第四十話『決勝トーナメント・開幕』
そして波乱万丈の朝食会を終えた後――俺とミカは、きたるべき決勝トーナメントの地へと向かった。
「ここ、ほんとに昨日と同じ場所で合ってるよな……?」
思わずそんな疑問が口をついて出たのも無理はない。
確かに、会場そのものは昨日の一回戦と同じ場所のはずだ。
だが、その様相はまるで別物だった。
観客席は昨日の二倍……いや、三倍はある。
立ち見の客まで押し寄せ、熱気はもはや国をあげた盛大な祭りのよう。
「スゴイわね〜!確かに道中もお店は軒並みガラガラだったし。村中の人達はこの為に集まってたのねっ」
ミカが目を丸くしながら、観客席をぐるりと見渡す。
俺たちはあらためて思い知らされた――昨日までの戦いは、あくまで前座に過ぎなかったのだと。
ここからが本番だ。
俺は気を引き締め直し深く息をつくと、出場者の控え室へと歩を進める。
「……じゃ、行ってくる」
振り返ると、ミカがにっこりと笑って頷いた。
「うん、ステルなら大丈夫。いつも通りやれば敵なしよっ!
ほら、がんばっ――て!」
言い終えるやいなや、ミカは両手で俺の背中を勢いよくドンッと押した。
俺は少しよろけながらも、あらためてミカへと向き直る。
「ああ。必ずパコを取り戻して……また、俺たちの旅を再開しよう。任せてくれ」
拳を軽く掲げると、ミカもそれにあわせて拳を掲げる。
迷いはない、自信を持て俺。
俺はもう一度自分に言い聞かせると、力強い足取りで控え室へと向かった――。
《ステルの現在ステータス》
称号:流浪の断捨離人:Lv.35(Max)
• HP《体力》135
• MP(魔力)0
• STR(筋力)252
• DEF (防御力)182
• AGI (敏捷)163
そして――少しの時間が経過し、ついに決勝戦の火蓋が切って落とされる。
会場に鳴り響く鐘の音と共に、俺を含めた参加者たちは一斉にステージ下の待機場所へと呼び出された。
どうやら開会の儀を執り行うようだ。
昨日と同じ場所。
だが、空気はまるで違う。
張り詰めた緊張と、観客の熱気がぶつかり合い、辺りにビリビリとした空気が流れている。
そこへ――
「ウィーーーーッ!!! お前ら、調子はどうだァーーー!?!」
耳をつんざくような声と共に、あの男が登場した。
そう、昨日に引き続き司会進行役の"バッセイ"だ。
相変わらずのテンションの高さ……というか、もはや昨日よりうるさい気がする。
この男の登場と共に、会場のボルテージも一気に跳ね上がる。
「ドイツもコイツもギンギンの目してるじゃねぇか!!
だが、それも無理はねェ……なんてったって今日ッ!この場所でェ!"最高にして最強の男"が決まるからなァ!!!」
「ウォオオオオォオオオ〜!!!」
「まだかー!?早く見せろーー!!」
会場を埋め尽くす観客たちは、待ちわびた興奮を抑えきれず、声を張り上げる。
その熱気はまるで、噴火寸前の火山のように。
「オイオイお前ら、焦るんじゃねえ。
まずはよォ――この狂乱のトーナメントを勝ち上がってきた、猛者どもを紹介させてくれェ!!!」
バッセイが叫ぶと同時に、ステージ上に光が走り、次の瞬間――
地鳴りのような轟音と共に、巨大なステージがゆっくりと上にせりあがる。
そして決勝戦へと駒を進めた戦士たちが、ひとり、またひとりと姿を現していく。
「まずはエントリーNo.1!宿敵・メロンネに味わされた屈辱を、果たして晴らすことはできるのか!?
元・王国騎士にして、前回大会3位の実力者――“アンフィル”!」
黒髪を束ね、無骨な甲冑を身にまとった男がゆっくりと現れる。引き締まった顔立ちには、歴戦の覚悟が滲んでいた。
「続いてエントリーNo.5!
愛らしい見た目とは裏腹に、その戦いぶりはまさに百獣の王!
戦うマスコットキャラクター“ガムバル猫”!」
体長約2メートルの猫の着ぐるみが、ズシンと重たい足取りでステージに現れる。
あんなのもありなのか……?
「エントリーNo.6!
齢八十三にして、その剣速、未だ衰えず!
かつて伝説とまで謳われた剣豪――“浅伊 道玄”!」
……ん?あれって、一回戦でモヒカン男たちを恐ろしく早い手刀で倒した爺さんじゃないか。
それに“アザイ・ドウゲン”って日本人みたいな名前――と、考える間もなく紹介は続いていく。
「エントリーNo.18!身体能力はアイドル界No.1!
甘いマスクでファンを魅了する、"オレ様ロマンティック"リーダー“クルス”!!」
キラキラのスパンコール衣装を身にまとい、金髪の男がウィンクひとつで登場する。
「キャーー!クルス様ぁ〜〜!!」
会場には女性ファンからの黄色い声援が飛び交い、「クルス見守り隊」と書かれた大垂れ幕が揺れていた。
「No.21!その歌声は狂気の旋律!聴く者を恐怖に陥れるマッドシンガー――“ビブラート”!!」
チリチリのパーマにサングラス、見るからに危ない風貌の男が現れる。
「No.29!三つ星レストランのオーナーにして、筋肉美を武器とする料理長――“ジョンゴリアーノ”!!」
立派な口髭に白いコック服。
だが、服の上からでも分かる。
今にもはち切れそうな服をみるに、相当鍛えているのは明らかだ。
「No.33!
メガネの奥に隠された瞳はまさに黒穴!
テレビ越しに格闘技を研究し尽くした男――“コリッショ”!!」
チェックシャツにぽっちゃり体型――そしてビン底眼鏡。
一見してみるとアレだが、何か秘密でもあるのか……?
「No.36!月が出てない?そんなのコイツには関係ねェ!!
亜人族の中でも獰猛で有名な狼男――"ジャック"!」
うお!亜人族まで出場するのかよ。
鋭い牙と金色の瞳。
あの凶暴さ……オステリオ山で見たガロウルフを思い出すな。
「コイツらはまとめて紹介するぜェ!
No.41&42、二人合わせて前科二百犯!!!
ワルバッカ村の極悪兄弟といえばこの二人ー!"ヨッコイ&ドッコイ"!」
ラッパー風の格好にダボダボのジーンズとキャップ。
それにしても仲良さそうだ。
「No.54!小柄だが、その素早い身のこなしは一級品。
本大会最年少にして期待の新星――"ロッソ"!!」
薄汚れた布生地と額には大きなバッテン印が刻まれている。
見た目は十三、四歳といったところか、スゲェなコイツ。
「No.69!本大会初出場にして、一回戦最多撃破記録の男!
虚な瞳の奥には何が映る?経歴不詳のミステリーガイ――"ガッツォ"!」
全身をローブで覆い隠した男、その表情は読み取れない。
なんかちょっと薄気味悪いな。
「No.73!悪党は俺がこの手で裁く――その拳は正義の拳!
ワルバッカ村の治安を守る保安官――"ホンジ"!」
おお、この村にも一応、警察のような存在はいたのか。
「No.80!その胃袋はまさに大宇宙!
ワルバッカ大食いフェスティバルで5連続優勝を果たした男が、ここでも参戦――"バイブリン"!」
デケぇッ!身長は――メロンネと同じくらいか?
だがその横幅は大違い、その姿はまるで巨大な肉弾戦車のようだ。
そして、ついに俺の番がやってきた。
「No.92!初出場にして、一回戦でのメロンネとの死闘で一躍時の男に!本大会一のダークホース、"勇者ステル"!」
「ステルーー!ファイトぉーーー!!」
目の前の観客席から、ミカが顔を真っ赤にして必死に叫んでくれている。
他の出場者に比べて知名度のない俺を少しでも盛り上げるために――ありがたい。
「そしてラストを飾るのは、エントリーNo.99!
前回大会の準優勝者にして、オカマバー"カイラクーン"のマスター!その戦闘スタイルはまさに芸術――Mr.クイーンこと"メロンネ"!」
直後、観客席からは悲鳴にも似た大歓声が沸き起こった。
コイツ…こんなに人気だったのか!
そうして、それぞれの簡単な紹介が終わった後――バッセイが高らかに宣言する。
「以上十六名!
この激戦を制し、栄光をその手にするのは果たして誰だ――!?
今ここに、第3回・世紀末武道会――決勝トーナメント、開幕ッ!!!」




