは「モルック」という人物について、いくつかのことを知ることができた。

 

モルックは、ゾディアーク星級魔法学院の六等生であること。

この学院は一般的な学舎の進級とは異なり、個人の魔術師としての力量が、そのまま等生として与えられるそうだ。

階級の区分は主に六つ。

等星は一等星が最も(くらい)が高く、六等星はいわば入門者といったところか。

中には入学時点でいきなり四等星なんていうバケモノもいるらしいが、それはゾディアークに入学する前からある程度有名な魔術師がほとんどだという。

話を聞く限り、俺が六等生である事はほぼ間違いなさそうだ……と、そんなこんなであっという間に、俺たち四人は学院の門前へとたどり着いた。


「助かったわモルック!一時はどうなることかと思ったけど、アナタのおかげよ!」

ミカはここまで案内してくれたモルックへ、感謝の言葉を述べた。


「いえいえ、僕も丁度これから向かうところだったので。

それで皆さんは、これから入学の手続きをするんですよね?」


「ああ、そのつもりだ。それにしてもバカでかい校門だな。

こないだ戦った、バカでかロボットを思い出してきた…」

見上げてもなお、頂は霞んで見えない。

その校門の扉は、まるで天空へと突き抜けるかのように高く聳え立っていた。

もしグランを連れてきたとしても、これなら悠々と通り抜けられるだろう。

 

「それでは適正試験がありますので、僕とはここでお別れです。皆さんはあちらへ向かってください」

そういうと、モルックは大きな門とは逆の方向の、小さなボロボロの小屋の方を指差した。


「え?あのボロボロの、今にも魔物が飛び出てきそうな、あれ?」

ミカは先ほどとは打って変わって、不安げな表情を浮かべている。

だが、そう思うのも無理はない。

壁面には無数の絡まるツタが這い、煙突からは黒緑色の煙がモクモクと立ち上っている。

きっと扉の向こうには――鼻のとんがった意地の悪そうな老婆の魔女が、人骨や蝙蝠(こうもり)の羽をグツグツと釜で煮込んでいるに違いない。

あの小屋は、どう見ても不穏な空気MAXだ。

四方八方どの角度から見ても怪しさプンプンである。

 

「この国に魔物はいませんから安心してください。

それでは講義が始まるので僕はこれで!また会ったらその時は!」

そう言い残し、モルックはスタスタと、その場を去って行ってしまった。


「……行ってしまったなっ」


「行っちゃったわね……」

俺たちは少しの時間、呆然と立ち尽くす。


「まぁ、モルックは悪いやつではなさそうだし。

ここで立ち止まっていてもしょうがないしな。言われた通りにしてみるか」

俺が一言そう呟いた後、三人は重たい足を引きずりながら、恐る恐るボロ小屋へと向かうのだった――。

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