第五十九話『集い』
「ア、アイツは確か……!」
俺はその声と顔に見覚えがあった。
どこで見たんだ――つい最近のはずだ。
喉元まで出かけてるのに、肝心の名前が出てこない……
「そうだ!お前は確か、俺と同じく決勝トーナメントに出場してた――ボンジンだ!」
「……"ホ・ン・ジ"じゃ。名前ぐらいしっかり覚えておかんか」
道玄は俺の記憶力の悪さに深くため息をつく。
「そうだったホンジ!でもいつの間に、アイツは会場を抜け出したんだ……?」
ステルの疑問はよそに、ホンジはつらつらと語り始める。
「フッフッフ。ワルバッカ村の治安部隊はな――アクダインッ!貴様がこの村に現れてからというもの、我々はお前の素性を調査していた。そして今回の一件――"メロンネの殺害事件"によってついに!決定的となったのだ!」
「……ッ!?」
ホンジの口にした言葉の意味が分からず、ステルは大きく動揺する。
(メロンネのサツ……ガイ……?一体何を言ってるんだ?
メロンネは事情があって棄権したはずだ)
「どうにか隠そうと画策したようだが――残念だったな。
すでに裏はとれている。貴様の悪虐もここまでだ!今すぐ投降しろっ!」
気がつけば、Zarkの周りには数十台の装甲車が四方を取り囲んでおり、鈍く重い砲台の先が、対象へと向けられている。
小さな村の治安部隊が、ここまでの戦力を用意するなんて。
保安官ホンジ……コイツは思っていた以上に、とんでもない男なのかもしれない。
これはもしかしたら、いけるかもしれない。
ステルの中に、そんな希望が芽生え始めていた。
「……ンピョーーーーッ!!こざかしい駄犬共が〜っ!
こんなチンケなガラクタで、ワガハイのZarkを止められると思うなぁ〜〜〜〜ッ!!」
圧倒的な存在の自身へと、傷つきながらなおも立ち向かうその執念に、アクダインは苛々とした感情を募らせていた。
そして烈火のごとき雄叫びを上げ、両手でパネルを荒々しく叩きつける。
次の瞬間、Zarkの脚部から轟音と共に圧縮空気が噴き出した。
たちまち巨体は地を離れ、ゆっくりと宙へ浮かび上昇を始めた。
「逃すかッーーー!迎撃よおおおぉぅい、打てッ!!」
ホンジの怒号と同時に、装甲車の砲台が一斉に火を吹いた。
轟音と閃光、弾雨のごとき爆撃が容赦なくZarkを襲う。
だが――現実はそう甘くはなかった。
ひとしきり撃ち終わった後、爆炎が収まり白煙を突き破って姿を現したのは――傷一つないZarkの姿だった。
「ンビョームッ!ビョームッ!ビョオオオォム!」
怒り狂い我を忘れたアクダインは、辺り一面至る所に熱光線を乱射した。
それこそでたらめに、見境なく放たれたその光線は、鉄の塊である装甲車をいとも容易く溶解し、葬り去る。
「ば、ば、馬鹿な……!軍から調達した、最新鋭の装甲車だぞ……!?」
ホンジは目の前の惨状に言葉を失い膝をつく。
優勢に見えた攻勢は、一瞬にして絶望へと染まる。
「ビョーーッ! ビョビョビョッ!! たわいもないわッ!」
アクダインは狂喜に歪んだ笑みを浮かべ、熱にうなされる獣のように吠える。
「そんなガラクタをいくらかき集めたところで――ワガハイの敵ではないわああッ!!」
アクダインはZarkを操り、空中で大きく旋回すると――そのまま重力を味方につけ、凄まじい勢いで地上へ急降下した。
眼下に広がるのは、逃げ惑う観客達の群れ。
悲鳴が幾重にも重なり、再び絶体絶命の状況が訪れる。
「させるかあーーーっ!!」
ステルは叫んだ。
そして無謀にも、迫り来る巨大なZarkへと立ち向かっていく。
「いかんっ!無謀すぎるぞっ!」
道玄が声を上げ静止を促すが、間に合わない。
「ブッ潰してしまえぇええぇえぇ――え…?」
万策尽きたかと思われたその時だった。
突如として、Zarkの巨体が空中で急停止する。
落下寸前――地表まで、残りわずか三メートル。
観客たちは恐怖の声を飲み込み、アクダインでさえも理解できずに目を見開く。
誰もが首を傾け息を呑んだ。
「何が起きているっ!?一体どういう事――」
「なんとか――間に合ったようだニャ♡」
その声の主は、あまりにも意外すぎる人物だった。
大きな体躯に、思わず抱きしめたくなるような柔らかいモフモフの毛並み。
だがその愛らしさを一瞬で裏切る――深淵を覗き込むかのような、虚空を宿した瞳。
一度見たら忘れられないインパクト抜群のルックス。
その人物とは――
「ガ、ガ、ガムバル猫ォオオオオッ!?」
その名を口にしたのは、他でもないバッセイだった。
思いがけない展開に、バッセイは思わず尻餅をつき口をあんぐりと開く。
だが、それはステルも同じだった。
(ガ、ガムバル猫!?そういえば確かにいたなそんなヤツ!)
だが、驚きはこれで終わらなかった。
ガムバル猫は、呆然と立ち尽くす者たちの前で、ゆっくりと両手を頭に伸ばす。
そして慎重に被り物を脱ぎ去り――その下に隠されていた真の姿が露わになる。
「ウフン♡ どう? 驚いちゃったかしら?」
その場に立っていたのは――
かつて死んだはずの、メロンネだった。
「めゆ! ゆ? 幽れ……うっ……ブクブクブクブク……」
バッセイの声はそこで途切れた。
あまりの衝撃に体内の何かが逆流したのか――泡を吹きながらそのまま気絶してしまったのだ。
「ど、どういうことじゃ……???」
会場にいた誰もが言葉を失う。
唐突に起きた幾つもの信じがたい光景に、頭の整理が追いつかず時が停止する。
もっとも、メロンネの登場に動揺していた一番の人物は、他でもないアクダインだった。
そしてメロンネの行方を追っていたミカも、その光景を目にして目を大きく丸く見開いていた。
(メロンネさん……生きていたの!?でもあれは本当に本人……?
双子の兄妹とかではなくて??)
「ビブーーーーーーーーッ!!な、なんで奴が生きておる!
ワガハイがこの目で確かに確認したはずだっ!!」
アクダインの目は血走っており、全身はワナワナと震えている。
手当たり次第にモニターを操作するが、Zarkの機体は物言わぬ石のように、微動だにしなかった。
「な、なぜぇ――動かないっ!!なぜだっ!なぜだっ、なぜだぁっ!!」
荒々しく叩きつけても、Zarkは沈黙したまま。
それが、アクダインの焦燥を一層際立たせる。
「う〜ん、一体どこから説明すればいいのかしら……」
メロンネは腕を組み、片手を顎に当てて考え込むような仕草をみせる。
「とりあえず、アタシは正真正銘・"Mr.クイーン"こと、"メロンネ・リィ・ドロンジョワ"本人よっ♡ほら、ご覧なさ〜い」
メロンネはそう言うと、つま先を起点として華麗にターンをしてみせた。
その優雅かつしなやかな動きは、確かにメロンネの動きを彷彿とさせる。
「メロンネ、やっぱ無事だったんだな!お前がそんな簡単にやられるわけないって、俺は信じてたぞ」
「あら、勇者チャン♡だいぶボロボロだけどダイジョウブ?
アタシが全身くまなくマッサ〜ジしてあげよっか♡」
「いや、お断りだ」
俺は丁重にお断りする。
「ひとまず、メロンネが本人なのはいいとして、そもそものガムバル猫本人はどこ行ったんだ?」
「あの子なら、ちゃんといるわよ♡ほら――」
「ビョッビョッ!もうよい役立たずがッッ!」
遂に我慢の限界がきたのか、アクダインはモニターの操作を断念すると、外にいる部下へと命令を下した。
「――ドゥルバリ!あの死に損ない共を撃ち殺すのだぁ!」
「…………」
その命令を受けて、ドゥルバリと呼ばれる男は素早く得物を握った。
それは先ほど赤鬼に向けられたスナイパーライフルではない。
手にしたのは、まるで人間の胴体ほどもありそうな、巨大な筒状の兵器――ロケットランチャー。
発射口から覗く内側は黒く深く、まるで小さな洞窟のよう。
一発撃てば数十人を軽々と葬り去る威力を秘めている代物だ。
「まずいぞ!あれは儂でも撃ち落とせんっ!」
道玄の叫びも虚しく、ドゥルバリは迷わずそれを撃ち放った。
「え?」
ドォンッ――!!
轟音と共に、弾丸は空を切り裂き、アクダインの搭乗するZarkへと直撃する。
「ビョキーーーーーーッ!!」
機体は空中で大きく揺れ、装甲の軋む音が辺りに響き渡った。
「ど、どういう事だ? 仲間割れか!?」
ステルが混乱していると、メロンネはチッチッと舌を鳴らしながら指を横に振りこう告げた。
「ドゥルバリ、あの子がガムバル猫の正体よ」
「えええぇえええーーーーーー!?」
告げられたその事実に、誰もが驚き声を上げる。
一体いつから、アクダインの部下として動いていたのか。
となると武道会の参加者達は、俺の知らないところでこの機を窺っていたのか……?
いかん……考えすぎて脳ミソが沸騰してしまいそうだ……。
「とにかく今が最後の好機。
お楽しみはあ・と・で♡ ほら、準備はいい!?」
メロンネの声に呼応するように、会場全体が再びひとつとなり、轟く雄叫びを上げた。
思いがけない逆転劇が火を灯し、熱気は頂点へと達する。
そしてそれはステルの心の灯火に、再び大きな炎を灯したのだった。
「行くぞ!今ここで、俺たちの手で、この村を取り戻すんだ!これが――俺たちの最後の戦いだっ!!」




