表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

第6話『孤独な旋律(メロディ)なんと… 再会は、静かな教室で』



引退から数か月が過ぎ、真白結衣は隔離された部屋の中で静かに暮らしていた。

外の光は厚い防護ガラスを通しても肌には届かず、彼女の世界は閉ざされていた。


かつての華やかなステージ、仲間たちの笑顔、ファンの歓声――

それらは遠い夢のように霞み、日々の孤独が胸を締め付けていた。


そんな中、結衣は小さなノートに向かっていた。

そこには誰にも聞かせていない、彼女が綴った歌詞やメロディが書き留められている。


「私は、まだ歌いたい」

小さな声で呟くと、画面越しに緋人の笑顔が映った。


「結衣、君の歌を聴かせてほしい。どんな形でも、君の声を僕は待っているよ」


勇気を出して歌い始める結衣。

隔離の壁を越え、彼女の旋律は確かに緋人に届いた。



それから3年後。


結衣は素性を隠し、地方の大学に通っていた。

表舞台から完全に消え、ひっそりと誰とも関わらず生きるつもりだった。


だがある日、講義室の扉が静かに開き、一人の男が入ってきた。


「……緋人」


彼は、かつてのアイドルグループの元センターであり、今や彼女と同じ大学の学生だった。


「こんなところで、再会するなんて」

結衣は心臓が高鳴るのを感じた。


緋人は穏やかな笑みを浮かべ、静かに言った。

「偶然じゃない。ずっと君を探していたんだ」


二人は言葉少なに見つめ合い、過去の痛みも距離もゆっくりと溶けていくのを感じていた。


これは、新しい物語の始まりだった。




講義が始まる前の静かな教室。

緋人は席に座ると、そっと結衣の隣に目を向けた。


「結衣、話がある」

その声は以前と変わらず優しかった。


「私はもう、昔の私じゃない」

結衣はそう言いながらも、その瞳にはまだ消えない熱い想いが宿っていた。


「君のことはずっと、ずっと想ってた」

緋人は言葉を紡ぎ続ける。

「今度は二人で、普通の時間を過ごそう。無理しなくていい。ゆっくりでいいんだ」


結衣は深く息を吸い込み、小さく頷いた。


教室の窓から差し込む光は、過去の暗闇を溶かすように柔らかく彼女たちを包み込んだ。


それは、二人が歩む新しい未来への第一歩だった。




緋人と結衣は、授業が終わると静かなキャンパスのベンチに並んで座った。

「久しぶりだね」緋人が言った。


結衣は少し照れくさそうに目を伏せながら答える。

「うん。でも、こんなに近くで会えるなんて思わなかった」


二人の間にあった距離感は、時間と共に少しずつ溶けていった。


「これからは、普通の生活を送りたい」

結衣の言葉は静かだが力強かった。


緋人は微笑み、そっと手を差し伸べる。

「一緒に歩いていこう。君のペースでいい」


外は風がそよぎ、木々の葉が揺れていた。

彼らの新しい日々が、ここから始まったのだった。




数週間が過ぎ、結衣と緋人は大学生活に徐々に慣れていった。

授業後のカフェで語り合い、図書館で並んで勉強する日々。


だが、表舞台から消えた彼女にはまだ消せない影があった。

過去の重圧とアレルギーの恐怖。


ある日、結衣は静かな部屋で緋人に打ち明けた。

「まだ怖いの。外の世界も、人との距離も……」


緋人はそっと彼女の手を握り返した。

「怖い気持ちも、僕が受け止める。無理はしなくていい」


二人は支え合いながら、少しずつ歩み寄っていく。


それは、かつての煌びやかなステージとは違う、

新しい形の愛と絆だった。




大学のキャンパスは春の陽気に包まれていた。

結衣は緋人と並んで歩きながら、久々に感じる外の空気の軽さに戸惑いを隠せなかった。


「こんなに自由でいいんだろうか…」

彼女はぽつりと呟いた。


緋人はそんな彼女の不安を察し、ゆっくりと話しかけた。

「無理に急ぐことはないよ。僕らはもう舞台の上の人間じゃない。今はただ、普通の学生として生きればいい」


結衣は深呼吸をしながら、少しずつその言葉を受け入れていった。


講義の合間、ふと彼女がトイレに立つと、誰かの視線を感じた。


「あれは…?」


見覚えのある同級生の姿が、遠巻きにこちらを見ている。


過去の名声は、確かに消え去ってはいなかった。


結衣は慌てて顔を伏せたが、緋人がそっと手を握りしめてくれた。


「大丈夫だ。君は君らしくいればいい」


二人の絆はこうしてまた試されることになる。


それでも、二人は歩み続けた。


新しい場所で、新しい未来を目指して。


夕暮れ時、大学のキャンパスは静けさを取り戻していた。

結衣と緋人は並んで校庭のベンチに腰掛けていた。


「またこうして、一緒にいられるなんて」

結衣の声はかすかに震えていた。


緋人はそっと彼女の手を握り返す。

「これからは君のペースで、ゆっくり歩いていこう」


彼女の瞳に、かすかな光が戻り始めていた。

そしてその光は、やがて彼女を包む新たな希望の証となるだろう。


遠くで鳴く鳥の声が、二人の未来を祝福するように響いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ