第六話 『死活問題』
「"断捨離"できないって、どういうことよ!?アンタの唯一のユニークスキルなんでしょ?」
「ああ…その筈だが、何度入れようとしても弾かれる」
ステルは、自身にしか視認できないゴミ箱へ何度も移動を試みるが、ブッブーという音と共にあえなく弾かれる。
「おかしい…ん……?なんだこの小さな"×マーク"は?」
よくよく目を凝らしてみると、ゴミ箱の横には小さく赤いバッテンマークが表示されていた。
「これは…"容量超過"ですね。現在の状態では、これ以上断捨離する事は出来ません」
モデスは二人に向けて、脳内へそう語りかけた。
「ナニィ!?これ以上断捨離ができないだと!!?
そ、それは、それだけは駄目だ……」
ステルは、かつて見た事のないほどに怯えた表情でそう言う。
「確かに、アンタの唯一ともいえるスキルが使えないってのは、この先厳しいわよね…レベルが上がらないと、強い魔物も倒せないでしょうし」
「レベルなどどうだっていい。お、俺は、定期的に断捨離しないと、ストレスで理性が崩壊し狂ってしまうんだ…そして最終的には死ぬ」
ステルは大きく頭を抱えた。
「断捨離ってアンタにとってそんな命懸けの儀式だったの!?」
「ほらみろ、既にストレス症状が体に現れている」
ステルはおもむろに頭を下げて頭頂部をミカにみせた。
すると、さっきまでの寝癖だらけの頭髪はどこかに消え、直径十センチほどの巨大なカッパハゲができているではないか!
「アンタ体の構造どうなってんのよッ!?」
「ステル様、まだ諦めるには早いです!容量が超過してしまったのであれば、拡張すればいいんです!」
少し興奮気味で、モデスはそう言う。
「拡張だと……?」
「はい、簡単に説明いたします。
まずステル様の現在ステータスがこちらです」
ブォン――。
ステルの目の前に突如としてステータス画面が表示される。
称号:見習い断捨離人:Lv.20
• HP《体力》118
• MP(魔力)0
• STR(筋力)160
• DEF (防御力)104
• AGI (敏捷)131
「今回は特別に、ミカ様にも見える様にいたしました」
「あらモデス、気がきくわね…ってステル、魔力の数値0!?
異世界きてまでフィジカル系ブッパって…醍醐味0よそれ」
「ああ、信じられるのは己の体一つのみだ。それに魔法を使う為には、ミカの持ってる様な杖がいるんだろ?常日頃から持ち歩くなど、"ダンシャラー"の俺には到底不可能だ」
「ギャンブラーみたいに言うなッ!」
ミカは間髪入れず鋭いツッコミを入れた。
「容量を拡張するためには、レベルの上限解放が必須です」
それから、モデスは丁寧に二人へ説明を始めた。
ユニークスキル:断捨離は"ある条件"を満たすことによって、容量を拡張しより多くの断捨離が可能となる。
開放する条件は以下の二つ。
1. レベルが一定値に達していること。
2. 一定以上の魔力を有した魔物から得られる突破素材。
モデスが言うには、現状俺は既に"見習い断捨離人"時点の最大レベル(Lv.20)には達している。
その場合、もう一つの条件を達成することによって、上限開放(Lv.30)が出来るらしい。
「なるほどな、その素材さえあれば、また直ぐにでも断捨離が出来るということかっ!!」
さっき迄の落胆した様子が嘘の様に、ステルは目を輝かせ勢いよく立ち上がった。(あとなぜか髪も生えた)
「となれば行動が早いことに越した事はない。行くぞミカ!俺に着いてこい!」
「ちょっと、まだ色々聞きたかったのに〜!!」
ステルの後を追う様に、ミカも続けて走り出す。
一行は次なる目的地、"スコット村"を目指すのであった――。
その頃、ダラス王国では――
「国王様、大変です! ま、魔物が……我が国の領内に現れましたッ!」
謁見の間の扉が激しく開かれ、数人の衛兵を従えた騎士団長が、息を切らしながら駆け込んでくる。
「なんじゃと……!?敵の数は?」
王は玉座から身を乗り出し、重々しい声で問うた。
「それが……どうやら一人?の様です」
「…はぁ?魔物の一、ニ体如きで、わざわざ報告するでないわっ!さっさと衛兵を連れて討ち取るが……」
その時だった。
「ぐぁあぁあぁああぁあああぁッ!!!!!」
突如として、衛兵の一人が大きな叫び声を上げそのまま倒れる。
それは一人、また一人と連鎖する様にして、気がつくとダラス国王以外の全員が、その場に倒れ伏してしまった。
かろうじて息はあるようだが、その表情はまるで魂を抜かれてしまったかの様に、完全に生気そのものを失っていた。
「な、何事だ!?」
「フフフ…魔物だなんて、そんな低俗なモノと一緒にしないで欲しいわ」
ゾワリ…
耳元で、妖艶な雰囲気の声をした女性が囁く。
瞬間、国王は全身に只事ではない程の悪寒がした。
「キ、キ、キサマ、は……っ!」
「少し遅かった様ね…わざわざ空間転移魔法でここまで来たのに。久しぶりねオーサン、あ、今はダラス国王だったかしら」
「その見た目…キサマは"四十年前"から、変わっていないようじゃな」
「フフフ…貴方もかつてはあんなに逞しかったのに。今はこんなになっちゃって…」
そう言いながら、その謎の女はダラス国王の身体へ触れる。
ねっとりと、確かめる様に。
「やめいっ!」
ダラス国王はその手を無理やり振り払うと、少し距離をとり相手を見据えこう告げる。
「何をしにきた、ロザリン…いや、"黒鷲の魔女"――"ロザリン•フエナ•ダスクヴォーグ"よ……!」
勇者ステルは無論、この事を知る由もなかった。
今、王国で起きている出来事を。
"黒鷲の魔女"それは果たして敵か、味方なのか。
物語には色が加わり、謎は深みを増していく――。