表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/135

第三十四話『仲間はずれ』

「そんな...」

予想だにしないその邂逅に、俺は大きく動揺する。

一瞬、無理やりにでも救出をしようと試みるが、パコが囚われているのは、錆び一つない黒鉄の檻。

分厚い格子に重々しい錠――どう見ても、素手でどうにかなるような代物ではない。

それ以前に……この場には数え切れないほどの観衆がいる。

少しでも不審な動きを見せれば、即座に注目され止められるだろう。


(くっ……!!攫われた俺たちの仲間が、優勝景品だと……!?

“アクダイン”、なんて汚い奴だ……!)

こみ上げてくる怒りが、喉元までせり上がる。

だが、ここで感情に任せて動けば全てが水の泡だ。

俺はなんとかその激情を押し殺し、震える拳をじっと見つめた。


左の拳を、爪が食い込むほどに強く握りしめる。

この地獄のような光景を、どこか安全な場所から涼しい顔で眺めているのだろう――"アクダイン"。

その名を脳裏で噛み砕きながら、俺は静かに誓った。

絶対に助け出す、お前の思い通りにはさせない――と。


そして同じ刻。

観客席の一角でその光景を目の当たりにしていたミカもまた、勇者ステルと同じように、起こっている事実をうまく受け止めきれず、ただ愕然としていた。


(嘘……!?あの鎖に繋がれた緑髪のエルフ……あれ、パコよね!?

攫われたはずのパコが、どうして……どうして“優勝の景品”なんてことにされてるの……!?)

だが――そんな二人の動揺をよそに、周囲の観衆の熱気は、まるで宴の始まりかのように、さらに勢いを増していた。


「ウッッヒョーッ!! なんだあのチビッ!? ここらじゃ見かけねぇ風貌だなぁ!」


「耳も尖ってるしよ、人型魔物の一種じゃねぇかー??」


「俺はガキに興味はねぇぜぇっ!!

寄こすならケツのデカい年上のネェちゃんを寄こせェッ!!」


下品な叫び声と嘲笑が、観客席のあちこちから飛び交う。

パコの元へと、一斉に向けられる数百もの視線。

その全てが、物珍しい見世物でも見るかのような、好奇と欲にまみれた眼差しに、パコは思わずギュッと瞼をつぶる。


(うむぅ〜なんでこんなことになったのだっ...

ああ、勇者、ミカよ、あのアクダインという男は危険だっ...

もし、お前たちがまだこの町にいるのなら――すぐに離れてくれっ...!!)

パコは拘束された両手を胸の前で強く組み、祈るように願う。

視界の先に仲間の姿は見えない。

だがそれでも、心の中で呼びかけずにはいられなかった。


「おいおいテメェら――パコ(コイツ)をただのチビッ子だと思わねぇ方がいいぜ?」

と、バッセイは周囲に向けて煽る。


「なんてったってコイツは――

あの"伝説の長命族"エルフの一族だからな!!」


ざわ……ざわざわ……!

観衆の間にざわめきとどよめきが広がっていく。


「エルフの一族は、普段から人里離れた山奥に住んでいると聞く。

エルフの奴隷は、それこそ超・超・超・超貴重だ!

それこそ、闇の奴隷市場では金貨二千...いや、三千はくだらないって話だァ〜〜〜!!」


「ウォォォオオーー!!マジかよォ!!??」

バッセイのその一言を皮切りに、会場は一気に狂気の渦へと飲み込まれた。

割れんばかりの歓声、興奮にまみれた叫び、欲望を露わにした罵声が飛び交い、たちまち周囲は異様な熱を帯びていく。

その騒音の中で、ミカはひとり、胸を締めつけられるような不安に呑まれていた。


(もし……もしこんな連中に、パコが“奪われる”ようなことがあったら……!)

想像するだけで背筋が凍る。

どんな仕打ちを受けるか――想像もつかない。

いや、想像したくもない。


(もう……“準優勝でもいい”なんて言ってられない!お願い、ステル……!パコを――必ず取り戻して!!)

こうして、思いがけない形でパコを見つけた俺たちは――

この“世紀末武道会”で優勝しなければならない理由が、はっきりと生まれたのだった。

 

「……それじゃあ、長ったらしい説明はここまでだ。

テメェ等、風船の準備はできてるかァ!?」

バッセイの叫びに、俺はハッとした。

しまった――ルールのことなんて、すっかり頭から抜け落ちていた。

慌てて風船を膨らまし、一緒に入っていたヘッドギアのようなものを頭に装着する。


「よし野郎どもッ!生き残りたきゃ拳を握れぇッ!!

血湧き肉躍る“世紀末武道会”――最強の漢を決める第一回戦、

バァトルゥ……スタァァァートッ!!」

 

バァアアアァァァアァァンッ!!

豪快などらの音が鳴り響くとともに、参加者たちは一斉に走り出した。

だが、俺は焦ることなくその場で構え制止する。

なぜかって?

この人数のド真ん中に飛び込むのは、どう考えても危険すぎる。

ぶつかる、押される、巻き込まれる。

その上、どこから何が飛んでくるかも分からない。

開始直後は一番ゴチャつく時間帯だ。

多数戦の経験者ならみんな知ってる。

こういうときは――“動かざること山の如し”


通常の戦闘であれば、よほど殺傷力の高い武器でも使われない限り、一、二発の被弾は許容範囲だ。

だが今回は、そうはいかない。

理由は――風船(コレ)

俺たちの頭に装着されたこの風船。

赤ん坊でも割れるレベルのデリケート仕様。

どんなに鍛えあげた筋肉も、このペラッペラなゴム一枚の前では無力。

つまりたった一撃、なんなら不慮の衝突(バッティング)ですら命取りってわけだ。

それに今回は、絶対に負けられない理由がある。

だからこそ、焦りは禁物だ。

まずは人が減って、混戦が落ち着くのを待っ――


「……ッ!」

その時だった。


「ヒャッハーーーーッ!!!」

上空から、犬のように舌を垂らしながら、興奮度MAXのモヒカン男が俺を目掛けて勢いよく襲いかかってくる。

「死ねェェエエェエェエエエッ!!!」

いや、こいつら本当にルールを分かってるのか……?

俺は体を大きく反らし攻撃をかわすと、そのまま体を横に回転し、遠心力を利用して強烈なビンタをくれてやった。


バチィインッ!!


「アヴィーチーッ!!!」

情けない叫び声ととともに、モヒカン男は二十メートルほど吹っ飛んでそのままリング外へと落ちていく。


「し、しまった…風船を狙うつもりがいつもの癖でやってしまった…」

後悔する間もなく、再び背後から甲高い叫び声が響く。


「ヒャッホウーッ!!!」

俺は、モヒカン男Bの振り下ろされた拳をしっかりと受け止めると、そのまま掴んだ手をクイっと捻った。


「イデデデデデテッ!!」

そして一瞬の隙の間に、風船を指突で突き破る。

バァン――!!

そう安堵しかけた次の瞬間、俺は目の前の光景に強烈な違和感を覚えた。

なぜだ――なぜあんなにも大量のモヒカンたちが、まるで飢えた獣のように、一斉にこっちへ突っ込んできてる!?


…だがその理由は、すぐに察した。

そうか、この場において、俺は完全に「浮いて」いるのだ。

周りを見渡せば、確かにパンツ一丁(この格好)はあまりにも目立ちすぎている。

まさにモヒカン男の群れに紛れてしまった俺は"仲間はずれ"ってわけだ。


「くそ……!これじゃあ確かに格好の的……!」

迫りくるモヒカン軍団を前に、俺は奥歯を噛みしめる。

こうなったら、風船だけを狙うなんて悠長なことは言っていられない。となれば――

 

「よし、そっちがその気なら、こっちも容赦はしない」

そういうと、俺は両手を前に突き出し、指を曲げて関節を浮かせ、まるで獣が爪を立てるような構えを取った。


「とっておきを見せてやる。"オステリオ山"で出会った魔獣:"ケルヴォルフ"からヒントを得た新たな俺のスタイル――ケルヴォルフ拳を……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ