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File 2 : 横山薫 3



 それからテルくんはよく美琴に会いに我が家に来るようになった。仕事じゃなく…ね。


 最初はちょっと顔を見にくるだけだったテルくんはだんだんと長く我が家にいるようになり、その内ここで食事をするようになった。


 美琴は料理が苦手だから作ってたのは私。テルくんが仕事で持ってくる宅配サービスの冷凍物をチンとして並べるだけだけどね。


 その頃のテルくんはいつも通りの笑顔で、横山さんお邪魔しまぁす、とやって来て晩御飯を食べ、ゴチ!おじゃまでしたあ〜、と帰って行った。


 でも、泊まって帰るようになるまでにさほど時間はかからなかった。


 1週間に1回程お泊まりが、2、3回に増えて、一々帰るのがめんどくさくなったのか、テルくんは我が家に住み着いてしまった。

 

 そうなるんだろうなって思ってたけど、早かったな。


 どういう知り合いなの?と美琴に尋ねると、高校の時の知り合いだよ、とヘラっと笑って美琴は言った。


 

 夜になると2人の声が下の部屋で寝ている私にもよく聞こえた。


 無防備な男と女の会話

 体と体が重なり合う音

 甘い囁きと低い獣の様な叫び

 体が疼くような、その瞬間の静寂


 私が年寄りだからか、2人は何も隠そうとはしなかった。


 舐められたもんだ、本当に!



 そんなある夜、ふと思い立って私はあの盗聴器のスイッチを入れてみたのよ。楽しみの少ない年寄りの暇つぶしにちょうどいいと思ったんだよね。


 だってさ、孫娘のアヘアヘしてる声を聞いたって、別にどうって事ないじゃない?私だって少しは楽しみたいし。


 大体、何十年も前の機械だよ、ちゃんと動くかどうかもわからない。


 そんな軽い気持ちだったんだ。


 ところが、ところが…!

 意外な事に盗聴器はちゃんと音を拾ってくれた。


 まあまあまあ…!なんと!よく聞こえるじゃないの!あの2人は食費だって払ってないんだからいいわよ。

 

 そう思って会話を聴いた。


 テルくんと美琴の夜の睦ごとの会話は、たいして面白くもなかった。私の昔を思い出す程でもない、ガキでしかなかった。


 でもさ、面白かったのはそれ以外の会話だったんだよ。


 穏やかで静かな暮らしをしていた私のスイッチが入ってしまう、そんな面白い会話を2人はしてたんだ。



「ねえ、テル。

 あたし、いつまでこんなバイトしてなきゃなんないんだろ。も、やめたい」


「俺もやめたい。でもなぁ…あそこから抜けらんねぇと思うんだよ」


「でもさ…、なんか手があるんじゃん?」


「うーん…。…わかんねえ」


 テルくんと美琴はあるグループに所属していた。グループの中でテルくんの担当は金を持っている年寄りを見つける事。だから宅配サービスの会社に潜り込み、年寄りに愛想良くしていたと分かった。


 美琴は同じグループにいて、大金を持ってるパパを見つけては金を巻き上げ、その金をグループに渡していた。


 そんな2人がわたしのこの家に住み着いていて、グループから抜ける算段を立てていたんだ。


 おお、なんて恐ろしい事!


 

 

 それからしばらくしたある日、テルくんが美琴に支えられて帰って来た。お腹を押さえ顔を紫色に腫らし、足を引き摺っているのを見れば、何が起きたのかはすぐ分かった。


「おばあちゃん。

 テルが喧嘩に巻き込まれちゃったの。横になっていればよくなると思うから心配しないでね」


 ふーん。

 喧嘩に巻き込まれた…って?笑えるね。

 グループの奴等にボコボコにされたんじゃないか!おバカだからグループを抜けたいとかストレートに言ったんでしょ?


 まあ、可哀想だからそんなこと言えないし、大した傷じゃないって分かったからね。

昔はこれくらいはよくあったし…。


 私は心配してる顔して、美琴に言ったんだよ。


「痛み止めならあるよ。

 口の中も切れてるみたいだね。胃もやられてるかもしれない。だったら、薬はぬるま湯で飲ませてあげるといいよ。

 今日と明日は味噌汁の汁だけ、明後日はコンビニでお粥買ってきてあげてね。

 あと、傷だけはしっかりと消毒しないと酷いことになるよ」


 そう言って薬箱を渡した。


 ありがとう

 すんません


 2人はそんな事を言ってゆっくりと階段を上がって行った。


 

 2日ほど2人とも静かに過ごしていた。


 まあ、あんだけボコられたら大人しくせざるを得ないなぁ。グループからの指示待ちだろう、と私は思ってたんだ。


 でも、違った。


 2日目の夜、2人の会話を聞いて腰が抜けるほど驚いたよ。


「ねぇ、テル…。ばあちゃんを殺るのは、やっぱ、やだよ。やめよ?だってさ、あたしのほんとのばあちゃんだよ?

 あんなに優しいばあちゃんなのに。殺らなくたって金は出させるよ」


「だけど、兄貴たちに言われたじゃん。ばあさんを殺って来いって。そしたら、このでかい家が美琴のもんになって好きにできるから、家を売ればいいって。

 ほんでもって、その金を渡してくれたら抜けさせてやる…。兄貴たちがそう言ってくれたじゃんか!」


 なんと!

 あいつらはこの私を殺して家や金を奪い取ろうとしてやがった!


 普段の暮らしでは虫も殺さない様な可愛い孫と爽やかな彼氏というカップルを演じつつ、金のためにこの私を!


 ふ〜ん。面白いわね。

 私を相手に何かしようなんて、ほんとおバカ。



 もう一つ、面白い事をテルくんは言った。 


「あのSDカードってやつを金に換えた方が早いかもな…」


 若造は口も軽い。


 あのSDカードとはテルくん達の集めた金の流れが分かる口座番号や、取引相手のデータなどの情報が入っているものらしい。


 テルくん自身がそのSDカードの中身をよく理解してないみたいで、詳しいことはわからなかった。


 でも、テルくんがこっそり持っているそのSDカードは、私を殺さなくても済むくらいの値打ちがあるって事らしい。

 

 私は久々に身体中に力が溢れるのを感じた。 


 やってやろうじゃないの。

 そのSDカードを奪い取って、私が上手く活用してあげるさ。

 覚悟するんだね!



 美琴は孫…。可愛いたった1人の孫。

 顔も昔の私に似てる。好きな男に弱い所もそっくり。


 だから余計に許せなかった。


 もっと上手く生きていきなさいよ。こんな事で躓いてどうすんのよ!


 私の孫じゃないか!


 許せない。許さない。

 私は少しづつ準備を始めた。

 誰にもバレないようにね。




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