第三十六話『突破危うしっ!?Mr.クイーン襲来』
モヒカン軍団が全員脱落し、残ったのは俺を含めて20人。
序盤の乱戦からうって変わって、今は全員がお互いの動向をじっと伺う様に、戦況は完全に膠着していた。
そんな様子を鑑みてか、ミカは不安そうにその光景を見つめる。
(やかましいモヒカン連中は皆脱落したみたいだけど、本番はここからよね…あのお爺さんの不思議な力、まるでなにかの魔法を使ってるみたいだった。ステルは大丈夫かしら…」
ピッ!
ここで、また一つ電光掲示板が赤く点灯する。
残る生存者は19人だ。
そして同時に、ステルの前に新たな敵が姿を現す。
「あら〜?あなたのそのカ・ラ・ダ♡ 引き締まったいい筋肉をしてるわね、ちょっと触らせてくれないかしら?」
そう言いながら見下ろす男の姿は、誰もが思わず二度見する様な衝撃の見た目だった。
「なんだお前……って、デカいな!」
「アタシ? アタシはね、このワルバッカ村でバーを営んでる、ただのしがないママよ。“Mr.クイーン”って呼ばれてるわ♡」
"Mr.クイーン"…名前からして矛盾しているのは置いておいて、それにしても……デカすぎだろ!
俺の倍を優に超える――四メートル近い巨体。
その上半身には、メイド服をへそ上あたりからビリリと切り取ったような、なんとも奇抜な服装。
むき出しの腹筋は板チョコのようにカチカチで、これでもかと言わんばかりに主張してくる。
……そして下半身は――ブ、ブーメランパンツだと!?
それは俺ですら、まだ踏み込んだことのない未知の領域だ。
くそ……やられた。
同じ下着族として、俺は謎の対抗心を燃やす。
「俺の名前はステル、職業は勇者をやっている」
「あらまぁ♡ 勇者様がこんな所に来るなんて…訳ありの様ね」
Mr.クイーンは勝手に理解したようにウンウンと頷く。
「ああ、俺はなんとしても世紀末武道会を優勝しなきゃいけないんだ。だから――お前が来るなら俺も容赦はしない」
そう言い放つと同時に、俺はすかさず構えを取った。
対する”彼女”はというと、フフンと艶めかしく鼻を鳴らす。
「ナ・ル・ホ・ドねぇ♡ そういう熱いの、大好きよ。
あいにく、アタシは優勝なんかには一ミリも興味がないの。
だってこの大会って、年に一度の……」
クイーンはにたりと笑い、ピンク色の唇を舐めるように舌を這わせる。
「絶好の"オトコ漁りの機会"!!アタシはただ、極上の男前を求めて参加してるだけよ――毎年恒例ってワケ♡」
「なんだよそれ…残念だが俺に男色の趣味はない。分かったらよそに行って…」
そう言って背を向けかけた、その瞬間だった。
突如、風を裂く音と共に、信じられない速度の蹴りが俺の脇腹を狙って飛んでくる。
「――はっ……!」
俺は反射的に左腕を突き出し、なんとか防ごうとしたが
メリメリメリッ……!!
その一撃は、俺の想像を遥かに超える重さだった。
衝撃を受け止めきれず、俺の身体は横っ飛びに吹き飛ばされる。
間一髪のところで、俺は両足をつき地面へと着地した。
風船は――よかった無事だ。
「ウフフ……♡どう…なかなか効いたでしょう?」
その蹴りの正体は、紛れもないMr.クイーンのものだった。
「ダァーーっとォオ!ここで、今大会のダークホースステルの元に、大きな試練が訪れるーーッ!!
何せ相手は19番!Mr.クイーンの異名をもつ"メロンネ・リィ・ドロンジョワ"ダァー!!」
バッセイのアナウンスを受けてか、観客の目は一斉にステル達へと向いた。
「Mr.クイーンか〜ステルも中々だったけど、こりゃ終わったな」
と、ミカの隣に座っていた男がポツリと呟く。
「ちょっとっ!終わったってどういう事よ!?
あのMr.クイーンってヤツ、そんなにヤバいの?」
ミカは終始焦った様子で男へと問いかけた。
「ああ?なんだ嬢ちゃん知らねーのか。
Mr.クイーン…あいつはこの武道会の常連さ。
なんてったって前回、第二回大会の"準優勝者"だからな」
「えええっ!? じゅ、じゅ、準優勝者ですって!?
ってことは……めちゃくちゃ強い人ってことじゃない!」
ミカは目を丸くして、思わず声を上げた。
「ああ、そうだ。しかも前回の優勝者は今年は出ていない。
となれば――今年は間違いなく、優勝候補の筆頭ってわけさ」
「そ、ん、な……」
その言葉を聞き、ミカは思わずその場にヘナヘナとへたり込んだ。
だが、ほんの数秒の後にはガバッと立ち上がり、全身を震わせながらステルに向かって叫ぶ。
「ステルーーッ!! がんばってぇーーーっ!!
アンタが一番なんだからねーーッ!!」
彼女の声は会場に響き渡り、まるで戦場に咲く花のように、ひときわ明るく力強かった。
「えらく元気がいいな嬢ちゃん、もしかして92番の彼女かい?」
男はニヤリと笑い、小指を立てて見せた。
「ち、ち、ちち違うわよっ!! た、た、ただの知り合いよっ……!」
顔を真っ赤にしながら、ミカは声を裏返しつつ必死に否定する。
その様子を見ていた隣の男が、肩をすくめながら言った。
「なんだ、そうか。……なら、まだマシかもな」
そう呟いたあと、男は小声で付け加える。
「聞いた話だが、Mr.クイーンはこれまで戦って倒した“お気に入り”を、その晩には全員いただいてるらしいぜ。
……92番、そういう意味でも終わったな」
「え……」
瞬間、真っ赤に火照っていたミカの表情は、みるみるうちに青ざめていった。
状況はまさに絶体絶命、ステルの貞操と一回戦突破がかかった戦いは続く――。




