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第四十一話『思わぬアクシデント』

こうして――ついに決勝トーナメントが幕を開けた。

参加者たちは、あらかじめ決められたトーナメント表に従い、一対一の真剣勝負へと臨むこととなる。

そして決勝トーナメントからは、一回戦と大きく異なる点が二つ存在する。

一つは武器の使用が認められていること。(俺には関係ないが)

元々武器を得意としている連中は、こっからが本領発揮というわけだ。

そしてもう一つは、風船を割ったら終了――などという生ぬるいルールではなくなったこと。

勝敗が決する条件は、ギブアップ、あるいは戦闘不能。そして場外へのリングアウトだ。

制限時間は存在せず、基本どちらかが立てなくなるまで戦いは終わらない。

まさに世紀末の武道大会といったところか。

 

「俺は……最後の試合か。相手は――バイブリン」

たしか、大食い大会を五連覇した奴だ。

図体はデカいが、幸い動きは鈍そうだ。

撹乱して急所を狙えば、十分に勝ち目はあるはず……とそんなことを考えているうちに、気づけば最初の試合が始まろうとしていた。

俺の出番はトーナメント表の最後、第8試合。

準備にはまだ時間がある。

少しでも身体を温めておこうと、控え室の片隅で静かに筋トレを続けながら、大型モニターに映る試合の様子をじっと見つめていた。


「戦うのはガムバル猫と、闘う保安官……ホンジか。

どちらも色物だが、果たし――なにっ!?」

思わず声が漏れてしまった。

それは瞬き厳禁、一瞬の出来事だった。

警棒のような棒切れを振り回しながら走り出すホンジの目の前からガムバル猫は一瞬にして姿を消したかと思うと、背後から強烈なドロップキックを浴びせたのだ。


「べヤァーーーーッ!!!」

ホンジの巨体はそのままステージ外の壁へと激突する。

リングアウト――否。

そもそもそれ以前にドロップキックを食らった時点で、彼は白目を剥き、口から泡を吹いて完全に意識を失っていた。

……ガムバル猫か。

ふざけた見た目に隠されたあの身のこなし――間違いない。

あいつは"ホンモノ"。

ああ、俺も戦いたい――。

と、そんなことを思っていた自分を客観視してハッと我に返る。

 

(おいおい落ち着け俺!絶対に負けちゃいけない試合なんだ、まずは目の前の試合に勝つことだけを考えろ…!)

本来なら、冷静沈着でいるべきところだ。

なぜならこれは仲間(パコ)の命運がかかった真剣勝負、気を抜いたら即・終了。

なのに、どうにも胸の奥の高鳴りが収まらない。

まだ見ぬ強者との出会いが、心の奥底に眠っていた“戦う本能”を、ゆっくりと目覚めさせる。


「次の試合は、っと……」

再びモニターへ目を移したその時だった。


ギュルルルルルルルルルル〜。

腹の奥から鳴り響く、重低音の警告。

未だかつて経験したことのない、未知の激痛が腹部を直撃した。


「なっ……ぐうッ……!?」

あまりの激痛に、俺は思わずその場に倒れ込んだ。

腹を押さえ、必死にさすってみる――が、そんなものはまるで意味をなさない。

痛みは止むどころか、ますます勢いを増していく。

まるで腹の中に小人がいて、針を持ってチクチクと――いや、ブスブスと執拗に刺してくるような感覚だ。

そして、次の瞬間――


「うっ……出るッ!!」

限界寸前の俺は、残された力を振り絞って立ち上がると、そのまま猛ダッシュでトイレへと駆け込んだ。

替えの着替えなど俺には存在しない。

もしここで俺の肛門が暴発したら、それは試合云々以前の問題だ。

"ケツ臭茶染み半ケツ男"――最悪失格も免れない。

それだけはダメだ、いや絶対に。


(まさか……今朝の朝食がここにきて効いてくる……と、は……)


ギュルルルルルルルルルル〜。

そこから俺は、トイレの中で予期せぬ"第3回戦"を迎えることとなった。

全身全霊の激闘――いや激痛。

まさに人知れず繰り広げられた内なる戦い。

だが、そんな俺の都合など大会が考慮してくれるはずもなく。

なんとか腹の暴動がおさまり、トイレを後にして控え室へ戻った時には――


「……って、もう7試合終わってんじゃねぇかッ!!?」

つまり次は、俺。

完全に俺の番。


「まずいっ!遅れたら失格になる!!」

気持ちの準備?そんなものしてる余裕はない。

俺はそのまま、足早にステージ会場へとダッシュで駆け出した。


「おーいまだかっ!?早く次を始めろォー!」

「ビビって尻尾でも巻いて逃げちまったのかァー!?」

観客席は、一向に始まらない第八試合に、じわじわと苛立ちを募らせ始めていた。

ざわつき、野次が飛び交いはじめる中、その空気にひときわ不安そうな表情を浮かべていたのが、原因の張本人――ミカだった。

 

(ちょっと……遅くない!?もしかしてアイツ食べすぎで頭がぼーっとして寝ちゃった??)

ミカは、今朝張り切って作った特製の朝食が脳裏をよぎる。


(ううっ……いくら私の料理が美味しすぎたからって、確かにあれは食べすぎよっ!まぁ、全部残さず綺麗に食べてくれたのは、嬉しかったけど……っ)

ミカがもやもやと胸の内を巡らせていたその時――息を切らせながら、ステージ上に一人の男が駆け込んできた。

 

「ハァハァハァ……!!危ない……ギリギリ間に合った……」


(ステルっ!よかった……!)

ミカの顔に安堵の表情が戻る。

続けて、司会のバッセイがマイクを握り直し、再び会場のボルテージをブチ上げるかのように声を響かせた。


「なんとかギリギリ揃ったところでェエーー!!

これが決勝トーナメント・一回戦のラストバトルだァーーッ!!」


「勝てばベスト8!次の二回戦へと歩を進める、大事な大事な一戦!!ここで脱落すりゃ、栄光も名誉も夢のまた夢――!」


バッセイはぐっと拳を振り上げ、叫ぶ。


「テメェら、張り切ってくぜェェェエーー!!

第八試合――開始ィイイィィッ!!!」


『第3回世紀末武道会』〜1回戦途中結果〜(○が勝者)


・第1試合

○ ガムバル猫 vs. ホンジ ●

・第2試合

○ ロッソ vs. ビブラート ●

・第3試合

○ アンフィル vs. ドッコイ ●

・第4試合

○ メロンネ vs. ジョンゴリアーノ ●

・第5試合

○ ガッツォ vs. ジャック ●

・第6試合

○ クルス vs. コリッショ ●

・第7試合

○ 浅伊 道玄 vs. ヨッコイ ●

・第8試合

バイブリン vs. 勇者ステル

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