第四十八話『真相』
決勝トーナメントの2回戦が終了し、残された出場者は残り四人となった。
次戦からは準決勝、あと残り二試合に勝利することができれば、パコを取り戻すことができる……!
だがその裏で、事態は思わぬ急展開を迎えていた――。
「テメェらァアーーーーッ!!!
さっきの試合で、応援疲れんじゃねぇだろうナァッ!!?
こっからは準決勝ダァっ!!
もっかい気合い入れ直していくゼェェエエイッ!!」
インターバルもなんのその。
バッセイが壇上に立ち咆哮すると、その声に奮い立たされたかのように、観客の熱気は再び爆ぜ、会場全体が沸き返った。
だが、すぐに一人の観客が違和感に気づいた。
「……おい、まだ一人来てねぇぞ?メロンネのヤツはどうした?」
その一言は火種となり、瞬く間にざわめきが広がっていく。
それには壇上のバッセイもさすがに動揺を隠せず、慌てて運営スタッフを呼び寄せ、顔を寄せて小声で囁く。
(おい、もう時間はとっくに過ぎてるぞ!控え室には行ったのか!?)
スタッフは周囲を気にしながら、声を落として答えた。
(は、はい……ですが控え室には、メロンネさんの姿はありませんでした……)
(くっ……何でこんな良い時にっ!一体どこほっつき歩いてんだ?)
その間にも観客席では、
「早くみせろよぉ!」
「いつまで待たせんだよー!」
という期待と焦燥の入り混じった声が渦を巻き、会場全体を包み込んでいった。
対戦相手である"ロッソ"も、戸惑いを隠せず不安げにその場に立ち尽くしている。
そんな空気がいつまで続くのかと思われたその時――。
観客のざわめきをかき分けるようにして、運営の一人が壇上へ駆け上がってきた。
額には汗を滲ませ、息も絶え絶えの様子で声を張り上げる。
「た、た、た大変ですッ!!
試合を――いえ、この武道会そのものを……今すぐ、中止してくださいっ!!!」
そんな突拍子もない一言に、バッセイは苛立ちを隠せない様子で声を張り上げる。
「中止ダァ〜!!?この期に及んで何言ってんだお前ハァ!?」
すると男は青ざめた顔で喉を震わせ、ゆっくりと次の言葉を絞り出した。
「……"メロンネ選手"が、何者かに……殺されました」
その瞬間、会場を覆っていたざわめきがピタリと静まる。
「こ、殺された……だと……?"メロンネ"が……?」
バッセイの顔から、みるみる血の気が引いていく。
そして迷うことなく壇上を飛び降りると、足早に走り去った。
運営スタッフに案内され、裏手の薄暗い通路を抜ける。
――そこにあったのは、ほんの数分前まで息づいていたはずのメロンネの亡骸だった。
虚ろな瞳は天井を映したまま瞬き一つせず、口元からは乾きかけた血が黒くこびりついている。
その姿は、無惨という言葉すら生ぬるいものだった。
(嘘だ……なぜ、こんなことが――)
後に判明した死因は二つ。
まずは、不意打ちのような格好で後頭部への強烈な打撃。
そして追い打ちのように、鋭い凶器の様なモノで心臓を一突き。
Mr.クイーンと呼ばれ、ワルバッカ村の名物オカマであった彼(彼女)は、その奔放な男癖にもかかわらず、どこか憎めず慕う者も少なくなかったという。
それだけに、ここまでの恨みを買うなんて考えずらい。
一体誰が犯人で、なぜこんな凶行に走ったのか――。
事態は完全に、混沌の渦へと飲み込まれようとしていた。
「ビョビョッ……メロンネは、知りすぎたのだ……」
観客たちの視線も届かぬ高みで、ゆったりと呑気に見物をする人物――アクダイン。
不適な笑みを浮かべながら、低く冷たい声で呟く。
「大人しく参加者として、豪華景品だけを目当てにしていれば良かったものを……」
そしてしばしの沈黙が過ぎ――再び壇上にバッセイが姿を現した。
「おい、殺されたってどういうことだっ!!」
「説明しろっ!もし本当なら、こんな危険な場所すぐに出しやがれ〜!!」
観客たちはいっそうざわめき、怒号と不安の入り混じった声が会場全体に渦巻く。
「落ち着いてくれ。さっきの話は……勘違いだったみたいだ!
ハッハッハ!メロンネは生きているゥ!!」
観客のざわめきが徐々に安堵の声に変わる中、バッセイに続いて、先ほど必死の形相で駆け込んできた運営スタッフも頭を下げる。
「すいません! 自分も早とちりで……噂の真相を確かめる前に口走ってしまいました……」
「なんだよっ!そんな混乱させるようなこと言うんじゃネェ!」
「全くだよ、バカヤロウ!」
「まぁ、でも生きてたならよかったんじゃねえか?」
会場は、くだらない勘違いをした運営を責める声と、メロンネが無事だと知った安堵の声で入り混じり、ざわめきに包まれた。
とにもかくにも、世紀末武道会は続行可能となったのだ。
「ただ、残念ながらな――メロンネには急遽、どうしても外せない用事ができたらしく、棄権申告があった。
よって、準決勝の勝者は――"ロッソ"だァアーー!!」
不戦勝の形となったロッソは、少し消化不良気味の表情で、トボトボとステージを降りていった。
「……それじゃあ準決勝第二試合が始まるまでェ、テメェ等少し待っててくれよなァ!?五分後、再開だ!」
そう言って、バッセイは壇上を後にした。
そして会場の裏手に戻った後、バッセイの体はプルプルと小刻みに震え始める。
握りしめた拳には爪が食い込み、自らの血がポタポタと流れている。
そしてそのまま、抑え殺していた感情を吐き出す様に、拳で強く何度も壁を殴りつけた。
「クソッ!クソックソォッ……!!」
自らのついた嘘に胸を締め付けられ、バッセイの瞳からは大粒の涙がポタポタと零れ落ちる。
真実を知る人物は、バッセイと第一発見者の男、そしてアクダイン――。
だがその真実ですら、アクダインによって消されようとしていたのだ。
そして、真実を知らない勇者ステルはその頃――。
「メロンネのヤツが棄権……?アイツは俺との再戦を心底楽しみにしていたはずだが……」
ステルの脳裏に疑問がふっと浮かび上がる。
だが、今は考えていても仕方がない。
きっと、退っ引きならぬ事情でもあったのだろう。
「大会が終わった後、アイツのカイラクーンにでもいって聞いてみるか。まずは――次の試合に集中だ」
次回、波乱の準決勝が幕を開ける。




