第七十一話 『フォルトゥーナ帝国』
「完全に、ほっぽり出されちまったな……」
「いくらなんでも雑すぎじゃないっ!?私たち、学院の場所も何も分からないんだけど!」
ポタモと白装束が忽然と姿を消してから少しして。
近くの停留地にグランを停留させた後、俺たちはひとまずフォルトゥーナ王国の城門へと再び足を運ぶ。
高くそびえる石の門には、鋭い眼差しの兵士たちが立っていた。
各々が見慣れない武器?のようなものを手にし、まるで異邦人を拒む肉壁のように並んでいる。
だが――俺たちの姿を見るとすぐに何かを察したのか、互いに短く合図を交わし、門を開いた。
既にイデアルが伝令でもしているのだろうか。
俺たちは検問に引っかかることもなく、あっけないほど容易く城下へと足を踏み入れることができた。
「ここが、フォルトゥーナ帝国……」
俺は思わず息を呑む。
視線の先に広がる光景は、三大都市国家の名に恥じぬ、まさしく壮観の一言に尽きた。
空を突くように屹立する尖塔、色鮮やかな魔導灯で飾られた街路。
往来する人々の衣服は、絹や魔獣の毛皮、さらには煌めく魔石を縫い込んだ装飾品に至るまで、今までのどの国とも次元の違う華やかさを放っている。
建造物ひとつ取っても、ただの石造りではない。
壁面を走る術式の光が脈動し、まるで都市全体がひとつの巨大な魔道具であるかのように見えた。
「キャ〜〜ッ!!門をくぐるまでドキドキしてたけど、想像以上、百億点満点よっ! ここが、私の夢にまで見たフォルトゥーナ帝国――ポタモに言われた問題なんて、完全に吹き飛んじゃったわ〜っ!」
「こらっ!浮かれすぎてはいかんぞっ!パコ達には目的が……」
パコの静止を聞く前に、ミカの姿は視界から消えていた。
よくよく辺りを見回すと、遠くの方の煌びやかな魔道具店の前で、目をキラキラさせながら商人に詰め寄り、絶賛値切り交渉の真っ最中だ。
「ぐぬぬぬぬぬ……ミ〜カ〜ッ!!!」
パコは腹の底から湧き上がるように声をあげると、そのまま商談成立寸前のミカの腕をガシッと掴み、力づくで引きずり戻した。
「ただでさえ資金は限られているんだぞっ!買い物は諸々終わった後にせいっ!」
「も〜うっパコのけちんぼー!」
ミカは頬をぷくりと膨らませ、不満げに腕を組んでみせる。
だが、なんだかんだいって結局は、俺たちと歩調を合わせて先へと進む。
そして数歩もしないうちに、憧れていたフォルトゥーナの地について、ペラペラと早口で熱弁を始めた。
(まったく……でもそれだけ憧れていたんだな。しょうがない、ここは素直に聞いてやるとするか)
そんな様子で、パコと俺はミカの話に耳を傾けた。
ここではその熱弁のごく一部を、ざっと紹介しよう。
〜フォルトゥーナ帝国〜
ここはまさに、魔術の叡智と近代文明が融合した混在都市とでもいおうか。
石造りの街並みには、空飛ぶ馬車や魔導機械が行き交い、街灯は昼も夜も魔法の光で街を照らす。
なによりこの国の凄いところは、完全に"自給自足"であることらしい。
都市全体の八割にも及ぶ魔術師の魔力をエネルギーとして変換する、巨大なクリスタルの塔――「ハルモニ」の存在だ。
それは街の中心に天まで届くかと思うほどにそびえ、その頂上では魔力をエネルギーに変換する巨大な魔導装置が回転していた。そのおかげで、街の住人は水や食料、光、さらには空飛ぶ乗り物までも魔法によって日常的に利用できるのだそうだ。
日常の中に魔法は溶け込み、子供たちは学びながら小さな魔法を使い、商人たちは魔導器具で荷物を運ぶ。
魔法と科学が共存するこの街は、単なる都市国家ではなく、まさに「魔法文明の最先端」を体現していた。
外部からの侵入者にとっては、ただの壁や門のように見える防御も、魔法と技術が融合した自動防衛システムで都市を守っている。ここでは、普通の冒険者でも思わず息を呑むような奇跡が日常茶飯事として起きるのだそう――。
とまあ、今の説明は序の口で、ミカの"フォルオタ"具合はとどまる事を知らなかった。
街中を散策している俺とパコは、すっかり半ば疲弊し切っていた。
ミカの止まらぬ早口の解説を背に、石畳の通りを抜けたその時――
「わっ!」
不意に前方から人影が飛び出し、先頭の俺は思わずよろめく。
回避しようと体を捻ったまでは良かったのだが――捻った方向が悪かった。
ゴチーーーンッ!!
案の定、目の前の人影の頭頂部が、まるで俺の股間めがけて吸い込まれるかのように直撃する。
「パゥマァ……!?」
激痛に、意識が一瞬ふわりと飛びかける。
なんとか気絶だけは免れたが、立っているのがやっとの状態で、自らの股間を押さえながらなんとか正面を向き直った。
「ご、ごめんなさいっ!僕、急いでいてついうっかりっ……大変失礼しましたっ!!」
人影の主は申し訳なさそうにこちらへ何度も頭を下げている。
未だに目がチカチカしていて、表情はよく見えない。
「あ、ああ……き、気にすんな……かすりキンタマだ……問題ない」
「かすりキズみたいに言うな」
パコが後ろから冷静に呟く。
「ほ、本当にすみませんっ!ってあれ……?失礼ですが…この国の方ではないですよね?」
「あ、ああ。その通りだが……なんで分かったんだ?」
よし、視界がようやく開けてきた。
見たところ年齢は若そうで、十代だろうか。
いかにも魔法使いといったような帽子を被り、黒髪でボサボサの髪は長く伸びており、分厚い眼鏡のレンズが印象的だ。
学生服のような装いをしている。
身長は百六十センチ程度と小柄だが、なにより真っ先に目に止まったのは、その体躯に似つかわしくない程の大きな金属で出来た杖のようなナニカを背負っていた事だ。
というかこれは杖なのだろうか、もはや槍のようなナニカにさえ見える。
「あ、はい。それはですね……」
少年との出会いが、俺たちにとって吉とでるか、はたまた凶とでるのか…。




