第五十三話 『決勝戦』
「それではァアッ!!長きに渡り繰り広げられたこのォ――第3回・世紀末武道会もォ……遂に遂に遂にィィイン!
これがラストの試合ダァァァアッ!!」
バッセイの咆哮は、これまで以上に会場を大きく震わせた。
その声に呼応するかのように、観客席からは割れんばかりの歓声と足踏みが巻き起こる。
「最強の男の称号はァ!一体どちらの手に渡るのかァア!?
まずはァアア!!選手紹介といくぜェェエエェェエエ!!」
「まずはこちらからァ!本大会最年少にして、幸運にも準決勝を不戦勝で勝ち抜いてきたこの男ォオオゥ!!
素早い身のこなしは、まさに風来坊ッ!――ロッソォオオオォウッ!!」
バッセイの紹介に合わせて、会場からは割れんばかりの拍手と歓声が起こる。
そんな中、ロッソはステージ外からゆっくりと姿を現す。
だが、その表情は裏腹に、緊張と不安の影がにじんでいるように見えた。
きっとまさか自分が、この舞台に立つことになるとは思ってもいなかったのだろう。
本来ならば一つ前の試合で、前回準優勝者“メロンネ”との激突が待っていたはずだった。
だが思わぬ事情により、ロッソは不戦勝で決勝の切符を手にしてしまったのだ。
敵ながらほんの少しだけ、同情を覚えてしまう俺だった。
「続いてェエエエェェ!!数々のドラマチックな戦いを見せつけてくれたァ、初出場にして大本命ィッ!!
誰もが恐れる半ケツブリーフ――勇者・ステルゥウウウウゥッ!!」
バッセイの声が、天を突き破るように響き渡る。
一体どこからそんな声が出るんだとツッコミを入れたくなったが、高ぶる気持ちを抑えるように、俺はゆっくり深呼吸を一つする。
よし……落ち着け、俺。
胸の内でそう言い聞かせながら、力強く左足を前に踏み出した。
次の瞬間――視界いっぱいに広がったのは観客の海。
怒涛のような歓声が四方から降り注ぎ、身体の芯まで震わせる。
間違いない、これは過去最大の声援だ。
だが――その熱狂の渦の中で、俺にはどうしても拭えぬ違和感があった。
いくら目を凝らしても…未だにミカの姿だけが見当たらないのだ。
(おかしい……ミカに限ってそんなことが…)
準決勝ならまだしも、これは決勝戦。
優勝賞金、そしてなによりパコの救出が懸かった、これ以上ない大一番だというのに。
まさか、何者かに攫われてしまったのか……?
そんな考えたくもない最悪の光景が脳裏をよぎる。
(くそっ……考えていても仕方がない。俺が今やるべき事は、この試合を一秒でも早く終わらせて、パコを取り戻した後にミカの行方を追うことだ。まずは…試合に集中しろッ!!)
俺は自らの頬を二度、両手で力強くひっぱたいた。
その頃――観客席のさらに奥、高台の上で優雅にくつろぐ一人の男が、ステルの姿を見下ろしていた。
「ビョビョ……めでたいやつよ」
ねっとりと湿った声で呟く。
「"大事なお仲間"が二人も囚われているというのに……呑気に最後まで参加し続けるとはな……」
男は酒の入ったグラスをひと回しすると、そのまま一気に口の中へ流し込んだ。
「ビョビョッ……オマエもこっちへきてみるがよい。かつての仲間の勇姿を……な」
そう言ってパチンと指を鳴らすと、男の背後から頭の先からつま先までを漆黒に覆った二人の男が、影の中から姿を現した。
その腕に捕らえられていたのは、一人の女――ミカである。
「んむっ……ふぐぅ……ん……っ!!」
口を塞がれた状態で、両手足に錠をはめられながら、必死に声をあげ身をよじり、抵抗していた。
「ほれ、もっと近こうよれっ」
男は強引に嫌がるミカを抱え寄せると、そのまま隣へと座らせる。
「ステルを見るのはこれが最後になるからな……この武道会が終わったら、タップリとワガハイが可愛がってやる……ビョビョッ!」
そう言うと、男の手はミカへとゆっくり伸び、スカートの下から露出した太ももをいやらしい手付きで触れた。
「ん゛ん゛〜!!」
ミカは恐怖と嫌悪、そして怒りの感情に駆られ必死に抵抗する。
だが、その必死の抵抗を心底楽しむかのように、男はニタリと笑った。
「しっかりと……目に焼き付けておけぇ?」
だが――この危機的状況にステルが気付くことはなかった。
なぜならここはステージからちょうど死角になっており、角度によってはまったく視界に入らないのだ。
そしてそのまま武道会は進んでいく。
バッセイが再びマイクを握ると、高らかな声で叫んだ。
「それじゃあ野郎どもォオオオ!!!泣いても笑っても、これが最後の祭りだァァアァァァア!!
出しきれずに不完全燃焼ってのはなしだゼェエエ!?」
観客席からは歓声と拍手が渦のように巻き上がり、ステージを揺るがす。
遂に、始まるんだ。
その熱狂が俺の鼓動をどんどん加速させる。
「決勝戦――開始ィイイィイイイイイーーーッ!!!」




