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第二十二話 『ダンクラット城の異変』

ヒュオオォオォオオ――。

ステル達三人を乗せた、蒼竜(そうりゅう)グランアズールは、上空からダンクラット城へ一直線に急降下していく。


「キャァァアァァァア!!お、お、落ちるっ!もうちょいゆっくりお願いぃいい!!!」

ミカは情けない悲鳴を上げながら、半分宙にぶら下がっていた。足はバタバタと空を蹴り、今にも空中に放り出されそうだ。

死に物狂いで蒼竜(そうりゅう)の鱗をつかみ、必死にぶら下がるその姿は、風に吹かれてバタつく鯉のぼりのようだった。


「カッカッカッ!何をしとるんだミカはっ。竜に乗る事ごときできゃあきゃあ騒ぐんじゃ――って、うひゃあっ!!?」

と、得意げに笑っていたパコも、蒼竜(そうりゅう)の急旋回に遠心力でふわりと浮かび、思わず情けない声を上げるのだった。


かくいうステルはというと――。

竜の頭の上で、まるで達人かのように腕を組み、仁王立ちの姿勢で遠くの城をじっと見据えていた。

その体には一切の揺らぎがなく、頭髪だけが激しくなびいている。


「パコ!な、な、なんでステルは、あんなに平気そうなの!?」

「恐らくあれは"ドラゴンテイマー"スキルのおかげだろうなっ。ドラゴンテイマーのスキル所持者は、嵐の真っ只中でも平然と竜に騎乗すると聞いたことがある」

「ず、ずる〜〜い」


そんなこんなで、三人は無事ダンクラット城の門前に到着した。


「ハァハァハァ……やっと、、着いた、わ、、ドラゴンに乗るなんてもうこりごりよ……」

ミカとパコは何度も振り落とされそうになったせいで、顔色は干からびた魚のように、カラカラで青ざめていた。


「二人とも大変だったな。グランには、もう少し丁寧に降ろしてくれって伝えとく」

「うむっ……頼んだっ……うぷっ」

パコは乗り物酔いならぬドラゴン酔いになってしまった様で、青空を見上げ必死に吐き出すのを堪えていた。

ステルが優しくパコの背中をさすると、なんとか落ち着いた様だ。

そしてステルは話を切り出す。

「さて、ここに来たのは転生した日以来だが…おかしいな。

なぜ城の門前に騎士団が一人もいない?通常なら、憲兵団の守衛が常に詰めているはずだ」

「そうね、明らかにわざと私達を招き入れてる様な感じがして不気味だわ…」

ミカの言う通り、城の周囲は不気味なほどに静寂に満ちていた。

人一人見当たらないのは勿論のこと、しばらく人の出入りすら感じないほどに、その空気はがらんとしていた。


「ま、俺たちにとっては好都合だ。罪のない人達と戦うのはできる限り避けたいからな。グラン、悪いがおまえはここで留守番しててくれ。もし他の人間が来ても、食ったら駄目だぞ。いい感じに威嚇して誤魔化してくれ」


グルォン――!

蒼竜(そうりゅう)は頷きながらそう答えた。


「よし、出発だ!」

そう言って、ステルは力強く城門に手をかけた。

本来なら大男二人がかりで開閉する門を、いとも簡単に開いていく。

ギィーーーーバタン。


「入って早々モンスターハウスだったらとヒヤヒヤしたが、幸い魔物達はおらんようだなっ」

パコは安心したようで、ホッと胸をなでおろした。

「ええ、一先ず目指すは王様の玉座に向かいましょう。そこでこの国に何があったのかが分かるはず。案内するわ」

そうして、三人はいつでも戦えるよう緊張感を保ちながら、王室へと歩を進める。

ダンクラット城の王室は、城の最上階にそびえており、そこへ辿り着くには、延々と続く長い螺旋階段を上らなければならなかった。


カツ、カツ、カツ、カツ……

こうして螺旋階段を上ること十五分ほどが経過した頃――。

パコはとうとう限界を迎えた。


「ハァ、ハァ、ハァ……んぁーっ!長い!長すぎるぞっ!これ作ったやつ絶対性格悪い!年寄りに優しさってものはないのかーっ!!」

パコはステルやミカと比べ歩幅が小さいため、一段登るにも一苦労だ。既に膝はガタガタと笑っており、今にも倒れ込んでしまいそうだった。


「ごめんね、パコ……本当は、魔術師たちの転移魔法で移動するのが一般的なんだけど……私、それが使えないのよ……」

ミカは申し訳なさそうに肩をすくめ、どこか役に立てないことを悔やむような表情で言った。

その時、ステルは何かを言うでもなく、静かにパコの前に立った。

そして、無言のまま膝を折り、背を向けて――おんぶの体勢をとった。


「ゆ、勇者……!」

「年寄りは労わるべし、だろ?」

「年寄りって言うなっ!パコは人間年齢だとまだまだピッチピチじゃわい!」

そう言いながら、パコはベシッとステルの背中を叩いた。

「……でも、ありがとなっ」

その声は小さかったが、背中にはしっかりと感謝が伝わっていた。


「よし、ここからは一気に駆け上がるぞっ!ミカ、覚悟しろよ!!」

「わ、私も、か弱い女の子筆頭なんですけどぅ〜!私の事もおぶってよ〜」

甘えた声で呟くミカをよそに、ステルは物凄い速度で階段を駆け上がっていく。


「って、話聞け〜〜!!!」


それからしばらくして――。

三人は遂に、玉座の扉前まできていた。

「結局、魔物達は一体もいなかったな」

「そうね、私達が少し考え過ぎだったのかもしれないわ!王様と話をしたら、すぐにこの誤解も解けるかもしれない!さぁ、早くいきましょう!」

「ああ!」


そういって、俺たちは特に躊躇せず扉を開いた。

「王様!ただ今戻りまし――え」


だがその直後、目の前の光景に俺たちは愕然とした。

「あら?随分遅かったじゃない。お陰で暇つぶしに、何人かヤっちゃったわ」

そこには――さっきまで自分たちを取り囲んでいた騎士団の面々と、魔術師教団の人間たちが床に倒れていた。

その誰一人として声を発することもなく、まるで魂そのものを抜き取られたかの様に、微動だにせず沈黙している。


「黒鷲……の……魔女……!!」

ミカは震えた声でそう呟く。


「フフ…その名前はあまり好きじゃないの。あの白鷺の魔女(アバズレ女)と比較されてるみたいで虫唾が走る。ロザリン――それが私の名前よ」


途端に、周囲はとてつもない殺気で満ち溢れた。

三人は瞬時に悟る。

これは、自分たちが想像している以上に、大変なことが起こっている。

その始まりを告げるように。

ゆっくりと背後の扉が閉じていった――。

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