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処刑された私、知らない魔法が発動した。誰の?私の?  作者: OwlKeyNote
第一章:私のせい? ちょっと待って、この騒動、誰の?私の?

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26.ヘルムート、その続きは今じゃない

 ――届いた。


 木剣の先が、カトリーヌの胸元を――打ち据える。


 衝突音が、遅れて響いた。

 重いものを受け止めた感触が、ヘルムートの腕から背中へ抜けていく。


 その瞬間。


 わずかに距離を置いた空間で、白布が――崩れた。

 灰のように、風にちぎれ、静かに舞い落ちる。


 燃え尽きた火の名残。

 戦いそのものが、形を失っていく。


 


 カトリーヌは、動かない。


 木剣の先端が胸に触れたまま、

 静かに、目を閉じる。


 呼吸ひとつ分の沈黙。


 やがて、ゆっくりと両手が――上がった。


 降伏を示す仕草。

 穏やかな微笑み。


 その奥に、微かな満足が宿っている。


「……ふふ。やっと、届きましたわね」


 試合の終わりを告げる審判のような、柔らかな声。


 ヘルムートは息を切らし、眉をわずかに寄せる。

 木剣を下ろす手に、迷いはなかった。


 


 灰の風が、止まる。


 足元の空気が、沈む。


 咳払い。


 乾いた音が、背後から落ちた。


「……あー。すまん。ちょっとだけ、やりすぎたかもな」


 イグナーツだった。


 炎の中から立ち上がる。

 焦げた衣、血の跡、蒼光の残滓。


「イグナーツ様……」


 カトリーヌが歩み寄り、深く頭を下げる。


「本来、あそこまで行くつもりはございませんでした。

……失礼を」


 軽口はない。

 謝罪だけが、そこにあった。


 イグナーツは小さく咳払いをひとつ。

 笑みとも苦悶ともつかない顔で、首を振る。


「……なら、お互い様だ」


 その言葉に、カトリーヌの肩が、わずかに緩む。


 


 静まり返った空気に、声が落ちた。


「……で?」


 皆の視線がイグナーツに集まる中、

 ヘルムートが木剣の先を土に突き立て、口を開く。


「どっちが勝ちです?

あれだけ暴れておいて、ドローってのはナシで頼みますけど」


 言った瞬間、胸の奥で嫌な予感が弾けた。


 カトリーヌが、静かに振り返る。


 首筋から頬へ。

 大樹紋が、ゆっくりと広がっていく。


「……どうも男の子は、私たちと違う感覚をお持ちのようで」


 にこやかな声。

 温度だけが、すっと下がる。


「五つ――いえ。二つ数えるうちに、あなたが倒れていなければ。

……私の負けで、よろしいですか?」


 地の底から滲み出るような、静かな一言。


 ヘルムートの背筋に、冷たい汗が走った。


「……やべ」


 一歩、後ずさる。


 


 その空気を――奪い取る声が、広場に落ちた。


 エレーナ・ベルトラン。


 リボンのついた胸元を押さえていた手が離れ、

 半歩前へ出ると同時に、腕が伸びる。


 細い指先が、一瞬だけ震え、

 次の瞬間、意思の形として静止した。


「……ここからは、誰も前には進めません」

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