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第二十五話 『光魔鏡』

「なるほど!そういう仕組みだったのね。モデスはやっぱり頼りになるわ」

モデスから"オーダー:マリオネット"の攻略法を教わったミカとパコは、襲い来る魔術教団の攻撃をなんとか防ぎながら、反撃の機会を伺っていた。

 

「これで、教団の皆を傷つけることなく無力化できるハズだけど、問題はどうやってあそこまで近づくか、ね...」


「その役は、パコに任せるのだっ!」

パコが胸を張り、自信満々に言い放つ。


「パコ……!確かに、炎魔法しか取り柄のない私より適任なのは間違いないけど……あの数の魔術師の中に飛び込んでいくのは、いくらパコといえども簡単じゃないはずよ……?」

ミカが心配そうに視線を向けるのもお構いなしに、パコは背中の小さなリュックをゴソゴソと探り始めた。

中には、いつ何が起きてもいいように、ありとあらゆる魔道具や薬草――そして大量のお菓子が詰め込まれている。

このリュックは、かつて“ある魔術師”から譲り受けた特注製で、見た目からは想像もできないほどの巨大な収納スペースが隠されていた。

さながら、某ネコ型ロボットの四次元ポケットのような、不思議な鞄だ。

パコはその奥から、古びた手鏡のようなものをそっと取り出し、得意げに一言。

 


「まさか……これが役に立つときがくるとはなっ」

パコは感慨深げにそう呟き、その手鏡を顔の前に掲げると、じっと食い入るように鏡面を見つめた。

そのわずかな一瞬のあいだも、魔術教団からの攻撃は容赦なく降り注ぎ、あたりに炸裂音と閃光が絶え間なく響いている。

 

「"マグナ・ディスペラー"」

複数の方向から一斉に、光線が二人へ目掛け放たれる。


「マ、"マグナ・フレイマーラ"!!」

ミカは、その容赦ない攻撃を死に物狂いで一人で防ぎきっていた。

だが、このままではいけない。

仮にミカ一人のMP(魔力)量を“100”とするなら、今この場にいる魔術教団の数は8人。

しかも、それぞれがミカとほぼ同等のMP(魔力)を有していると考えると――消耗戦になれば、やがてこちらが押し負けるのは目に見えていた。

 


「ちょ、ちょっとパコ! この期に及んで、のんきにお顔のコンディションチェックしてる場合じゃないわよ!早く手伝って――!」


「ほれ、ミカも見てみい」


「いや、だから今はそういう状況じゃ――!」

ミカの訴えもむなしく、パコは少々強引に手鏡を押しつけ、覗けと目で合図する。


「ん……なによ。何の変哲もない、ただの手鏡じゃ――」

ミカが手鏡に目を向けたその一瞬の隙を、教団は見逃さなかった。

即座に容赦のない光線の嵐が二人へ迫る。

 


「マズイっ! 間に合わな――!!」

その時だった。

パコが大声で叫び、必死に手振りを交える。


「ミカっ!その鏡を!光線の方向に向けるのだっ!早くっ!!」


「ええっ!? この期に及んで何を――」

あまりに突然の指示に困惑する間もなく、轟音と共に閃光が目前に迫る。


「も、もうおしまいよ〜ッ!!まだお嫁にも行ってないのにィィィィキャアアアァァァアァァーーーッ!!!」


パァンッ!!

ミカの絶叫が響くのと同時に、教団が放ったその光線は、目もくらむような閃光を放ち炸裂する。

一瞬の間、ステルも思わず目を覆ってしまう程の光が辺り一体を包んだ。

そして、その光がゆっくりと晴れていくと。

シュウゥウゥゥ――。


「あれ……??何が起きたの?痛みもないし、なんともないわ」

予想外の出来事に、ミカの思考は全く追いついていなかった。


「ん……もしかしてこの鏡……!」

あらためてその手鏡をよくみてみると、鏡に映る自らの姿のその奥に、うっすらと光り輝く物体が見えた。


「これは、"光魔鏡(こうまきょう)"といってな――」

呆気に取られているミカに、パコはこういって聞かせた。


光魔鏡(こうまきょう)――。

それは、忘れ去られた過去の遺物である。

突如として魔物たちがこの地に現れ、人類が対抗手段として編み出した奇跡の御業――それが魔法だった。

だが、すべての始まりというものは、得てして不完全なものである。

魔法が生まれて間もない頃、人類は今とは違い、一つの術を繰り出すだけでも、膨大な時間と魔力を必要としていた。

例えば、光魔法“ディスペラー”を一発放つことすら、三日三晩かけて魔力を練り上げ、ようやく成し得るほどであった。

だが、無論それでは実戦では役に立たない。

なぜなら、魔物はいつどこに現れるかも分からず、一刻の猶予も許さないからだ。

そうして人々は様々な思考を巡らせた。

食せば魔力が増すと噂された毒草を、なんとか調合して口にできないか画策したり、あるいは怪しげな修行法を延々と繰り返したり。

だが――そのどれもが、次々と失敗に終わっていく。

 

そんな時。

とある一人のエルフが編み出した方法こそが、"魔力溜蔵(マナ・リザーブ)"である。

魔力量が少ないのであれば、少ないなりに、時間をかけてゆっくりと魔力を器に蓄えればいい。

そして、いざその時が訪れたなら――

溜め込んだ魔力を一気に放出し、魔物たちを迎え撃つのだ。


実際、この魔力溜蔵(マナ・リザーブ)という手法を用いるようになってから、人類は魔物との戦いで多大な戦果を挙げることとなった。

その時に最も良く使われたものこそが、鏡である。

鏡には、光を反射させる性質があるが、同時に光を吸収する性質も持ち合わせていた。

その性質を利用し、魔力を溜める貯蔵庫へと作り変える。

こうしてできたものが、光魔鏡(こうまきょう)だ。


ちなみに、現代で魔力溜蔵(マナ・リザーブ)を用いることはほぼ存在しない。

そもそも魔力溜蔵(マナ・リザーブ)はあくまで光魔法を溜める為の手法であり、その他の魔法(炎や氷、雷など)に関しては用いる事ができない。

なおかつ、現代の魔術師はそんな手間のかかる事をせずとも、生まれた段階である程度の魔力量を有している為、時代の流れとともに忘れ去られていったのだ。


「とまあそんなわけでな、魔術教団(あやつら)さっきから光魔法ばっかり唱えてきたじゃろ?その時ピンときたんだっ。光魔鏡こうまきょうを使えば、光魔法の類なら無力化できるとなっ!」


「これなら教団の人達を傷つける事なく無力化できる……凄いっ!パコってやっぱり天才なのね!」


「いや〜っ、それほどでも……あるかな〜っ!」

ミカの褒め言葉に、パコはほっぺたが落ちそうなほど顔を緩ませて、にんまりと満面の笑みを浮かべていた。


「よし、これで準備は整ったっ!さぁいくぞぉ〜!」

「ええ!」

攻略法は編み出した。

あとは、実行するだけだ。

パコは再び短剣を手に取り、ミカと視線を交わす。

そして二人は、覚悟を込めて魔術教団の元へ駆け出した――。

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