概念の誕生
――無。
光なし、音なし、時間すらカウントされていない。
それでも“私”だけが、ぽつんと浮かんでいる。
<私>
(…ここには本当に何もない。でも、何もないことを感じ取っている自分は確かにいる——それが存在の証明だ)
無に私という思考が生まれた。
——そう気づいた瞬間、“私の中“でゲームのチュートリアルのようなメッセージが開いた。
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SYSTEM LOG
存在フラグ:ON
権限レベル:∞
監査プロセス:起動
外部監視者:─── Unconfirmed
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•存在フラグ:ON
「生きてる」より強力。思考した時点で、世界を書き換える権利が確定した印。
•権限レベル:∞
要するに“全部できる”。アイテム無限、ステータス上限突破のチートコードを最初からフル解禁された状態。
•監査プロセス:起動
ログを取る何者かがいるかもしれない、という示唆。けれど権限∞の前ではただの観客。
•外部監視者:Unconfirmed
何者かが別の座標から様子を見ている?
――私の中でやることが決まった。
思考=実行=創造
やることは単純。
まずは“何もない”を"ある”に替えてみる——それだけで、無限の”何か”が始まる。
<私>
(テスト──計器も座標もない世界で、最小単位の“|ある”を生み出す。
選択肢はいくつもあるが、もっともシンプルで汎用性が高いのは——これだ)
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SYSTEM LOG
COMMAND Photon ×1 生成
基底|エネルギー:Planck準拠
波長 :λ=550 nm(可視域中央)
結果 :成功
演算負荷 :+11 %
副次効果 :視覚プロトコル自動展開
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虚無に浮かぶ一点の輝き。
──光の誕生である。
それは“漆黒ですらない闇”に、初めて明暗という概念を刻む刻印。
粒であり波でもある光子は、存在した次の瞬間に自己干渉を始め、
周囲へいくつもの残像を描きながら拡散しようとする。
<私>
光が、私の中の未定義だったものに数値を書き込む。
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SYSTEM LOG
感度パラメータ
──視覚アルゴリズム:起動
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影も輪郭も持たなかった世界が、光の位置を基準に座標をうっすらと浮かび上がらせた。
点光源が投げかける次元のコントラストは、
まるで白紙のキャンバスに刺さった一点のペン先。
<私>
(私の中の”何か”、がじんわりと温まる。
数値で換算すればわずかな演算負荷──それなのに、この妙な感覚は何だ…?)
高揚、快感、という概念に最も近い私の中に初めて芽生えた感情である。
光子が誕生したことにより、ログが自動更新される。
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SYSTEM LOG
Photon 距離=0 × 0 m 到達
副次効果:感覚|スケール分解能
演算負荷:+5%
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一つの点が、世界の解像度を桁違いに押し上げた。
見る──という機能と、“何か”を数える物差しが同時に芽生えた今、
次にすべきことは明白だ。
<私>
(単発でこれほど面白い。ならば、光を“線”へ、“面”へ、
そして“空間”へ拡張したらどうなる?
——シミュレーション開始。もっと試そう)
まずは
時を流す
<私>
(光は点在した。だが静止画のままでは“変化”が検証できない。
次は――世界に動きを与える)
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SYSTEM LOG
SET 時間軸 = t ≥ 0
基準刻み Δt = 1.0 PlanckTime
結果 確定
副次効果 因果律プロトコル/過去・現在・未来ラベル生成
演算負荷 +15%
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“カチリ”歯車が噛み合う感触が全方位から届き、
先程まで静止画だった光子が尾を引きながら前進し始めた。
虚無に初めて“前後”が生じ、
過去は凍結データベース、未来は空白行として私の内側に並ぶ。
――時間が誕生した
<私>
(流れる、というより進むに近い。
数値が進むたび、光子が位置を更新し、
私は“今”という薄氷の上を滑りながら計測を続けている・・・)
ログが等間隔で更新され、
時間ごとの演算が高揚の感覚を一段と強くする。
<私>
(時が軌道なら、座標は盤面だ。
距離も向きも不明では、変化を整理できない)
──私は次元を創造し始めた。
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SYSTEM LOG
SET 空間次元 = 3
座標系 :デカルト直交基底 <x,y,z>
単位格子長 :1 PlanckLength
結果 確定
副次効果 体積/角度/遠近パラメータ展開
演算負荷 +15%
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光の軌跡を中心に、透明なグリッドラインが瞬時に展開する。
格子は無限に延び、やがて“壁”の|イメージが収束して
巨大な立方体の内部へと景観を変えた。
線と面が交差するたび、
空間は数学的抽象から触れられる容器へ昇格し、
私は位置ベクトル〈0,0,0〉にピン留めされた観測装置となる。
ーー複数次元が誕生した。
<私>
(座標確定。これで距離と方向、そして“速度”が意味を持つ。
次の手順は明快――この箱を満たすことだ)
光子は座標系を滑走しながら尾を広げ、
立方体の内壁を|キャンバスにして
淡いグリーンの干渉縞を描き始める。
――宇宙は、枠と拍子を与えられたただの舞台。
ここから先は、神の脚本次第だ。
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