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第三十三話 『豪華景品』

そこから俺とミカの二人は、三日後に控えている"世紀末武道会"に向けて準備を進めると共に、引き続き仲間の"パコ"へと繋がる聞き込みを行った――が、結果はことごとく空振り。

"パコ"の情報はおろか、"ワルバッカ"村の連中はエルフという種族の事すらよく知らないようだった。


そして現在――“世紀末武道会”開催前日の夜。

俺たちは、収穫ゼロの力ない足取りで、トボトボと宿屋へ戻っていた。


「結局、パコに繋がる手がかりは、何もなかったわね…」

ミカは深いため息をつきながら、くたびれた顔でつぶやいた。


「そうだな。だが、諦めるにはまだ早い。俺はこのチケットが――パコを攫ったヤツらが残した、何らかのメッセージだと思ってる。明日になれば、何かが進展するはずさ」

日に日に不安が募っていくミカを励ますと、ミカは一拍置いてから、パンッと自分の両ほっぺを叩いた。


「そうね……っよし!クヨクヨしててもしょうがないわっ!」

そしておもむろに、謎のガッツポーズ。

「明日、私は参加できないけど、会場でステルをいーっぱい応援するから! ちゃんと派手に勝って、手がかりも、賞金もいただきよっ!」

そう言い放つミカの瞳には、しっかりと"$マーク"が浮かんでいた。

ご丁寧にキラキラのエフェクトまで付いている。


「お前な……賞金は二の次だろ。大事なのは仲間のパコだ」


「わかってるわよ〜。でも賞金があれば、もっとパコ捜索の幅も広がるじゃない? つまり私は合理的!」


「都合のいい合理性だな……」

俺たちはひとしきり談笑したあと、あくびを交わしながら、それぞれのベッドへと戻った。

そして横になって数秒後、隣のベッドからすやすやと穏やかな寝息が聞こえてきた。

よほど疲れていたのだろう――だが、それも無理はない。

今日は一日かけて、村中をくまなく捜索していたんだ。


明日は、いよいよ本番だ。

俺は、ほんの少しの緊張と、それ以上の高揚を胸に抱きながら、そっと目を閉じた。

必ず、手がかりを掴んでみせる――そんな確かな予感を感じつつ、俺は静かに眠りの世界へと落ちていった。



場面は変わり――薄暗いどこかの地下室。


ギィ…チャリン。

鎖と鎖が擦れ合う、金属音が低く響いた。

その部屋の壁際には、ほぼ裸体の実験体が一、ニ、三体。

視界を塞がれ、鉄製の拘束台にがっちりと固定されており、身動き一つとれずにいた。


「フー゛フー゛フー゛」

口枷が声を塞ぎ、荒い呼吸がかすかに聞こえる。

周囲には様々な拷問器具が設置されており、この場所が異様な空間である事は、誰の目にも明らかだった。

そして、その器具に囲まれるかのように、中心には大きなソファとテーブルが置かれている。

そしてその中心には、ドカっとふんぞり返るように腰掛ける太った男が一人。

その傍らには、全身が鮮血を浴びたかの如く真っ赤に染まった、異形の巨漢が直立していた。


「ビョッビョッビョッ!今回もまた上玉が揃った。

なぁ、オマエもそうは思わないか?」

気味の悪い笑い声と共に、ソファに腰掛けた肥満気味の男が問いかける。


「……」

だが、異形の巨漢はまるで興味がないというように、沈黙を貫いている。


「ビョッ、オマエは闘いにしか興味がないのか?……まぁいい、明日になればその渇きも潤うだろう」

そう言って、肥満男はゆっくりとテーブルのグラスを手に取ると、一瞬のうちにゴクゴクと飲み干した。


「頼んだぞ。ワガハイの所有物の中で最凶の戦士(ウォーリアー)、"赤鬼(セッキ)"よ。ビョービョッビョッ!!」

薄暗い地下室には、男の下品な笑い声が、いつまでも響いていた――。


そして迎えた、"世紀末武道会"当日。

会場は、ワルバッカ村の中心地――"ゴクアックストリート"の大広場で開催される。

すでに会場には、見物人を含めて多くの人々が集まっており、その数はざっと四、五百人ほどといったところか。

ざわめきと熱気が立ち込め、広場全体が異様な活気に包まれていた。

ちなみに、今回で開催が三回目ということもあり、出場者は前回大会の約ニ倍、史上最多の"102"人が参加するそうだ。

俺は、出場者エリアへ向かわなければならないため、ミカとは一旦ここで別れることになった。

大きく手を振るミカに小さく頷いて、俺はひとり足を進める。

それにしても……相変わらず、参加者のほとんどがモヒカン&トゲトゲ装備の野郎どもばかりだった。

誰ひとりとして普通の服を着てこようという気配がない。

ほんと、この町どうなってるんだよ。

まぁ、俺はそもそも服なんて着ていないのだが。(パンツ一丁)


と、そんなことを思っていた矢先――

壇上に、どこからともなく現れたのは、金髪に青いあごヒゲ、そしてギラギラのラメスーツという謎の出で立ちの男。

どう見ても司会者っぽい。

そしてテンションがヤバい。


「お前らーーーーッ!!! 盛り上がってるかーーーーッ!!!」

その絶叫に、観客のボルテージは一気に爆発する。


「ウォオォオオオオオオオオオッ!!!」

「ヒョエーーーーーッ!!!」

「グゥアアアアアアアーーー!!!」

おいおい、何人かすでにやられてるような声が聞こえるが。

そんな、正体不明の奇声と咆哮が入り乱れ、会場は一瞬のうちにサファリパークと化す。


「今年も、とびっきりワルそうなヤツらが揃ってるじゃねぇか!俺は、今回の司会を務める"バッセイ"だ、よろしくな!」

"バッセイ"…恐らくこの村ではそこそこ有名なのであろう。

何人かの見物人から、バッセイ目当ての黄色い声援が聞こえた。


「さっそくだがルールを説明するぜ!この"世紀末武道大会は主に二つの方式で試合が行われる!一回戦はここにいる全員が入り乱れた大乱闘だっ!そして、勝ち残った十六人がトーナメントに進んでもらうぜっ!!」

なるほど。

確かにこれじゃあいくらなんでも参加者が多すぎる。

十六人か……ルール次第では中々骨が折れそうだ。


「ルールは簡単っ!始まる前に、テメェらに渡した"ブツ"があるだろう?中身は至って健全なただの風船だ。

ソイツをテメェの頭に着けて、破られた奴はバァン――脱落だ。

あとステージから落ちたヤツもな。

これを、最後の十六人になるまで行ってもらう。

武器はナシ、使っていいのは己の体一つのみ!!

準備はいいかテメェらーーーー!!!」


「ウォオォオオオオオオオオオー!!!」

コイツ等と同じ空間にいると、それだけで疲れてくる……。

だが、ルールは理解した。

とにかくこの風船を守り切りながら、連中の風船を割っていけばいいだけだ。

なんだ、これなら不用意に暴力を振るわなくても済むし、意外と健全な大会じゃないか。


「そして最後に!この戦いを見事勝ち抜いた優勝者には、金貨三百枚!!!――そして、豪華景品が贈られる!!!」

司会のバッセイが叫ぶと同時に、ステージ脇から、ギィイ……という金属のきしむ音と共に、大きな物体が黒い布に覆われたまま滑車に乗せられて運ばれてきた。

その異様な存在感に、ざわつく会場。

豪華景品とは一体なんだ……?

観客たちの期待と不安と妄想が、広場全体にうねりのように広がっていく。


「勿体ぶってもしょうがねぇ!」

バッセイがマイクを振り回しながら、会場中に響き渡る声で叫んだ。

「これが――優勝者に贈られる、今回の豪華景品だ!!」


バサァッ!!

黒い布が勢いよくめくられる。

その瞬間――俺の時間が、止まった。

現れたのは、鎖に繋がれ、うつむいたままの"パコ"だった。

俺たちの、仲間が。

まるで奴隷のように、舞台の上に晒されている。


「……っ……パコ……!?」

言葉にならない衝撃が、俺の脳裏を渦巻いていた――。

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