第三十一話『転移して五秒で即ナンパ!?』
パァァアァア――シュオン。
「うわっ!? ちょっと!まだリップ塗ってる途中だったのにぃ~~!」
転移の光が収束しきると同時に、ミカの姿がブワッと現れる。
唇の片側だけ妙にツヤツヤと光っており、ミカは慌ててその半分を手で隠しながら、すぐに周囲の様子を探り始める。
〜ここで簡単なおさらい〜
少し前、ダラス王国にて――黒鷲の魔女・ロザリンとの戦いを見事生き抜いたミカは、白鷺の魔女・イデアルの転移魔法によって、先にどこかへ転移した仲間達の元へ飛ばされたのだった。
「ここは、村……かしら?」
一先ず状況を整理する為に、ミカはあたりをキョロキョロと見回す――が、いくら見回しても見慣れた仲間の姿はどこにもない。
(おかしい……ステルとパコが見当たらない……それに、ここの人たち……なんかトゲトゲした服着てて、ちょっと怖いかも)
ミカが不安げに周囲を見渡していると。
気づけば――彼女は、あっという間に取り囲まれていた。
「おいおい、そこの可愛い嬢ちゃんよ?
ちょっとオレたちと遊んでいかねぇかぁ?キヒヒ」
ニヤついた男が、両手を広げながらこちらに近づいてくる。
その姿は、どう見ても完全にアウト。
まごうことなき脇役・俗にいう"悪役モブキャラ"のような五人の男達が、四方からミカとの距離をジリジリと詰め寄ってくる。
(な、なんなのよこいつら……!?しかもなんで全員同じ格好と髪型してんのよ!?ここではコレが流行ってんの!?)
男達の身なりは、全員揃ってモヒカンに革ジャン。
肩には触っても痛くなさそうなトゲがびっしりと付いている。
極めつけは、全員が裸足で顔に大なり小なりの傷がついていた。
「あ、いやちょっと、私友達と待ち合わせの予定があるから……」
ミカはゆっくりと後ずさりしようとすると、後ろにいた男がミカの肩をガッチリと掴み引き寄せる。
「キャアッ!?」
「そりゃあいい!それならその友達も一緒に、オレたちと楽しもうじゃねぇの。ギヒヒヒ」
(く、コイツら……!大人しくしてれば調子に乗って……)
ミカは肩に置かれた男の右手を勢いよく振り払うと、そのまま杖を向けてこう叫んだ。
「アンタ達ッ!これ以上近づいたら許さないわよっ!
私はダラス王国直属の魔術師・"ミカ・イライザ・スカーレット"
その気になれば、アンタ達なんてケチョンケチョンなんだから!」
「ダラケ…王国?そんな気だるそうな国知らねえな!キヒヒ!
それに"マホウ"ってなんだ、美味いのかぁ?
そんなミカの杖さっさとどっかに置いて、たっぷり楽しもうぜぇ」
(言っても聞かないアホ共…これは分からせてやらないと駄目ね)
心の中でそう呟くと、杖を構えてこう叫んだ。
「フレイマッ!!」
……
「あれ……?フ、フレイマ!!」
キヒヒヒ……
モヒカン男達はニヤニヤと下品な表情で、こちらを見つめている。
「おかしい……なんで魔法が発動しないの……?」
ミカは焦った表情で掌を見つめる。
MPはまだ十分残っているはずなのに、詠唱を終えても、杖は何の反応も示さない。
まるで、魔法の杖がそこら辺に落ちているただの棒切れになってしまったかのようだった。
「キヒヒ……いいからこいよ!」
一人のモヒカン男が、強引にミカの左腕を掴んで連れ去ろうとする。
「イヤッ!離してっ!」
ミカは再度振り解こうと抵抗するが、左腕はガッチリと掴まれておりびくともしない。
そのままズルズルと、薄暗い裏路地へと引きずり込まれそうになる――その瞬間だった。
ドダダダダダダダダダダッ!!
背後から、"ナニカ"が猛烈な勢いで地面を蹴り進む音が響いてきた。
「ん――? なんだこの音は?」
モヒカン男達は異変に気づき、思わず足を止めて振り返る。
だが――遅かった。
その時すでに、“ナニカ”の拳は振り上げられていたのだ。
ボゴォッ!!!
「あべし!!」
炸裂する拳とともに、モヒカン男の一人が見事に空中へ吹き飛ぶ。
トゲ付き肩パッドが宙を舞い、革ジャンが鳥のようにバサバサと風を切った。
さらに一瞬の間もなく、次々と拳が振り上げられる。
ボゴォッ!!
「ひでぶっ!!」
ボガァッ!!
「たわばぁっ!!」
ドゴォッ!!
「はぁひゃ〜〜!!」
まるでボタン連打のコンボ攻撃。
ミカの目の前で、モヒカンたちは次々に打ち上げられていく。
「お…おぼえてろ〜!!」
残されたモヒカン男のひとりは、もはや戦意喪失。
ガクガクと膝を震わせながら、「ヒィッ」と情けない声を上げ、裏路地へ一目散に逃げ出していった。
やがて、辺りに静けさが戻る。
「ふぅ……ミカ、大丈夫だったか?」
聞き馴染みのあるその声の主は――"断捨離勇者・ステル"だった。
「もうっ!勝手にどこほっつき歩いてたのよ……!」
ミカは膨れっ面でステルを睨みつけた――が、すぐにその頬がほんのり赤らむ。
「でも……助けてくれてありがとっ」
そう言って、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「ああ、なぜだかここの連中はみんなああだ。目と目が合うやいなや喧嘩をふっかけられて、俺とパコも一苦労だった」
「そうだったのね……あれ、それよりパコは?」
ミカはキョロキョロと辺りを見回すが、パコの姿はどこにも見当たらない。
「ああ、それがな……ちょっと面倒なことになったんだ」
ステルは珍しく困りきった表情でうつむいた。
「面倒なこと?もしかして迷子とか?」
「いや違う。これは完全に俺の落ち度なんだが…その……」
「なによ、別に怒らないから行ってみなさいよ」
ミカは、普段は堂々としているステルが珍しくモジモジしているのを見て、少しばかり焦れったくなり、やや促すように言葉をかけた。
するとか細い声で、ステルはボソッと呟く。
「……攫われちまった」
「攫われただけね。なんだ、それなら――って、えぇぇぇぇぇぇーーーーーー!?」
ミカの絶叫が、路地裏にいる全員をビクッと飛び上がらせると共に、物語の新たな始まりを告げようとしていた――。




