第七話 『奇妙な村』
「…あれが、"スコット村"か。おいミカ〜村が見えたぞ」
ステルは、少し後方にいるミカに向けて声をかける。
「ハァハァハァ……もぅ本ッ当〜に疲れたわ!野宿したから全身がバキバキよ!早く、フカフカのベッドに転がりたい〜」
時刻は正午を迎えるといった所。
俺たちは約三時間休みなしに歩き続け、初めての村、"スコット村"へ辿り着こうとしていた。
スコット村は、俺が転生したダラス王国の首都、"ダングラット"に比べると、規模は小さく小さな集落のようだ。
村の外には大きな城門など無く、憲兵団も見かけない。
俺にとっては、これくらいの村が1番居心地がいい。
「案外サクッとこれたな。モデスの言う通り、ここ迄の道のりも魔物は殆どいなかったし」
そう言って、村へ入ろうとしたその時だった。
「止まれっ、そこの変態かっぷる!」
どこからか、俺たちへ向けてそう叫んでいる。
「変態…カップル?一体何の事…」
ミカは一瞬言葉の意味が分からなかった。
ふと、冷静になって考え理解した。
自分達は、ほぼ裸同然の姿で過ごしていた事に――。
「マ、マズイわよステル、当たり前になってて気づかなかったけど、私達の格好は、普通の人が見たらほぼ露出狂よ…!アンタは特に!」
「そうなのか?異世界っていうもんだから、そこら辺はもっと寛容だと思っていたのだが」
この"パンツ一丁腕組み男"は全く気にしていないようだった。
「おいっそこの変態かっぷる、聞いてるのか!今すぐに立ち去れい」
このままではマズイ…ミカはそう思い、自分達の状況を包み隠さず伝える事にした。
「あの……!私達、ゴブリンの巣窟からここまで来たの。そこで色々あってこんな格好になっちゃったんだけど…よかったら衣服を貸してくれないかしら。勿論、お代はしっかり払うわ!」
「……」
少しの沈黙の後。
入口の方から、小さい影がヒョコッと姿を現した。
「おまえ達、妖魔か何かじゃないだろうな…」
疑い深い眼差しで俺たちを睨んでいる、その声の正体とは――。
金ピカの髪にぱっちりおめめ。
背丈は小さく、顔立ちにもまだ幼さがしっかりと残っている。
年端もいかぬ幼女だった。
「あら、この子可愛い〜!私はミカ・イライザ・スカーレット、ミカでいいわよ!でこっちは勇者のステル。アナタの名前は何て言うの?」
ミカは目を輝かせながらそう問いかけた。
「馴れ馴れしいぞ!まだおまえ達を信用した訳じゃないからな…とにかくこれ着てついてこい」
そういうと、幼女はなにやら大きな黒い布を二つ渡してくれた。
そのまま幼女はスタスタと村の方へ走って行ってしまった。
「凄いわ、あんな小さいのに。しっかりしてるわね」
「不思議なヤツだな…ま、とりあえずついていくか」
こうして、ミカと俺はその布をマントの様に羽織り、謎の幼女について行く事となった。
「おまえ達、なにしにここへ来た」
その幼女は歩きながらそう問いかける。
そこで、俺は今までの簡単な経緯を説明した。
異世界転生した勇者である事や、俺のユニークスキルが使えなくなってしまった事、そしてそれを解決する為に、まずはこの村にきたことも包み隠さず色々話した。
「それでここにきたのか。おまえ達、タイミングがいいな」
「何がだ?」
「お前のユニークスキル:断捨離を復活させられるかもしれないぞ」
「本当か!それは、強い魔物がいるということか?」
ステルは目を輝かせながら、幼女へ迫っていく。
「なにか違和感に気付かないか?」
「え?」
その声に促される様に、俺は周囲を見渡した。
特に違和感のある所は見当たらないが…。
「……それは、来たときから思ってたわ」
ミカがぽつりと口を開く。
「ここ、“空っぽ”なのよ」
「どういう事だ?」
俺はミカに問いかける。
「つい最近までの生活の跡はある。だけどおかしいわ。
私達以外の、"人の気配が全くしない"」
ミカにそう言われハッとした。
確かにこの村に入ってから今の今まで、俺達以外の人間に出くわしていない。
俺は静かで居心地が良いぐらいにしか思っていなかったが、なるほどそういう理由だったのか。
「その通り…それは奴等が、殆どの村人を連れ去って行ってしまった事が原因だ」
「その、奴等って…?」
「不死を願った骸の連隊――スケルトンだっ」
幼女は凄みながらそう言った。
さながら、怪談話のクライマックス部分を語る時のように。
「スケルトン……なんか卑猥だなそれ」
「バカァ!」
ゴチンッ
ミカの鋭い鉄槌が俺を襲う。
「なんだよ、正直に思った事を言っただけだ。
スケルトン…スケルトン…スケルトン…ほら、繰り返すほどエロくなる」
「んなことないわっ!それよりステル、ゴブリンに続いてスケルトンも知らないの!?」
ミカは目を丸くして俺に問う。
「ああ、美味いのか?それ」
「アンタの興味そこしかないのねッ!」
「ステル様、私が説明します!」
そんな俺達の会話を見かねてか、モデスが"スケルトン"という魔物について、詳しく教えてくれた。
スケルトン。
それは、死者の骨に魔力を注ぎ込み、再びこの世を歩かせた“操られし骸”。
そこには感情も理性もなく、ただ命じられるままに動く、恐ろしい存在らしい。
「そのスケルトンを統率する者こそが、骸の王"スケルトンキング"なのだっ」
「ソイツを倒せば、俺の断捨離スキルがまた使える様になる訳だな。よし、やってやる」
スケルトンキング…確かに名前からしても、ゴブリン達よりは手強そうだな。
だが、こんなところで立ち止まってる場合じゃない。
俺の"断捨離スキル"の為にも。
スッケスケの王は俺が倒してやる!
「そういえば自己紹介がまだだったな。名前は"パコラ・ルス・プロメリアだ"。パコでよい」
パコはそういうと俺達二人に両手をパッと差し出した。
「ああ、よろしくな。パコ」
「よろしくね、パコちゃん」
俺たちはその手を握り握手を交わした。
新たな出会いが、俺達の冒険を加速させる――。