第三十二話『大事なものは全てココに』
「攫われたって……いつ!?どこで!?誰に!?」
ミカは身を乗り出すようにして、矢継ぎ早に問いかけてくる。
俺はその勢いにやや押されつつも、深く頷いてから、ひとつずつ順を追って説明を始めた。
「分かったから少し落ち着け。今から話す――」
王都での戦いの最中、俺とパコは白鷺の魔女が唱えた転移魔法?だかで、この地へと飛ばされた。
突然の出来事で俺たちはここがどこかも分からなかった。
モデスに聞こうと試みたが、応答はなく――ひと先ず聞き込みの為に村の酒場へと向かった。
酒場で得た情報はざっくり四つ。
一、ここはユーディリア大陸の南部――それも最南端に近い辺境の地だということ。
王都ダラスからの距離はおよそ2,000km。(北海道から沖縄くらいの距離)
二、村の名前は"ワルバッカ村"。
村長は"アクダイン"とかいう大柄の太った男で、村長がこの村の名前を決めたらしい。
三、ここの連中はなんというか……異様だ。
全員が同じ服装に髪型で、喋り方まで全く同じなんだ。
「"ワルバッカ"村…そんな村、聞いたことないわね」
ミカは首をかしげながら、小さく呟いた。
「ああ、無理もない。アクダインってのが現れたのも、つい最近の話らしい」
俺は、ミカの疑問がごもっともだとばかりに、肩をすくめながらそう付け加えた。
「なるほどね〜。そのアクダインってやつ、ちょっと気になるけど……それで? 最後の四つ目は?」
「四つ目は――ミカもさっき身をもって体験したことだ。そして、これが一番の問題だと思ってる」
俺は少し声を潜めて、重く言い放つ。
「ここには、“魔法”という概念が――存在していないらしい」
「え……?そんなまさか……!」
一瞬、信じられないという顔を見せたミカだったが、すぐに眉をひそめ、ほんの少し前の出来事を思い出す。
モヒカン男たちを威嚇するために放ったはずの“フレイマ”。
だが、結果は不発。
杖は沈黙を決め込み、その隙を突かれてあわや連れ去られるところだった。
「やっぱり、私のMPが不足していたわけじゃなかった。でも、それってかなりマズいわね……」
ミカの表情から、じわじわと不安の色が滲んでいく。
「俺とパコに影響はないが、ミカにとっては死活問題だよな」
「いや、私だけじゃない……さっき、ダラスとココは二千キロほど離れてるって言ってたわよね?」
「ああ、それがどうした?」
「どうしたじゃないわよっ!? 二千キロよ!? 二・千・キ・ロ!!歩いて帰れって言うの!?魔法なし!転移もなし!馬すらいないじゃないの!どうすんのよこれからぁぁぁ~~!!」
ミカの叫びが、辺り一体へ響き渡る。
「まぁまぁ、そんな大声で叫ぶなって。またモヒカン連中に囲まれるぞ」
俺は、まるで駄々っ子のように両手足をばたつかせて騒ぐミカに、肩をすくめながらそう諭した。
「それに、幸い今は当面の目的地も決まってなかっただろ?
まずは、パコを探すのが先決だ」
「そっか!……って、うわあああ〜!肝心の一番大事なこと忘れてたーっ!」
ミカは頭を抱えながら、今度はその場でぐるぐると回り始めた。
……相変わらず騒がしいヤツだ。
これがミカの良い所でもあるんだが。
「それで、パコはどこで攫われたの?」
ミカはぐいっと身を乗り出し、俺の顔を覗き込むようにして訊ねてきた。
「……酒場だ」
俺は少し視線を落としながら答える。
「マスターと話してるほんの一瞬の間に、隣にいたはずのパコがいなくなってた。
気づいた時には…これが、そばに置かれていたんだ」
そう言って、俺は下着の中をまさぐりながら、自信満々の顔でこう続けた。
「今、見せるからちょっと待ってろ」
「って、どっからナニを取り出そうとしてんのよッ!!!」
ミカの鋭いツッコミと同時に、彼女の蹴り上げが俺の股間をえぐるように炸裂した。
キーーーン!!
「あべしッッ!!?」
強烈な激痛に、俺は思わず膝から崩れ落ちる様に倒れ込む。
異世界転生して、こんなに痛かったのは初めてだ……。
どんなに防御力にステータスを振っても、股間だけは強くならないらしい……。
「バカじゃないの!?下着の中に隠してるなんて……!ひ、非常識にも程があるわっ!!」
ミカは赤面しながらも額に青筋を立て、ぷりぷり怒っている。
「し、しょ、しょうが、ないだろ……ここしか隠すとこないんだよ……」
朦朧とする意識の中、俺はなんとかゆっくりと体を起こすと、ミカには後ろを向いてもらうよう指示し、五メートルほど離れた距離で股をまさぐる。
「あった、もうこっち見ていいぞー」
俺は股ぐらから取り出した"ブツ"をミカへ見せる。
「これ以上近づかないでよね!!
……なにそれ?こっからじゃよく見えないっ!口で説明して!」
くっ…注文の多いヤツだ……俺は仕方なく口頭で説明した。
「それがな、俺にはなんて書いてあるか分からないんだが、どうやらなにかのチケットみたいなんだ。ミカならこの国の言葉…わかるだろ?」
「……う〜〜〜!! 分かったわよ!!だからそのまま話さずに、持ったまま動かないでよね!」
ミカは観念したように、まるで処刑台にでも向かうかのような足取りでゆっくりと近づいてきた。
そして俺の手元のチケットらしき紙片を恐る恐る覗き込む。
「う〜んと、なになに……参加チケットのようだわ。
これは、屈強な男たちが繰り広げる肉体の祭典……?」
ミカは目を細め、小さく書かれた文字を指でなぞりながら読み上げていく。
「武器の類は一切禁止、己の体一つで勝利を掴み取れ……?
第三回:"世紀末武道会"、開幕……
優勝者には、豪華景品と、金貨三百枚……って!金貨三百まいですってっ!!?」
ミカは思わずそのチケットを力強く掴みとり眼前へと近づける。
「そうなのか、俺たち金欠だし丁度いいな!
それに己の体一つ――俺にピッタリの大会だ!」
「そ、そうねっ!ステルなら強いし、優勝はできなかったとしても、準優勝者にも金貨百枚って書いてあるわ!ふふふっ」
ミカはキラキラと目を輝かせながら、そのチケットをまるで宝物のように頬擦りする。
「この大会がパコの行方と直接関係あるかは分からないが、闇雲に探すより、出てみる価値はありそうだな」
「そうねそうね〜っ頼んだわよ!ゆ・う・しゃ・さんっ。
あ〜もぅ、賞金の使い道はどうしようかしら?
お腹も空いたし、新しいコスメも魔法教本も欲しいし〜〜あ〜ん迷っちゃうっ!」
ミカの頭の中では、すでにバラ色の未来が展開されているようで、俺のことなど眼中にない。
彼女は食い入るようにチケットを見つめ、ニヤニヤしながらうっとりとため息をついている。
「おい、喜ぶのはいいがソレ、一応下着の中から出したやつだぞ」
「ブフォアッッッ!!」
ミカは盛大に吹き出すと、手にしていたチケットを反射的に放り投げた。
ヒラヒラと空中を舞ったそれは、奇しくも俺の顔面に着地する。
「ぎゃあああああああ!!私頬擦りしちゃってた、顔にぃぃぃぃぃいい!!!」
ミカは自らの頬を何度も擦る仕草を見せる。
「間接股間くらい、気にするなよ」
「"間接股間"って何よっ!!股関節みたいに言うな!
そんなものあってたまるかあっーーー!!」
と、涙混じりの声でポカポカと俺を殴るミカのことは、とりあえず置いておこう。
今は、それよりも――ひとまずの目標が定まった。
このチケットが、パコを見つける手がかりになるかもしれない。
笑いあり、涙あり?何が飛び出すか分からない。
カオスな“世紀末舞踏会”が今、幕を開けようとしていた――。




