第二十九話 回復
多分二週間ぐらい経ったと思うが、ようやく歩けるようになった。
一時はマジで死ぬんじゃないかと思うほど調子が悪かったが、今は以前のように元気だ。
「よっ!」
リハビリを兼ねて薪割りをしているが、問題なく斧を振り下ろして叩き割ることができる。
にしてもソフィアには苦労をかけたし、何とも頭が下がる。
だが、俺がごろごろしている間にも事態は悪化するばかりだ。
食糧が少ない。具体的にはあと一週間分もない。
ソフィアはもちろん本職の狩人ではない。半農で畑に来る害獣・害鳥の駆除がメインの、狩人とも言い切れぬ中間的存在だ。
だから追跡技術に些か難があるし、その仕事上使うのは 7.62×54 mm ではなく .22 LR のライフルやショットガンの類になる。
つまり獲物のメインがリスや鳥、兎であって、稀に畑を荒らす大型動物を狩る程度。
この一週間のあいだカリブーは居なかったようで、やたらと鳥ばかり食べていた気がする。
鳥は餌場をいくつも見つけたらしいが、カリブーは全然だめらしい。
そこで諦めて自分のショットガンとマーチンの二本立てで狩りをしていたらしい。
マーチンだとリスや兎が狙いやすくて、鳥の次にリスを沢山食べていた気がする。リスは身が小さいこと小さいこと。
しかし、明日からはいい加減俺も出ないとな。
幸いアマリットは一応なめし作業ができるから、ヘルミとリサに俺が監修しながら教えてくれた。
二匹ほど兎の皮がパーになったが、勉強代だろう。
それに今はどんどん売れる物を増やす必要がある。
「それでどうするよ、一度村の様子を見に行くか?」
正直どうなっているのか気になるし戻りたいが、リスクが問題だ。
「だめ」
即反対したのはやはりソフィアだった。そりゃそうだろうな。
「うーん、危ないからやめた方がいいと思うけど、帰れるなら帰りたいし……少し見に行きたい」
リサは消極的だが賛成といった感じか。
リサは家族がどうなったか誰一人分からないと言っていたもんな。
「危ないって、絶対あいつらが村を乗っ取ってる」
その可能性は五分五分だと俺は思っているんだけど、それは今は言わないほうがいいか。
「じゃあここで冬越えをするか? 出来ないことはないと思うけど、博打要素が些か大きいと思う」
何せ食料調達を自然に依存する以上運との戦いになるし、さすがに毎日カリブー狩ります、とはいかない。
「雪解け前に一度テントの場所は変えないとだめだけど、私はここで冬越えをしながら街との取引とみんなの情報を集めたいと思ってる」
なるほど。ソフィアの関心は逃げ延びたであろう仲間達だと見える。俺もそれは心配しているが、そうポンポンと見つけられるとは思っていない。
ただ目星は幾つか付いている。
この前俺達も行ったルーロー市が第一候補だが、それ以外だった場合見つけるのは困難を極める。
何せ大体の街から小さな村まで候補に入ってしまう。
冬は人の動きがないため情報が断絶しがちなこの惑星で人捜しとは難しいことなのだ。
「ならばルーロー市か……頭が痛いな……」
ルーロー市には近寄りたくないんだけどな……あそこは治安悪化が確実な街だし。
金が欲しいし今年もルーロー市の射撃大会とかやってくんないかなぁ……はぁ、無理だろうなぁ……。
「分かった。売り物を揃えたら、か、食べるものがなくなったら再びルーロー市に向かおう。村に戻るのは少なくとも雪解け後ぐらい。それでいいか?」
「私はそれでいい。リサは?」
「うーん……少し村が気になるけど敵が居座ってるかもしれないのは分かってるから」
消極的賛成といった感じか。何にしても明日からは頑張らないとな。
――――――――
カイが復活してからソフィアのピリピリした雰囲気も落ち着き、私達の空気も良くなった。
それに食べ物も格段に増えたし薪とかを運ぶ効率が段違い。
私がひーひー言いながら橇に載せた薪を運んでいたのを、カイは切った丸太を直接引いて家まで持ち帰ってきた。さすがにその時は息を切らしていたけど。
「何作ってるの?」
アマリットがトイレ用のかまくら作りを終えたのか戻ってきたみたい。
「今はお皿を作れないかなと思ってる」
皿とか食器が足りない問題解決のために薪を何個か小さく輪切りにしてもらってナイフで削ってるけど、これが難しい。
均等に内側へ向かって傾斜させるのは諦めて、今はささくれなどをきれいにして、食べ物を載せても大丈夫なお皿を目指している。
ザラザラした石とかがあればいいけど……川原は今は雪の下……。
「ただいま」
ヘルミちゃんも帰ってきたけど、少しテンションが低い。
最近知ったのだけど、この姉妹あんまり仲が良くない。
決して不仲という訳ではないけど……二人とも性格が違って、それが不和に繋がっているように思う。
ヘルミは帰るとそのままベッドに寝転んでしまった。
ベッドに顔を突っ伏して――あれはカイの残り香を嗅いでいるのかな?
完全なお兄ちゃんっ子ね……。
「ほら、二人とも少し休んだら皮をなめすのよ」
やはりカイはプロの狩人なんだなと思う。昨日の今日でクズリを一匹狩ってきた。
肉は正直臭いし美味しくないけど……今は贅沢を言ってられないし仕方ない。
いま頑張って煮込んで、煮込んで、煮込んでアクを取っている。
「リサ!」
外からソフィアの声がした気がして、テントの入り口から顔を出してみたら走って帰ってきていた。
「あれ? カイは?」
「大きなヘラジカを仕留めて解体してる。人手だと運べないから」
煮込んだ甲斐がない……私、調味料がないならないなりに食べやすいように頑張ったんだけどなぁ……。
まぁ、不味い肉より美味しい臭くない肉のほうがいいけど。
「手伝うわ。アマリットちゃん、私の代わりに火を見ててね」
鍋は任せて、スノーモービルにつなぐための橇と固定用の紐を持ってきた。
「それじゃ行ってくるから」
スノーモービルに乗ったソフィアを見送った。
「はぁ~」
不味いけど煮込んでマシになった肉……どうしようかなぁ。
皆さまこんばんは。本日は少し早めの投稿です。
個人的には、日曜日を定期更新日にしてもいいかな?と思いつつも、
「投稿に追われる日々」はなるべく避けたい気持ちもあり、少々悩んでいます。
私は書籍化や商業的な野望があるわけではなく、あくまで趣味の延長として書いている者ですので、そのあたりはどうかご容赦いただければ幸いです。
さて、今日は少し穏やかに、現代の民主主義についての私見を少しだけ。
民主主義とは、国民が主権を持ち、自らの意思によって政治を運営する体制です。
現代においては、選挙や議会を通じて政治権力を委託する間接民主制が主流です。
これは、成熟した市民が公共の利益を考え、情報に基づいた判断を下すことを前提としています。
しかし現実には、優秀な人材の多くが政治よりも民間へ流れる傾向があり、
政界には世襲や人気先行の人物が残るという構造的な偏りが見られます。
その結果、民主主義はしばしば衆愚政治の前段階に陥ることがあります。
短期的な人気取りに重点が置かれ、長期的な課題や構造改革が後回しにされてしまう。
本来の理想とは裏腹に、民主主義自体が自壊の危険性を孕む制度へと転じるのです。
政治とは人の手によって動かされるものであり、法治主義も人治主義も、どんな体制も結局はそれを運用する人間の資質に左右される――私はそう思っています。
完璧な人間など存在しません。
それでも、妥協と決断のはざまで、困難な時代を生き抜く人々の物語を、これからも描いていきたいと思います。
更新は不定期ながら続けてまいりますので、今後とも応援いただければ幸いです。
感想・ご意見・評価・ブックマークなど、どれも大きな励みになります。
引き続きよろしくお願いいたします。