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File 7 : ガイア 4


 特殊捜査研究所では慌ただしい時間が過ぎていた。副総監が倒れた時からずっとだ。


 情報解析チームには詳しい状況は知らされていなかったが、フル回転で仕事に励んでいた。仕事の内容は警察関係者、政財界、司法関係…のあらゆる通信データを傍受して、 'パヤ毒' という単語を使う者を割り出す事だった。しかし、とにかく対象者が多かった。


 鈴木は新しく依頼された米粒大の盗聴機能付き小型カメラの開発に没頭している。'インネル' 担当の田代純子は鈴木の横で小型カメラの機能のチェックに余念がない。


 副総監がひっそりと研究所に運ばれて来た頃には、研究所内に 'どよ〜ん' とした空気が充満しているのを久我山は感じた。


(これはまずいな…。何とかせねば!)


 医務室にいる副総監はテレビなど見て休養に励んでいるのだが、その何とも呑気な顔を見て、久我山は思いついた。


(そうだ。副総監に差し入れを頼もう。いないはずの副総監からっていうのはできないから…。俺からっていう事で…)


 自分も食べるのだから、副総監だって嬉しいに決まってる。


「いいよいいよ。皆で美味しいものを食べようじゃないか!」


 副総監は軽く言って了承した。


(本当ですね?)


 久我山は心の中で副総監に問い掛けつつ、容赦なくオーダーしまくった。


 某有名店の特上鰻弁当、超絶美味しい焼肉弁当、なかなか手に入らないロールケーキ、目玉が飛び出るほど高級なフルーツ盛り合わせ…ついでに、いつだったか山城正人の家で飲んだのと同じと思われる最高級の珈琲豆もオーダーした。


 皆が久我山に感謝して、笑顔まで出てきた。作業もどんどん捗っていく。きっと後から領収書を見て副総監は目玉が飛び出るに違いない。


(まあ、当然これくらいは許されるだろ?)




 そんな事をしながら副総監が目覚めて3日目。忙しくも美味しい日々が過ぎる中、突然、裏方に徹しているはずの伊藤香苗から久我山に連絡が入った。


「ワシントンD.C.の正人さんから連絡が来ました。Dr. Gaia Stronghold が意識不明なのだそうです。正人さんは緊急でDr. Gaia Stronghold を伴って帰国する事になりました。'インネル' を使っての捜査を依頼します。

 久我山さん、お願い!山城大地から全てを聞き出して!」


「なんだって?何が起きた?」


「わからない…わからないんです!」


「了解だ。いつでも受け入れできる様にしておく。香苗さんは焦った行動をするなよ」


 はい、と香苗がいつになくしおらしい声で返事をして連絡は切れた。





 翌日、滅多に使わない屋上のヘリポートに、爆音を轟かせてドクターヘリが到着した。


 爆音を聞きながら、久我山は山城正人の事を考えていた。


(山城正人はここまでして、一体何を知りたいんだ?)


 久我山はストレッチャーに乗せられた Dr. Gaia Stronghold を見たが、顔面蒼白な男はもうあまり長くはないと、素人の久我山でも分かった。


 医務官の野沢に引き渡された男は、医務室へと運び込まれ、その後を山城正人が付いて歩く。正人の顔も蒼白になっている。

 

 正人は久我山に軽く会釈をしただけで、何も言わなかったし、久我山も声をかけなかった。それほどただならぬ状況だった。


 男が運び込まれた特殊捜査研究所の医務室は、文字通り医療を通しての犯罪対策と捜査について研究しており、医師、看護師を始めとしたスタッフ、そして検査、診療、治療と全ての設備において日本最高レベルを誇っている。


  そんな医務室に Dr. Gaia Stronghold が運び込まれて5分後、主任医務官である野沢は医務室から出て来て、怪訝な顔で久我山と正人の顔を見た。


「…んっとですね…。

 Dr. Gaia Stronghold はあの方で間違いないのですよね?」


 正人はちょっとムッとした顔をしながら頷いた。


「まちがいないです!」


 ふむと顎に手をやった野沢は言葉を選んで、正人を見た。


「聞いていたのとは違う方かと思いまして…。実は、運び込まれた方は男性ではないです。肉体も、多分DNAも女性ですよ」


「………えっ?」


 山城正人はフリーズして動けなくなった。


「久我山さん、捜査をするなら急いだほうがいい。余り残された時間はないようです」


 久我山は頷いて、立ち尽くす正人の手を無理矢理引っ張り取調室へと移動した。


 Dr. Gaia Stronghold は竹下と石川の手で既にベッドに拘束されていた。


 ほっそりとした男ではあった。見た目では何歳なのかよく分からないが、きれいな顔立ちであった。しかし、主任医務官の野沢が女性だと言うのだから目の前にいる人物は女性なのだろう…。


 監視室に移った久我山と正人はガラスの向こうで浅い呼吸を繰り返す Dr. Gaia Stronghold と呼ばれる人をじっと見つめた。


 やがて取調室の光が落とされてモニタが鈍く光り始め、ブーンという不気味な音と共に感情のないデジタル音声が響いてきた。


 バイタル微弱。

 取調べを開始してもよろしいでしょうか?


「インネル、開始してくれ」


 久我山がそう言うと鈍く光っていたモニタが複雑な波形を描き出した。







     ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢






 誰かそこにいるのだろう?


 日本の警察なのだな?


 私の痕跡は全て消し去られたと思っていた。もう何十年も日本には帰っていないのにな。


 山城正人がやっている事なのか?


 誰か、私の問いに答えなさい。


「私は久我山警視正です。そして山城正人警視正も側にいます。

 あなたは Dr. Gaia Strongholdですね?」


 そうだが?


「本当の名前、いえ、日本名は何とおっしゃいますか?」


 日本の名前?山城ガイアだ。大地と書く。


「これから、あなたと国際指名手配犯だった山城風子及びその協力者との関わりについて取り調べを開始します。

 脳の海馬に働きかけ、あなたの記憶、脳内トークから事実のみを証拠として捜査に使います。

 よろしいですか?」



 …始めてくれ


 私はこの日を待っていたんだ。私と山城大河、山城風子の事を誰かに話す日を…。


 

 山城ガイアが落ち着いたのを確認して、久我山は 'インネル' の捜査を開始した。


 'インネル' のモニタにゆっくりと映像が映し出された。


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