第七話 合流
「物資は下ろし終わったから、一度村に戻るわ」
確かに周りを見ると、荷下ろし作業は終わったみたいで、皆が休んでいる。
「わかりました。俺たちは、この村を支援の為に残ります」
「あぁ、十分気をつけろよ」
俺はそんな皆に声をかける。
「お疲れさん。休んでるところ悪いが、ひとまず俺が代表ってことでいいか?」
「ああ」「いいんじゃない?」「賛成」
みんながみんな積極的支持ではないが、“他にいないし仕方ない”というの奴もいる空気だが、今はそれで十分だ。
「ありがとう。じゃあ、ライドさん、予定どおり一度村に戻ってください。エンジン回しっぱなしじゃ燃料がもったいないですし」
こんなクソ寒い中、一度エンジンを切ったら再始動で手間を食うからな。全く不便だ。
「わかった。実は後一時間くらいしか待機できんし、ぎりぎりをせめても二時間だ。それ以上待機するとと帰れなくなっちまう」
「ええ。荷下ろしが終わりましたし今すぐ離陸してくれてかまわないです。元から明日にはまた物資をまとめて持ってきてもらう予定ですし、そのときに話の続きをしましょう」
「了解。じゃ、気をつけろよ、カイ。みんなを頼むぞ」
そう言って、俺たちのなかで最年長のライドさんは飛行機に戻った。
「さて……おっと、ハーヴィ村のほうから、またぞろぞろと人が出てきたな」
この滑走路と村の間は、およそ800メートルの空き地があるらしい。事故や駐機スペースの都合だとか。
手を振ると、向こうも振り返してくれる。すると、ソフィアが隣にやってきた。
「どうした?」
「ここも、もとは平和な村だったんだよね……」
ソフィアは俺の幼なじみだ。同じ歳子は村では彼女だけだ。
ふわふわのウシャンカ帽と、ファー付きのコートに黒髪をすっぽり収めているから、前髪以外ほぼ見えないが、相変わらず可愛いと思う。
「そうだな。俺たちの村と大差ないくらいのはずだ」
「……うちの村も、そのうちこんなふうに戦争になるのかな」
ほぼ確実に訪れる未来だと思う、全く世の中嫌な事ばかりだ。
「多分、そう遠くないうちにそうなるだろうな」
「そっか……。カイは、どう思ってるの?」
どう思うか。抽象的だけど、言いたいことはわかる。
「無政府状態ってのは、こういうことなんだろう。俺たちみたいな辺境のちっさな村民じゃ、解決なんてできないあまりにも大きすぎる問題だ。せいぜい荒波に飲まれないよう備えるしかないよ」
ベルギーで五百日も無政府状態が続いたって話はあるけど、あれは平和な欧州の例だ。
この惑星の状況はそうだな...ある種スペイン内戦に近いかもしれない。政府の統制力が崩れて、失業者が増えて、治安が悪化して……という最悪の連鎖。
主義主張で戦うと言うより生きる為に戦う訳だから状況としてはもっと悪いと解釈も出来るし、裏を返せば状況が改善したら沈静化する可能性も見えるだけある意味簡単な、最も基本的な治安悪化と言える。
「カイは昔から物知りで、村の大人よりいろんな事を知ってるしかっこいいよ」
ソフィアが素直にほめてくれるので、帽子ごしに軽く頭をなでる。ウシャンカをなでてるだけだが、気持ちは伝わるだろう。
「ほめても何も出ないさ。俺だって何をすればいいか、はっきりわからないんだ。とりあえず今はここを助けるだけ。大きな混乱を解決するにはほど遠いかもしれないが、それでもやらないよりはマシだからな。小さな秩序を回復して、少しでも人命を救う。今はそれしかない」
悪あがきだろうな、そう自覚している。
ここでしているのはただの外科的治療だ、ただの対処療法に過ぎない。
根本的な治療が必要だな、高血圧の人間に食の改善を進めずに血圧を下げる薬を出すような愚行だろうが……時間稼ぎにはなると思いたい。
「もう、子供扱いして!私の方が少しだけ年上何だよ!」
「悪い悪い」
そう言って、ソフィアから離れ、ハーヴィの人々を迎える。もうすぐ近くまで来ている。
頭の痛くなる問題も棚上げだ。
「人手を集めてきたぞ! これだけいれば、すぐに荷物を運び終わるはずだ!」
ザルツが元気に言う。俺も大声で応える。
「ああ! 助かるよ!」
「じゃあソフィア、休憩終わりだな」
「うん、わかった」
さて……もうひと仕事済ませれば、少しは休めるだろうか。
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ところが、ひと仕事終わっても休みはなかった。次の仕事が待っている。
ほかの仲間は、住人が居なくなった空き家になった家を借りることになった。それで察してほしい。
俺はこの村の“暫定村長”というボスから、現状や敵について話を聞いていた。
その村長代理は、体育会系の口ひげがよく似合うナイスガイ……なんだが、今は寝不足で目つきが怖い。
「敵の総数が100以上って、マジですか?」
さすがに自衛戦力38人+俺たち8人で倍以上の敵と聞くと、思わず聞き返す。
「本気だ。それも少なく見積もって、だぞ」
頭が痛い。嫌な話だ。
「ってことは総攻撃も近いかもしれませんね……」
先の襲撃では銃撃が主体だった。弾薬を惜しまず使っていた形だ。
「どういうことだ?」
この男性の名はボリュシュ・ヴォロノヴァ。さっきのエカチェリーナの兄らしい。
「100人以上となると、1日30万カロリーくらい必要でしょう? それを確保できないから、略奪に走ってるってわけで……」
まるでバッタの蝗害のようだ。
もしくはナポレオンのグランダルメみたいに通った道には引き返せない、何となく補給戦と言う本を思い出す話だ。
「学はないが、言いたいことはわかる。つまり、やつらの食糧が切れたら、飢えをしのぐために生きる為に決死の襲撃をかけてくる可能性が高い、と?」
「そうです。自分なら夜闇に乗じて夜襲しますね。訓練が足りない集団ですから、同士撃ちも起こるでしょうが、昼よりは勝算があるでしょう」
夜襲は困難だが死兵と言うのはとにかく厄介だ、万歳突撃を当方劣勢かつ機関銃など無しで出迎えろと?数に押しつぶされそうだ。
ボリュシュはため息をつく。
「なんてこった。今、防御柵を急いで作ってるけど、守り切れるかどうか……」
「防御柵も役に立つでしょうが、どうなんでしょう。そういえば、この村って家畜は?」
「ああ。カリブーを飼ってるぞ」
トナカイ……なるほどな。
ともかく、要は寒冷地で家畜を飼う環境ならアレがあるはずだ。
「有刺鉄線はありますか? なければ逆茂木だけでも作ったほうがいいです」
まさか、俺のどうでもいい知識がこんなところで役に立つとは。
「有刺鉄線はともかく、逆茂木とは?」
「敵の来る方向に木の枝を突き刺しておくんです。抜かない限り引っかかって前進力を削げるし、突破しようにも動きが鈍る」
「理屈はわかった。ただ人手がな……」
「この際、防御柵は諦め気味でいいかと。逆茂木や有刺鉄線で、まずは敵の突撃を阻止するのが最優先です。白兵戦に持ち込まれたら確実に負ける。逆に遠距離戦なら勝てる確率が高い」
敵が機関銃を持っていたら終わりだけど、その話をすると士気に関わるから伏せておこう。
それに分持ってないだろうしな。
「白兵戦を避けたいのは同意だ。こっちには婦女子も交ざってるし、数でも劣る。せめて遮蔽物でもあればいいんだが……」
「銃って言うのは知っていると思いますが、思ったより当たらないですよ。寒い中、伏せ撃ちさせれば、なんとかなるはず。逆茂木の間に間隙を作っておいて、そこをクロスファイアポイントにすれば、突撃してきた敵を簡単に潰せます。敵の誘導と突撃破砕射撃を組み合わせれば効率的な戦闘が出来るはずです」
万歳突撃に対する有効な戦術は突撃破砕射撃だ、アメ公から学ぶのは癪だがな。無秩序な集団を撃退するなら有効だろう。
「君は本当に物知りだな……すまんが、もう少しわかりやすく言ってくれ」
「はい、クロスファイアポイントってのは十字砲火ですね。要は、複数方向から一点を集中射撃する。突撃破砕射撃は、敵が見えてようが見えてなかろうが、その地点に攻撃を加えて確率的に死傷させる戦術です」
こんなミリタリー知識が役立つとは、世の中わからないものだ。
つまりは敵を誘導して一網打尽、定置網漁のようなもだな。
「やけに詳しいな。軍にいたのか?」
「いえ。必要になると思って勉強しただけです」
「なるほどな。わかった。でもこっちにも腹案があるんだ」
腹案? ちょっと気になるな。
「ぜひお聞かせください」
「簡単なことだ。さっきの戦いで捕虜を得たからな。そいつらから敵のアジトを聞き出して、逆にこっちから仕掛けてやろうと思ってる」
先制攻撃か。攻撃は最大の防御。理にはかなっている。
「それはいいですね。IED……即席爆弾とかは作れませんか?」
砲弾や火薬を再利用した手製爆弾ならすぐ作れるし、火力は被害を小さくするのに最も有用だ。
「爆薬はある。大岩を砕くのに手に入れたダイナマイトを三本ひと組にして、ダクトテープでまとめたのが8セット。正規品だから信頼性はある」
「なら、釘とかの金属片を巻きつけてください。破片が飛んで加害範囲が広がりますよ」
「わかった、そうしよう」
俺はかなり年下だし村からすれば外の者、普通なら渋い顔されてもおかしくないんだがちゃんと聞いてくれるな。
「今更ですけど、何故若造の話を真面目に聞いてくれるんですか?」
気になって思わず訪ねると苦笑いをされた。
「なんだ、いいアイデアがあるなら、年長者の威厳なんて捨てるさ。俺は狩りや現場の段取りは得意だが、勉強はからきしでな、文字も読めんし計算も指の本数を超えるとあまり自信がない」
威厳を捨てると堂々と言ってのけるあたり、この人の度量の広さだろうしそれこそが威厳・求心力となりえるのだろう。
それにしても一つ気になったのが文字が読めない、つまりは文盲と言う事……コレは予想以上にこの惑星の状態は悪いかもしれない。
「ありがとうございます。あとは捕虜から情報を引き出すだけですね」
「さっさと白状してくれりゃいいが、皆が恨みを溜めこんでるから、まともな扱いは受けてないかもな……」
「ああ……」
この状況じゃ、モラルは下がりっぱなしだろう。
「様子を見に行くか……?」
ボリュシュは嫌そうな顔で俺をうかがう。顔に出るタイプらしい。
「……行きましょうか」
おそらくは、ろくでもないことになってるんだろうな。
.txtファイルの作成日を見たら、2024年11月18日になっていました。
この物語を書き始めたのはファイルの作成日から見て2024年5月27日なので、キャラ設定やプロット作成、細かい設定調整、さらには二輪免許取得で止まっていた時期を考えると、それくらい経っていても不思議ではありません。
ただ、初期の構想と比べると相当ブレまくっていますね(苦笑)。
元々のプロットは5万~10万字くらいの軽いお話のつもりでしたが、今のプロットでは100万字を超えても終わるかどうか……。仕事をしながら長編を書くのはなかなか大変です。
そもそも投稿を始めたのも、自分に喝を入れるためでしたし...何とか頑張りたいと思います。
更新は不定期になりますが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
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