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処刑された私、知らない魔法が発動した。誰の?私の?  作者: OwlKeyNote
第一章:私のせい? ちょっと待って、この騒動、誰の?私の?
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16.優雅な勝利を夢見てたんだけど――気づけば、煙と根性の話になっていた

それが失敗だったとしても、

誰かが見ていたなら――その一瞬は、消えずに残る。


“結果”を得ることだけが、意味じゃない。

あの夜の彼らが選んだのは、結果ではなく、“想いの重なり”だった。


大切なものを手放してまで、舞台を準備し、

失うと知っていても、構文に心を重ねた。

――無謀で、未熟で、どこまでも“若さ”に満ちた挑戦。


でも、それでも。

その輪の中に灯った火は、確かに……次へと繋がっている。


私はまだ、その“すべて”を知ることはできない。

けれど――

この世界が巡るたび、誰かが繋いだ火は、また別の誰かの中で、灯る。


……だから私は、静かに見守っている。

あの夜、あの場所で咲いた“未完成の花火”が、

やがて誰かの道を照らす灯りとなることを。


 拍手の余韻が静かに消え、訓練場を夕風が撫でていく。

 三人はしばらく、何も言わずに立ち尽くしていた。


 構文は崩れた。

 失敗は事実だった。

 けれど、それでも“見てくれた人たちがいた”という事実が、確かに背中を支えてくれていた。


「――さて、我らに時間はない」

 芝居じみた声色で、ヴィルヘルムが言った。


「歩き出そう、未来を取り戻すために……なんてな」


 金の髪をかきあげる仕草。

 いつものように、肩に手を添えかけて――ふと、止まる。

 彼の癖だった。けれど、そこに“あれ”はもうない。


 ヴィルヘルムは何も言わず、そのまま手を下ろした。


 マルグリットは、その一瞬の手の動きを見ていた。

 かつてそこには、彼の高価な髪飾りがあった。

 彼の母の最後のものだったはずだ。

 それは、彼が構文資金を準備できた日に、いつの間にか消えていた物。

 今――その場所には、マルグリットが作った小さな銀のブローチが留められている。


 ヴィルヘルムは、まだ触れていない。

 けれど、それでよかった。

 “今”の重みは、彼がよく知ってるはず。


 マルグリットは、一つ息を吐いて、顔を上げた。


「……ねえ、ヴィル。攻勢護符の予備、いくつあったっけ?」


 その声に、ユリウスが肩をすくめる。


「はは、それ聞く? 攻勢護符を買う余裕も、作る時間もないからね。今回の別会場での予選は……ヴィル自身の頑張り次第だよ」


 ヴィルヘルムは胸を張りながら、どこか虚勢まじりに言い放つ。


「安心してくれたまえ。予選なんて場所では、魔術なんて私には不要だよ、楽勝だ……」


 その声に、ユリウスとマルグリットの目が静かに突き刺さる。

 空気が、わずかに冷えた。


「――たぶん、きっと、勝てる。……勝てるよな? な?」


 語尾は、どこか頼りなさげに震えていた。


 その姿に、ユリウスは思わず眉間を押さえる。

(……そうなると思ってたよ)という空気を背中で伝えながら、優しい笑みを浮かべて視線をマルグリットに送る。


 視線が交差した瞬間――マルグリットの目が、ふっと見開かれる。

 何かが“降りてきた”ように、口元に笑みが灯る。


「ふっ、ヴィル君、私に任せなさい」


 マルグリットは芝居がかった声でそう言い、くるくると銀の護符を指先で転がし、いたずらな笑みを浮かべる。


「会場を演出用の煙幕で埋め尽くして、ドローに持ち込み―― 戦術評価点で勝利を奪う!」


「それ、私のイメージが……」

 ヴィルヘルムが肩をすくめて笑う。

「もっとこう、なぁ、ユリウス」

 助けを求めるように目線を送る。


「いや……」

 ユリウスは一拍置いて、ノートを閉じた。

「戦術としては、わりとアリかもしれない。逃げ回って足掻きつつ、最後に“演出”で押す。――芸術枠じゃなくても、見せ方次第では、ポイントを得られるかも」


「え、ほんとに?」

 マルグリットが思わず聞き返す。


「……“それが君たちの在り方だ”って、講師も言ってたしね」


 ユリウスがノートをぱたんと閉じて、ふっと口元をゆるめる。


「……行けるかもね」

 ユリウスのひと言に、マルグリットが護符を指で回しながら頷いた。


「やるなら、派手に。煙と光で、会場ごと持っていくわよ」

 唇に笑みを浮かべながら、マルグリットが続ける。


「お手柔らかにね。僕、打たれ弱いんで」

 ヴィルヘルムが肩をすくめながら、軽口で締めた。


 三人の間に、静かな火が灯る。

 ふざけるようでいて、心はもう、待ちきれずに走り出していた。

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