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第十九話『蒼き咆哮』

「ハァハァハァ…!あともう少しよ、パコ!頑張って」


「パコはもう限界じゃあ〜!足が疲労でプルプル笑っておる〜」

王都ダラスに着いた途端、謎のフードを被った男に襲われた一行は、その後も民衆から反逆者のレッテルを貼られ、現在も追われている状況だ。

ミカはひとまず身を隠すために、この国の人間でも一部しか知らない場所(スポット)――"ドラゴンの厩舎"を提案し向かっていた。


「パコは普段すばしっこいのに、持久走は苦手なのね」


「うむぅ…まだか〜まだ着かんのか〜っ」

パコの今にも倒れ込みそうな様子を見て、ミカはパコの背中を支えながら、後押しした。

「あとはここを右に曲がって…」

パコを励ましながら街路を曲がった――その時だった。


「そこまでだ!」

猛々しい男の声があたりに響き渡った。

その声がした正面には、鎧をきらめかせた王国の精鋭騎士団が、ずらりと列を成して、鋭い槍と剣をこちらに向けていた。

さらに、後方には魔術師たちが静かに杖を掲げている。


「騎士団と魔術教団まで、なんで……?わ、私です!"ミカ・イライザ・スカーレット"です!これはきっと何かの間違いで」


「"ディスペラー"!!」

複数の魔術師が一斉にそう唱えると、神々しい光の光線がミカとパコへ容赦なく放たれる。


「話をきい…!"フレイマーラ"!!」

ミカは叫ぶように詠唱し、寸前のところで術を相殺した。

眩い閃光が激しくぶつかり合う。


「い、いきなり何よっ!それにその魔法は、光魔法…!普通の人間に向けていい魔法じゃないわ!」


「黙れッ!この国を売った反逆者がッ!お前達のせいで……この国はもうじき滅びるのだッ!」

一人の騎士団員が怒気に満ちた声で叫んだ。

その言葉に、ミカは思わずピタリと動きを止める。

 

「ダラスが……?この国が……滅びる……?アナタ達、一体なんの話をしているの?」


「とぼけるな!勇者をそそのかし、この国の滅亡を企んだ悪しき絶炎の魔女・"ミカイラ"よ!」

男の張り上げた怒声と共に、再びミカへ光線が襲いかかる。


「フ、フレイマーラ!!」

ボシュウン――

ミカは再び、間一髪のところで自らの炎魔法でそれを相殺する。

「わ、私が魔女……?ミカイラ……?ううん違う!私はミカで、王国直属の魔術師よ!あなた達もそれは知ってる筈……」


「吐け!勇者は何処だ!」


「し、知らないわよっ!」


「…もういい。貴様は生け捕りにし拷問にかける。我が軍の拷問官は優秀だ。半日もあれば、否が応でも吐くことになる…。皆の者、魔女・ミカイラを捕らえよ!隣のエルフの生死は問わん!」

オオォオォオオーー!!

ミカの叫びも虚しく、数十人の騎士団がミカとパコを目掛けて一斉に襲いかかってきた。

みるみるうちに、その距離は縮まって行く。


「だめだっ!あやつら完全に聞く耳を持っていない。一旦退くぞっ!」


「……どこに退く気だ?」

「え?」

背後から低く響いた声に、パコは反射的に振り返った。

そこには――先ほど目眩矢(スモークアロー)で撒いたはずの民衆たちが、いつの間にか再び集まって道を囲み、立ち塞がっていた。


「しまったっ!完全に塞がれた!」

絶体絶命の状態。

だが、こんな状況に追い込まれてなお、民へ魔法を向けることだけは、ミカにはどうしてもできなかった。

そんなことをしてしまえば、それこそ“悪しき魔女”の仲間入りだ。


(神様……! いるならどうか、一度だけ……私たちを助けてください!)

ミカとパコは、互いにしっかりと抱き合い、瞼を閉じて祈った。

その祈りが届いたのか――次の瞬間、二人の頭上がふいに暗く覆われた。


「ゴァオオォオオン!!」

上空から、空を切り裂くような咆哮が轟き渡る。

その咆哮の主は――群青色の鱗を全身に纏い、ルビーのように赤い瞳を輝かせる、巨大な竜だった。

地を揺るがすようなその雄叫びに、民衆のみならず騎士団や魔術教団までもが恐怖におののく。


「か、神様……?ほ、本当に、私の祈りが届いたの?」


「神様じゃなくて、悪かったな」

巨竜の背にまたがる男が、ミカへ向けてそう言った。


「え?え?ス、ステル!?ってここここれは、どういう状況!?」

突如起こった衝撃的な出来事の連続に、ミカとパコは慌てふためく。


「どうやら俺は"ドラゴン・テイマー"になったらしい」

ステルは、自らもよく分からないといった様子でそう言った。


「はぁあ!?この二、三十分の間に何が合ったのよ!それに、勝手に消えちゃって私たち大変だったんだから!あとできちんと説明してもらうからね、バカ勇者!」


「相変わらずの毒舌だな…よし。これからはイライザ・スカーレットじゃなくて“ミカ・イライラ・モンクタレット”と呼ぶことにしよう」


「やめいっ!」「ハッハッハ」


「あの巨竜は…かつて勇者と旅を共にしたとされる、伝説の竜――蒼竜(そうりゅう)・グランアズール…!!だが、かの竜はすでにお亡くなりになった筈……」

この場にいる全員が、その巨竜の姿に恐れを抱き硬直していた。

その隙を、ステルは見逃さなかった。


「今だ!」

蒼き竜は瞬く間にミカとパコの目の前まで降下すると、二人を乗せて再び上空へと上昇していく。


「ディスペ……!」

「やめなさい!」

魔術教団の一人が光魔法を放とうとした時、リーダーのような存在の女がそれを静止する。

「で、でも……このままでは反逆者達が!」


「無駄よ。私たちごときの魔術では、竜種の鱗に傷一つつけることなど出来ないわ…。大変なことになった、すぐに城に戻って"あのお方"に報告するわよ!」

そう言い残すと、魔術教団と騎士団は足早に去っていった。


こうして、ミカとパコは――半ケツのドラゴンテイマーによって、間一髪の危機を逃れることができた。

だが結局のところ、自分たちがなぜ“反逆者”と呼ばれ、さらには“魔女”の汚名まで着せられているのか、謎は一層深まっていく――。

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