表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/45

第一話『山育ち、異世界に転生する』

「勇者ステル!どうか、この世界を悪しき魔界の軍勢から救ってくれッ!!」


なんなんだここは……!


俺の名前は立町 静照(たてまち すてる)

年齢は今年で29歳。

いわゆるアラサーというやつだ。

職業は無職。(つい先程までは)

そんな俺は今、大勢の群衆に囲まれながら、王様?と名乗る髭面の男から、勇者としてこの世界を救ってほしいと懇願されている。


はぁ……

一体、なぜこんなことになったかって?

簡単に説明しよう。


ここに来る少し前の話だ。

俺の住んでいた地域は、この広い日本の中でもとびっきりのド田舎だった。

辺りは雄大な大自然に囲まれ――といえば聞こえはいいが。

実際の所、どれだけ遠くを見渡しても見えるのは山、海、畑。

交通機関は一日に数本のバスと市電がかろうじてある程度、娯楽施設などもってのほかだ。


そんな田舎町の中でも、俺はさらに人の寄り付かない山奥で暮らしていた。

母は俺を産んで早くに離婚し、父親はそのまま蒸発。

俺が六歳の頃に、母は病に倒れ亡くなった。

それからは、残された祖母と二人で暮らしている。


静照(すてる)。ええか、信じられるのは己のみじゃ!ワシがおっ()んだ後も、オマエが一人で生きていけるように、ワシの全てを教えちゃる!」


祖母は、ここら辺では名の知れた猟師だった。

それも定住地は持たず、山で暮らし山に生きる、正真正銘の無住居者。

現代風にいうならただのホームレスだが。

そんな祖母の噂は少しずつ村に広がり、つけられた異名は"サバイバ(バア)"

そんな祖母のお陰?もあって、俺は物心着いてすぐに様々な生きる術を教わった。

基礎的なサバイバル戦術は勿論のこと、果ては熊狩りのノウハウまでetc...

そんなある日の会話だ。

「婆ちゃんは、なんで(ココ)で暮らしちょるん?山を降りれば人が沢山いて、美味いもんも沢山……色んな世界が広がってるって母ちゃんが言ってた」


「昔な、ここで大きな山火事があったんじゃ。それはそれは酷いもんじゃった。命だけは助かったが、それ以外はなーーんにも残らんかった。その時気付いたんじゃよ、信じられるのは己の体一つのみ。

どんなに大切な物であっても、"形あるものはいずれ朽ちる"」


婆ちゃんは、少し寂しそうにそう言った。


「だから、静照(すてる)。お前は(よこしま)な物欲に囚われてはいかん!本当に大事なモノだけを大切にするんじゃ」


「…わかった。でも婆ちゃんは?婆ちゃんの大切なモノって…」


「それは、愛する我が孫。お前(静照)じゃよ――」


それから二十年後――。

俺は大都会、"東京"にいた。

なんでかって?

それはまた今度、機会があれば話そうと思う。

とにもかくにも、俺は不運に見舞われ命を落とすことになる。


そして次に目を覚ました時には。

異世界に転生していたってわけだ。


「こ、国王様!遂に…やっと……我が国も、勇者の召喚に成功しましたっ!」

と、魔術師の様な装束を身に(まと)った、赤髪の女性がそう言う。


「よくやった!褒めて遣わす。これで魔界の軍勢にも対抗できる…」


国王……? 勇者……? 魔界の軍勢……?

一体何を言ってるんだこの大人達は。

何かの演劇でも見せられているのか?


「勇者よ」

……

「おい、そこの勇者よ」

……

「おい、聞いておるのか勇者よ」


…まだ言ってるよ。誰かセリフでも飛ばしたのか?


「だぁーーーーー!"お前"じゃよっ!オ•マ•エ!そのボッサボサの頭で怠そうに突っ立ってるそこのオ•マ•エ!」


「え、俺……?」

俺はあっけらかんとした表情で、一応自分を指差した。


「気付くのが遅いわ!お前、名は何という」

王様役の男の額には、今にも破裂しそうなほどに、血管が浮かび上がっていた。


「俺の名前は、立町 静照(たてまち すてる)


「タチマチ•ステル…?ここでは聞かん、変な名前じゃな。

まあよい……それでは勇者ステル!突然じゃが、お前にはこれからこの国、いやこの"ユーディリア大陸"を救ってもらう!」


「断る。怪しい勧誘に興味はない」


ズコーーーッ

まるで準備していたかの様に、周囲の人間が揃ってコケた仕草をとる。

この劇団は、こんなアドリブにも対応できるのか。

ユデタマゴ大陸だか何だか知らないが、生憎俺に演技の趣味はない。

残念ながらお断りだ。


「ンン゛…まぁ、いきなり言われて信じないのも無理はない。どれ、ミカよ。勇者ステルに"アレ"を見せてやってくれ」


「畏まりました。ソレッ!」

女魔術師は掛け声と共に、自らの持つ杖を振るったその瞬間。


ボォォオオオォオォオオ〜!!


巨大な火球が出現し、辺り一体を照らした。


「お、凄いな。大道芸も出来るのかこの劇団は」


「何か勘違いしておる様じゃが……まぁよい、時は一刻を争う。

勇者ステルよ、主には手始めに、このダラス王国の近郊に住み着いた、悪しきゴブリン達を退治してもらう」


「ゴブリン?なんだそれは、食えるのか」


「食えんわい!知らんけどっ!

コホン…まぁ安心せい。

旅立つ者に選別の一つや二つは用意しておる。"グラム伯爵"、例のものを」


「ハッ!」

王様役の呼び声と共に、重厚な鎧を身に(まと)った二メートル近い大男が現れた。

それにしても凝ってるなこの衣装。


「こちらは、先代の勇者様がかつて世界を救った時に身に付けていたとされる、"オリハルコンの鎧"にございます」


おお、何だか分からんが凄そうだ。


「それと、こちらがかつて魔王を討ち取ったとされる、伝説の勇者の剣、"聖剣•エクスキャリバーン"でございます。どうぞ、お納めください」


俺が答える間もなく、その聖剣と鎧は、瞬く間に自らの身体へと(まと)われていた。


「凄いな、どうやってやったんだ…?」


「旅の準備は整った!この世界を救う為、行ってくるのじゃ!往け、勇者ステルよ――!」


こうして、俺の物語は始まりを迎える。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ