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第三十五話 最初のポグロム

ルビャネツク市の事件が世間を騒がせている間、ここルーロー市でも一大事件が起きようとしていた。

「各々集まったようだな」

 会議室には十一人もの男女が集って机の上に広げられた地図を睨んでいた。

「よろしい、では最後の確認を行う」

 そう言って彼は指し棒を手に取った。

「まずスラム西方の通りはガロス自警団とバンス自警団、路地をメナドル自治団」

 地図上に駒が置かれ、西方側に抜ける道は閉ざされた。

「次に北方の小道にはラスカル通り警備団、北東の裏路地には農村自警共同体の若手が、東方の通りには農村自警共同体の主力、小道にはライン、メーヌ自治団」

 これで二方に駒が置かれ囲まれることになる。逃げ場はただ一つ、農村部側のみ。

「残りの全ての者たちで農村部側で罠を張り、逃げ出てきた害虫を叩き潰せ!」

 既に落とし穴、闇夜では見えないよう黒染めなどをした有刺鉄線など罠が張り巡らされている。

「では最後に主力の義勇警察隊と我々がスラムに突入し、無法者たちに犯されし地を浄化する。それによりこの都市に蔓延る害虫を駆除し尽くす!」

 斯くしてこの地に……いや、惑星の歴史に刻まれる、この惑星で最初に行われた大虐殺事件が起きようとしていた。


――――――――


帝国暦3202年3月27日21時04分

 数百人からなる一団がスラム街を静かに、そして速やかに封鎖した。

 街道はトラックや立て看板などを利用した遮蔽物、さらには牧畜業で使われていた有刺鉄線で封鎖された。

 武装した自警団が展開し、リヤカーで土嚢を運び込み簡易な遮蔽物を作る部隊もあれば、何もしない部隊もあった。

 農村部側に展開した部隊は、いくつか蛸壺陣地を掘り、射線を確保しながらも、いくつかの地点では追加で逆茂木を設置していた。

 そしてこの時の警察では、青年警官による工作が成され、静かな離反が行われ夜警の数的な量が低下していたのに加え、ルートがいくつか変更されていた。

 それら工作によりスラム街周辺地域に警備上の空白地帯が綺麗に出来上がっていた。

 スゥパルタックル団の影響力は、警察に、議会に、何より民心に着実に浸透していた。

 市民の、市民による、市民の外科的処置。

 勇気ある者は唱えよ、彼らを追放せんと!

 悪の温床は根絶されねばならない。

 路上に張り出されたポスターは、彼らの一大マニフェスト「浄化」を掲げ、それが今日実行されようとしていた。


 その事件は、センチネル‐9M型の銃声より始まった。

 鳴り響いた銃声にスラム街の住民は驚きはしたが、特段大騒ぎとはならなかった。

 良くも悪くもスラム街では暴力沙汰が日常化し、銃声というのも週に何度か聞くような音となっていたのだ。

 それに続くように再び銃声が鳴り響いた。

 ダン、ダン ダン、ダン

 警察用の標準弾薬である9×19mm JHP弾。

 使われた火器は警察標準装備の通称ドルニエ拳銃、正式採用名称DM‐1。

 ドルニエ自動貨車工業製の平凡な性能の拳銃であったが、当然人を殺傷するには十分な性能を有していた。

「Enemy KIL」(エネミー・キル)

「次だ」

 部屋一つ一つを襲撃し、時には斬殺、時には銃殺。そう続けばさすがのスラム街の住民とて逃げ始める。

 ギャングの抗争か、警察と誰かの衝突か、元々の周辺住民のとの衝突か、そう考えて事態を把握していないまでも危険であることを認識して逃げようとするが、そこに逃げ場など無かった。

 逃げようと東西南北の各通りからスラム街の外に出るルートに向かっても、そこでは待ち構える者たちがいた。

「撃て!!」

 号令と共に拳銃、散弾銃、リボルバー、ライフル、様々な雑多な銃声が鳴り響き、接近してくる敵を自警団員は撃ち倒していく。

 手が震えて照準が定まらない若者もいれば、作業のように無感情に淡々とトリガーを絞る中年もいた。

 ただ統制射撃で誰が殺したか分からなくする配慮がなされていた。

 スラム住人たちも抵抗は行った。ただそれは雑多な散発的なもので組織的抵抗とはなり得ず、それら脅威は排除されていった。

「ウエェェェ」

 嘔吐する自警団員もいれば、何も感じず平然としている自警団員もいる。

 死体に唾を吐きかける者もいれば、遺体を遮蔽物代わりにされないよう脇へ蹴り転がす者もいた。

 戦闘が拡大して逃げ惑う住人。そしてスラム街から逃げようとすれば射殺された。

「撃て撃て撃て!!」

「おら! 火炎瓶だ!! ほぉら、明るくなったろう!」

「クソッアアァ! いてぇよ」

 特に東側は逃げようとするスラム住人と自警団との激戦地となり、双方大きな被害を出した。

 特にここでは土嚢などの遮蔽物を持ち込まず、スラム住人との交戦が始まると道路脇の遮蔽物に隠れ、結果射撃人数が減り、処理が遅れたのが原因と後で分析された。

 そして警察は、周辺部住人からの「スラム街での銃撃戦」の通報があっても動かず、不干渉の構えであった。


 そんな最中ある家族が、スラムの中に作られた比較的安全な場所に逃げ込んで難を逃れようとした。

「ここなら安全だ」

 夫妻に子供二人。スラム住人の中では上澄み寄りだった彼らは、銃撃戦の度に家の下に掘った半地下室に隠れていた。

「お父さん、今日のは激しいね」

「あぁ、すぐに終わりそうにはないな」

 怯える子供たちを宥めながら、彼らは嵐が過ぎるのを待っていた。

 そのような者たちのほとんどは目を付けられており、中に火炎瓶やIEDを放り込まれ効率的に処理されてゆく。

 家の中に侵入した男たちは目標がいないことを確認すると、台所にあった半地下扉を探し出した。

「ここか、用意は?」

「あぁ、一個あれば十分だろう」

 一人が扉を開けると中に点火したパイプ爆弾を投げ込み、すぐに扉を閉めた。

 ドン!

 幸いと言って良いのか分からないが、この攻撃からは末娘一人が生き残った。

 逆に言えば彼女以外が破片に貫かれ“浄化”されてしまったが。


 そしてそんな虐殺を支援したのもまたスラム街の住民であった。

 スゥパルタックル団は何人ものスラム住人を懐柔し、彼らを積極的に虐殺に参加させ、代わりに彼らの家族の命を保証し、食料などの物資を提供した。

 餅は餅屋。スラム住人のことはやはりスラム住人がよく知っていた。


 その夜、スラム総人口の約四分の一近い二千八百人の人々が一夜のうちにこの世から消えた。

 平均化すれば一人十人以上を一夜で殺害したことになるが、当時の警察と政府にそのような正確な統計を取る能力も意志もなく、警察の「スラムでの大規模抗争により数百人が死傷した」という発表が長らく表向きの正史となった。

 死体は出来るだけ集められ、ヘッセルマンエンジンを使う大型トラックの荷台にゴミのように積まれ、郊外でまとめて燃やされてから埋められた。


 議会もこの事態を黙殺した。

 支持を失うことを恐れたのもあったが、誰よりも彼らがスラム街の住民を疎ましく思っていた。

 税も納められず、治安を悪化させ、教育をまともに受けていないが故に労働資源としての価値も低い。

 警察もこれに関わった者たちに特段処罰を与えず、議会は黙殺した結果、同様の浄化作戦が再び繰り返されることとなる。


――――――――


ルーロー市虐殺事件

 ルーローでは治安悪化、食料価格高騰、政情不安などから市内で不満がくすぶっていた。

 その中で極右勢力として台頭したのがクロキを長とするスゥパルタックル団であった。

 彼らは治安悪化と食料価格高騰の原因は経済崩壊を起こし、そこから流れてきたハールス市のスラム住人にあるとして彼らを暴力的に排除することで治安回復とこれ以上の食料価格高騰を防げると主張した。

 そしてこの主張は、暴力的に排除するのか、追い出すに止めるかの論争はあったものの広く市民に受け入れられた。

 実際この流民が職にあぶれて犯罪者となることは既に一般化しており、警察の対処能力を超える犯罪から各自治体で自警団が組織されていたのがこの問題に拍車をかけた。

 そしてスゥパルタックル団は、このスラム浄化を支持する自警団や一部の青年警官と共にスラム浄化作戦を行い、数千人単位でスラム住人を老若男女問わず殺害した。

 彼らは住人をその場で射殺や斬殺を行い、彼らの少ない財産を略奪した。

 ルーロー市警察及びルーロー市議会、市長はこれを黙認した。

 ある店主は「ざまぁみろ」と喜び、ある議員はあまりの非道とそれを支持する民心に恐れ慄き、ある娘は亡き両親の復讐を誓った。

 この事件を発端として、惑星各都市で勝手に住み着いた住人、特に下層民を対象とした虐殺事件が発生してゆく。

 そしてこの事件より後に惑星全体で行われる虐殺行為を総じて"ポグロム"と呼ばれることとなる。

 スランプからの浮気性が発動して別の物語を書きこしてしまうダメな投稿者です。

 その...趣味の共有として投稿しているだけですしクルシテクダシア...。


 更新は不定期ですが、気長にお付き合いいただけると幸いです。


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