第五十七話『立ち上がる同志』
「…………ッ!?」
だが――放たれた銃弾は、赤鬼の元へ届くことはなかった。
カラン、カランと乾いた音を立て、真っ二つに裂けた弾丸が地面を転がっていく。
その一連の光景に会場が大きくどよめいた。
「まったく……宿敵ながら――泣かせてくれるのぅ」
立ちはだかっていたのは、かつて赤鬼に故郷を焼き滅ぼされたはずの男――浅伊 道玄だった。
「お、お前は……!」
その手に握られるは、刀身のない偽りの刃ではない。
剣豪、浅伊 道玄が数々の伝説を共にした正真正銘の愛刀――渦刃霧。
その名の由来は、かつて瘴気に覆われ魔物に支配された村を、ただ一太刀で斬り祓い、村を救ったと語られる伝説の名刀だ。
「じ、爺さん!」
体の痺れが無くなったステルは、急ぎ足で道玄の元へ駆け寄る。
「ありがとな、助かった。でも……良かったのか?
爺さんの宿敵は赤鬼だろ……?」
「無論、許してなどおらん。
じゃがな……こんな結末は、儂も蒼鬼だって望んではおらんじゃろう。なぁに、ケジメは最後にきっちりつけるさ」
そう言うと、道玄は刀を握る手に再び力を込めた。
「じゃがまずは――此度の元凶を断たねばならん」
その眼差しが射抜くのはただひとり。
すべての黒幕――アクダイン。
そして、ステルはその隣にいるもう一人の人物を捉えた。
「ミ、ミカ……!!」
声も満足に出せず身動きのとれない状態のミカは、涙目ながらこちらへ何かを必死に訴えかけているようだった。
「アクダイン……お前って奴は、とことん……ッ!」
ミカが準決勝から姿を消していた理由――それは、アクダインの手下によって捕えられていたからだった。
パコに続けてミカまでも……許せない。
込み上げる怒りを、ステルはギリギリと下唇を噛んで必死に抑え込む。
そして大きく深呼吸をすると、一度だけ肩の力を抜き、ゆっくりと目を瞑る。
次の瞬間――瞳を開いた俺の叫びは、雷鳴のように会場全体へ轟いた。
「武道会はここで終わりだ、もはや優勝なんてどうだっていい。
こっからはただの――あのゲス野郎をぶっ飛ばす時間だァ!!」
観客達は一瞬困惑するが、すぐに一人の男が立ち上がってこう言った。
「ヨッシャー!なんだか知らねえが、オメエらをオレは応援するぞー!」
その一言を皮切りに、多くの観客達が立ち上がり声をあげる。
「そうだそうだ!あんな卑怯な奴、ぶっ飛ばしちまえー!!」
「前から気に食わなかったんだよあのデブ!」
「ウッキョォーーーッ!オレは血が見れるなら、なんでもいいゼェ?ヒェヒッヒィイーー!!」
多くの歓声は渦を巻き、瞬く間に大きな波となっていく。
そしてその光景に影響を受けた男がまた一人。
「二人共ォオオオ!!あんな変態ヤロウ、ギッタンギッタンにぶちのめしてくれェェエエー!!!」
その声の主は、アクダインに雇われていた運営、それもこの武道会の実況を第一回から務めていた"バッセイ"だった。
その拳には、メロンネの形見ともいえる黒いアゲハ蝶のブローチが握られている。
(すまねぇ……すまねぇ……ッ!!)
バッセイはボロボロと泣きながら、何度も心の中で謝っていた。
かつての友人"メロンネ"の命が奪われた真実を知った時、アクダインはバッセイに向かってこう告げたのだ。
「奴は真実を知りすぎた……だから始末したのだ。ビョビョ!」
その時、バッセイは衝動的に殴りかかろうとしていた。
だが、寸前の所で彼は思いとどまる。
なぜならバッセイには、愛する妻と三人の子供達がいたのだ。
ここで殴ってしまったら、アクダインの部下達に自らが殺される事は目に見えている、が――それならばまだいい。
奴はその次に、腹いせとして家族をも手にかけるだろう。
バッセイは苦虫を噛み潰すように必死で感情を抑え、仕方なく本来の仕事へと戻っていった。
だが胸の内には、いつまでもアクダインに対する憎しみと、悔しさの感情でいっぱいだった。
そしてその感情は今、完全に爆発しステル達を応援している。
(すまんメロンネェ……!俺はホントに、情けねぇ男だ。喧嘩も弱いし口だけ達者の俺だけど――最後くらい、精一杯足掻かせてくれェ……!!)
そしてバッセイは壇上を蹴って飛び上がると、そのままステージへと降り立ち、ステル達の元へ駆け寄った。
「おお、実況のおっさん!あんたも戦うのか?」
「残念ながら……俺の腕っぷしはからっきしだ。
だけどな――覚悟だけは誰よりも決まってらァ〜!!」
バッセイは胸を張り、拳を天高く突き上げる。
「野郎共ォオ!!聞こえるかァ!?
俺達のワルバッカ村は、俺達のもんだァ!!
ついて来る奴は手を挙げろッ!そして武器を取れェ!!
今ここで、俺達自身の手で――この村をアイツから取り戻すんだァアアアーッ!!」
その瞬間、観客席のあちこちからバッセイに感化された叫びが次々と上がり、武器を構える者が続々と現れる。
バッセイの勇気ある行動が、押し殺されていた人々の心を動かしたのだ。
それはみるみる大きくなり、やがて会場全体が一体となっていった。
「ぐぬぬぬぬぬ……愚かな奴らよ……っ!
……こうなったら"アレ"を使うしかあるまい。ビョ〜ビョ」
アクダインはそう呟くと、ゆっくり重い腰を上げた。
そして眼下の観客達に向かってこう告げる。
「ビョ〜ッビョッビョッビョ!!
全く、愚民共がピーチクパーチクとやかましいっ!
宴は終わりだ…ワガハイに刃向かった事、後悔させてやるっ!」
アクダインはそう吐き捨てると、ニタリと笑いながら衣服のポケットへ手を突っ込む。
そしてゴソゴソと何かを取り出した。
「ビョビョ……!見せてやる、そして震え慄くがよぃ!!」
奴の手に握られていたのは奇妙な金属の装置――。
アクダインは高らかに叫び声をあげながら、迷いなくスイッチを押し込んだ。
ポチッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
地響きと共に、地鳴りような轟音が会場全体へ響き渡る。
「ビョビョッ……ビョビョビョッ……!
みせてやろう、ワガハイの対国家専用兵器――Zarkを…」




