第十四話 『現れた救世主』
「カラカラ……?お前は、何者だ」
「何者かって? 俺はただの――断捨離が趣味の勇者、立町 静照だ!」
ステルは目の前の強大な魔物にも物怖じせず、力強くそう言い放った。
「ス、ステル! 生きてたのね、良かった……!
私たち、スケルトンに捕まったんじゃないかって、ずっと心配してたのよっもう……!」
ミカは涙声を混じらせながら、ステルに向かって叫んだ。
「ミカ、パコ。遅くなって悪かったな。
道中思わぬアクシデントがあって、時間がかかってしまった。
だがもう心配するな、一瞬で終わらせる」
ステルは一言そういうと、改めて目の前の敵へ向き直った。
「カラカラカラ…笑わせるな。お前は嘘つきだ。
勇者のくせに鎧はおろか、剣も盾も持っていないではないか。
それにお前からは、魔力の魔の字も感じられぬ。
その程度で我に挑むなど、笑止千万!!
あの世で仲間と悔いるがいい」
骸の王は、両腕を前へと突き出した。
すると、瞬時に両の手から巨大な魔法陣が錬成される。
「く、くるぞ、ステルっ!」
「カラカラカラ……その無謀な勇気、僅かながら敬意を表そう。
よって――我が最大魔術をもって葬り去ってやる。
永遠に凍てつくがいい……!
“アブソリュート・ゼロ・マキシマ"!!」
パキパキパキ……ッ!
詠唱の声と共に、空気が悲鳴を上げるように凍りついていく。
周囲の温度が急激に低下し、吐息すら白く凍るほどの寒気が満ちた。
次の瞬間、天井を覆う無数の氷柱が一斉に光を反射し、鋭い殺意を宿してステルめがけて降り注いだ。
ヒュンヒュンヒュンヒュン――!!
ステルは襲いくる氷柱をかわしながら、骸の王の元へと走り出す。
「カラカラカラ…!いつまでよけられるかな?」
だが、そんな骸の王の予想をも遥かに超える反射神経で、ステルは迫り来る全ての氷柱を紙一重で躱しながら、少しずつ距離を詰めていった。
「す、凄い。どんな動体視力してるのよアイツ…」
それは仲間たちでさえ息を呑むほどの光景だった。
まるで氷の刃の中を舞う、華麗な踊り子のような立ち回りだった。半ケツなのは置いておいて。
「いけるぞっステル!!」
パコの振り絞る様な声援のお陰が、ステルはさらにギアを上げ、あっという間に|《骸の王》スケルトンキングの目の前まで迫った。
「うぉおおぉおおぉおおーー!!!」
自らを鼓舞するように、ステルは大声を上げながら拳を振り上げた。
骸の王には、もはや身を守る術は残されていない。
魔法も、今から唱えては間に合わない状況だ。
「くらえー!オ、レ……!?」
パキィンッ!
「カラカラ…残念だが、終わりだ」
そこで、ステルの動きが突如としてピタリと止まった。
全身は瞬く間に凍りつき、氷の結晶に覆われていく。
骸の王の頭蓋骨まで、あと数センチ――
その一撃が届く寸前のところで、ステルは完全に静止していた。
その目からは生気が消え失せ、氷の彫像と化していた。
「カラカラカラ……!コヤツは、我に近づき過ぎたのだ。
我が領域魔術――ニブルヘイムは、近づけば近づくほど対象を急速に凍結させる。
お前たちが魔法や弓で距離をとって戦っていたのは、ある意味では正解だったと言えよう……
もっとも――お前たちの魔法ごときで、我に傷をつけることなど叶わぬがな」
「そ、そんな…嘘……」
ミカは、ステルの変わり果てた姿を見て、力無くヘナヘナとその場に座り込んだ。
「安心しろ、すぐにお前達もコヤツと同じ場所に送ってやろう」
完全に戦意を喪失した二人へ向けて、骸の王は両手をかざすと、空間に魔法陣が出現し、二対の氷槍がゆっくりと現れる。
パキパキパキ――。
「終わりだ」
これが本当の終わり。
骸の王が、氷槍を無抵抗の二人へ向けて放とうとしたその瞬間だった――。
「終わるのは……お前だ」
その声の主は、紛れもなく氷漬けになった筈のステルだった。
「な、何故だ!?何故、お前は動くことができる!?」
骸の王は、そのあり得ない状況に動揺を隠せない様だった。
「なぜ動けるかって?そんなの簡単。
俺にまとわりついた氷をまるごと"断捨離"した。それだけだ」
「だ、だ、ダンシャリ?なんだそれは!?そんなヘンテコな術で我の領域魔術をどうにかする事など、できるわけは」
「出来るんだよ、レベルアップした今の俺ならな」
ステルはそう言うと、今度こそ身を守るものが何もない状態の骸の王に向けて、力強く拳を振り上げた。
「な、何をする気だっ!我は不死種のスケルトンだぞ?そんな拳でいくら殴ろうとも、意味など…」
ステルは容赦なく、骸の王の顎骨の辺りへ強烈なストレートを叩き込んだ。
「グボハァアアッンーー!!!」
その瞬間、骸の王の体は宙に浮き、二十メートルほど先の壁まで勢いよく叩きつけられた。
頭に被せていた王冠は遥か彼方まで吹っ飛び、未だかつてない程の衝撃と激痛が王を襲う。
(デーーウッソ〜ン!何これ痛過ぎムリムリムリ!殴られるのってこんなに痛いノ〜〜!?)
それでも、ステルの攻撃は止まらない。
すぐに距離を詰めると、もう一度拳を振り上げる。
「これはパコの分だ」
「ブゥホッッ!!!」
今度は、頭蓋骨へ強烈なゲンコツを浴びせる。
その衝撃で、骸の王の体は地中深くまでめり込んだ。
「しぶといな、さすが骸骨だ」
ステルがもう一度、大きく振りかぶろうとしたその時、骸の王は情けない声でこう叫んだ。
「ヒィイイィイイィイイィイイ〜〜!!か、勘弁してくださいッ!!そんな殴らんでも!ほれ、魔力核!!これあげたらワシ死ぬから!お願いだからもうヤメテ〜〜!!」
そういうと、自らの頭をパカっと開き、禍々しく光り輝く石の様なものを差し出した。
「なんだお前、本当はビビりなんだな」
「カラカラカラ…そ、そうなんデス〜村人達を攫ったのも、"ある魔女"に指示されたから仕方なくやっただけで、本当は家でひっそり骨仲間とボドゲをやるのが趣味なんデスッ!」
その口調には、もはやかつての王の気配は微塵もなかった。
威厳も誇りも失われ、ただの一体のスケルトンに過ぎなかった。
そして、魔力核を失ったその身体は、音を立てながら徐々に崩れ始める。
「ちょ、ちょっと待て!その"ある魔女"とは、誰のことだ?」
「それは、いずれ分かります。あの魔女は、勇者を――さ…」
ガランッ
あとほんの少し、最後の重要な一言を言い終わる前に、骸の王はただの骨山へと化したのだった。
「ステル〜!!」
戦いが終わったところで、二人がステルへ駆け寄っていく。
「やったわね!やっぱりアンタは勇者よ!これで、断捨離スキルも復活ねって…あれ?そういえばステル、さっき氷を断捨離したって…」
「ああ、それは色々あってな…落ち着いたら話すよ」
「ひとまずは一件落着と言いたいところだが、パコ達にはまだやることがあるぞっ。早く村人達を助けねばっ!」
「ああ、そうだったな!」
「私達、これで英雄になれるんじゃない?あ〜早くスコット村に帰っておもてなしされたいわ〜ん」
と、調子のいいことを言うミカに、俺とパコは思わず吹き出した。
ああ、二人とも無事で本当によかった。
仲間ってのは案外悪くないもんだな。
そうしみじみ思いながら、俺は心の中で二人に感謝を告げる。
そして捕らわれた村人たちを救い出すため、三人で四階へと駆け出した――。




