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第百話『幕開け』

ロアの開会宣言が鳴り響き、場内の熱気は再び火を吹いた。

そしてロアがゆっくりと壇上を降段し終えると、中央の魔法陣が淡い光を灯し始めた。

次の瞬間、ぼわぁっと空中に巨大なスクリーンのようなものが現れ、文字群が浮かび上がる。

 

魔法祭といっても、かつてのように魔術師同士が真正面から決闘(デュエル)を行い、力のみで雌雄を決した時代は過去の話。

現代のゾディアークは、学院としての教育的側面を踏まえ、“魔術のあらゆる側面を競技として昇華する場”へと姿を変えている。

 

なお、今年は例年にも増して情報統制が徹底されているらしく、その日になるまで競技内容は教師陣ですら知らされていなかった。

無論、第四宮の教師であるバサラも例外ではないのだが……。


「……グー……グー……」


(いつまで寝てんのよこの人……!っていうかもはや爆睡してないっ!?)

ミカは、立ったまま器用に居眠りを続けるバサラを横目でにらみつけると、盛大にため息をついた。


そんな騒がしさをよそに、話は本題へと戻る。

映し出されたのは――二日間に渡って開催される“全五種目”の競技概要についてだった。

以下に、その簡素な概要を記す。

 

第一種目―― 星幽玉入れ(アストラル・スロー)

頭上に浮かぶ“巨大なバスケット”に、それぞれの七宮が各々の星幽玉(アストラル)と呼ばれる球体を投げ入れる。

この球体はきわめて特殊な性質を持ち、付与された属性によって

軌道・速度・分裂挙動・跳躍反応などが大きく異なる。

制限時間内に最も多くの星幽玉(アストラル)を入れた七宮から順に、ポイントが与えられるシンプルな種目ともいえる。


続いて第二種目――神速解答(クイック・オラクル)

いわゆる魔法学版の"早押しクイズ"のようなもの。

中央に学院が有する巨大な魔導書(イデアルの私物らしい)が浮かび、内部に蓄積された膨大な情報量の中から"問"を出題される。

出題範囲は魔法理論の基礎から、魔法構文、結界応用、歴史魔法学など多岐に渡り、純粋な知力勝負においては、第二宮(メルクリウス)が毎年ぶっちぎりでトップ争いを独占しているらしい。


続いて、一日目の最後を締めくくるのがこちら。

第三種目――転移・借物競走(テレポート・ラン)

提示された"借り物(条件付き)"を 転移魔法で転移させる速さと精度を競う競技。

転移元は学院内であればどこでも可能だが、問題によっては物ではない"別のナニカ"を求められることも……。


第四種目――創造錬成(クリエイト・クラフト)

制限時間内に、テーマに沿った"魔導作品"を制作する。

素材は各七宮毎に決められた数が用意(植物、鉱石、魔力結晶など)されており、完成品は 機能性・美しさ・魔力(マナ)効率などの総合力で採点されるらしい。

過去には実際に特許を取得し製品化された魔導具も存在するのだとか。


そして、長きに渡る二日間を締めくくるに相応しい最後の競技。

それが第五種目――"三位一体(トリニティ)リレー" である。


最終種目として定着したこの競技は、今や魔法祭の名物競技。

第一走者から第三走者まで 魔棒(バトン) を繋ぎ、最も早くゴールへと到達したグループに、最大ポイントが与えられる仕組みだ。

だが、ただの徒競走と侮るなかれ。

走者達には、魔法を用いた妨害・補助・攻撃すべてが許可されている。

地形操作、幻術妨害、結界突破、瞬間加速……とにかくなんでもござれの大混戦は必死。


ゆえに――ここでは純粋な走力よりも、魔術師としての"総合力"と"連携力"が何より問われる種目となっている。

勝敗が最後の最後まで読み切れない死闘となるのが、このリレーの醍醐味なのだとか。


「全部で五種目……四宮(ウチ)は模擬戦ばっかりだったから、てっきり決闘(デュエル)形式のものだと思ってたわ」


種目一覧に目を丸くしながら、ミカは不安と期待の入り混じった声を漏らした。

その呟きに反応したのか、背後からヌルッと気配が近づいてくる。


「ハァハァ……ご安心なされ、(いと)しのミカ姫…♡」

ミカが振り返るとそこには、荒い息遣いで立ちつくす 珍牛(ちんぎゅう) の姿があった。

その距離まさに目と鼻の先。


「って、近ーーいっ!!」

叫ぶより先に手が動いた。

ほぼ条件反射の勢いで、ミカのビンタが珍牛の頬へと炸裂する。

 

「ゴホビィーーーッ!!」

炸裂したビンタの衝撃で、珍牛の球体のように肥えた身体はクルクルと回転しながら派手に宙を舞う。


ドガァァァン!!

そしてそのまま豪快な音と共に、地面に頭から落下した。


「イツツツツ……本日も、姫のコンディションは絶好調のようですなぁ。小生(しょうせい)も安心でござる……♡」


珍牛が自らの真っ赤に腫れた頬を擦りながら、うっとりとした声を漏らしていると、先程の衝撃音に反応したのか、ようやくバサラが目を覚ました。


「おっと寝過ぎた、スカーレット。

ロア(アイツ)の無駄話は終わったのか」

まるでさっきまで起きていたかのような、寝起きとは思えない自然さで会話に入ってくる。

 

「は、はい!丁度今は、各種目の説明を受けてるところです」


「どれどれ――」

映し出された競技一覧をざっと一瞥し、バサラは盛大に舌打ちした。


「チッ……なんだあのクソみてぇな種目は。

四宮(ウチ)にとって不利なモンばっかじゃねぇか…あの野郎」

バサラは寝起きの悪さも相舞って、いつになく鋭い目つきで一宮(ルナ)の方向を睨みつける。


「ケッまぁいい。アイツがその気なら、こっちもやることやってやろうじゃねぇか……」

そう言って、バサラは悪魔のように不敵な笑みを浮かべながら、バキバキバキッ……!!と両拳の骨を鳴らす。


(ええ!?なんで教師のこの人が一番(たぎ)ってんのよ……!?)

溢れ出る殺気のオーラを前に、ミカは思わず後ずさりした。


「――それでは早速ですが、第一種目を始めます。

本種目は全員参加の競技となりますので、生徒の皆さんは中央にお集まりください」


進行役の声が会場に響き渡る。

遂に――七宮対抗魔法祭が幕を開けるのだ。

バサラは肩をぐるりと回し、いつも通りの無造作な仕草で一言だけ放つ。

 

「いくぞ、オメェら」

その一言だけで、四宮(ソル)の生徒たちの背筋はピンと伸び、

会場の温度がさらに一段上がる。


(ステルもきっと今頃、魔物の群勢と熾烈な争いを続けているはず。私たちも頑張らなきゃ…!)


生徒たちはそれぞれの覚悟を携え、ゆっくり中央へと歩みを進めた。

すべては、ここから始まる。

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