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第5話『ラストライブ(独りきりのセンター) ~ ラストアレルゲン ~ 』



世間が見守る中、真白結衣は最後のステージに立っていた。

かつて華やかなグループのセンターとして輝いていた彼女は、今や「独りきりのセンター」と呼ばれていた。

理由は、長引く病により、仲間たちが次々と卒業や休業を選び、結衣だけがステージに残されたからだ。


舞台袖で彼女は深く息を吸い込み、いつものように手をアルコールで消毒した。

全身に張り巡らされた警告が彼女の体に伝わる。

アレルゲン200――最も過敏に反応する未知のアレルゲンが、今まさに暴走し始めていた。


スポットライトが結衣を照らし、歓声が耳を突き抜ける。

彼女は最後の力を振り絞り、声を震わせながら歌い出した。

しかし中盤、激しい咳と胸の痛みが彼女を襲う。

体が言うことを聞かず、ステージ中央で膝をついた。


「ごめんなさい、最後まで――」

そう言いかけて、結衣は震える声を止めた。

なぜならファンの「結衣! 結衣!」という応援の叫びが、彼女に生きる意味を与えたからだ。


必死に立ち上がり、最後の一曲を歌いきる。

歓声は涙を伴い、彼女の名を何度も呼び続けた。


ステージを降りると、緋人が駆け寄った。

「もう無理はするな」と優しく抱きしめるが、結衣は弱々しく微笑む。


「ありがとう……緋人くん。私の夢は、ここで終わるけど……」


その後、医師から「これ以上の活動は命の危険を伴う」と宣告された。

公には「体調不良による引退」と発表されたが、真実は極秘にされた。


引退後、結衣と緋人は外界と遮断された隔離生活を送った。

彼女の健康管理は厳重で、ふたりの間に物理的な接触は許されなかった。

電子機器越しの会話と視線だけが、彼女たちの繋がりだった。


孤独と戦いながら、結衣は心の中で夢を見ていた。

「いつか――触れられる日が来る」


緋人もまた、最新の医療技術に望みを託し、彼女のために戦い続ける。


これは、誰にも真似できない「愛」と「戦い」の物語の、一つの終わりの章である。



引退を迎えた結衣は、まるで別世界にいるかのような静寂の中で暮らしていた。

外の光は、窓の厚い防護ガラスを通しても、彼女の肌に届くことはない。


緋人がそっと画面越しに笑いかける。

「今日も、君の好きな音楽を流してるよ」


彼の声が唯一の救いだった。

だが、物理的な距離があることのもどかしさは消えない。

触れられない、抱きしめられない――それが何よりも辛かった。


毎日繰り返されるのは、厳しい検査と管理。

一瞬でも環境が変われば、彼女の体は拒絶反応を起こす。

医療スタッフは細心の注意を払い、彼女を守る。


しかし、結衣の心は徐々に閉ざされていった。

「私の存在は、もう誰かのために役に立つのだろうか」


そんな疑問が彼女の胸を締め付ける。


そんな時、緋人が言った。

「君の笑顔は、僕にとって最高の宝物だ。君が生きている限り、僕は諦めない」


その言葉に結衣は涙を流す。

たとえ触れ合えなくても、愛が彼女の心を温めていた。


そして、彼らは約束した。

「いつか、普通に会って、普通に触れ合える日を必ず迎えよう」


その日まで、彼女は歌い続ける。

声は届かなくても、心は誰よりも強く響いている。


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